2012年02月03日
ウォルタ-・アイザックソン著『スティ-ブ・ジョブズ』〈1〉〈2〉
ジョアン・シーブルはイスラム教徒のティーチングアシスタントのアブドゥルファクター・ジョン・ジャンダーリと付き合い、23歳のとき妊娠する。ジョアンの父親の反対があって、二人の結婚は難しく、生まれた子を養子縁組に出す。その子は機械に情熱を傾ける高校中退のポール・ラインホルド・ジョブスと母親アルメニア移民の娘クララの息子となった。彼の名はスティーブン・ポール・ジョブスである。
この本はスティ-ブ・ジョブズ公式自伝である。ジョブスはつい最近亡くなったこともあって、この本は発売前に話題となり、発売当時ベストセラーランキング上位に入っていた。
私はウィンドウズユーザーなので、マックに関してはまったくの素人である。その素人である私もアップルの製品にはかなり関心がある。なんと言ってもそのデザインのかっこよさと、製品がいつも世界の関心を引くものばかりを作ってきたことは、どうしてそれが可能であったのか、興味が尽きない。
特にアップルが新製品を発表するときのジョブスはプレゼンテーションの帝王と呼ばれ、「ジョブスのプレゼンテーションにはドーパミンを放出させる力がある」とまで人々に言わせた。
ジョブスの製品ショーは緻密に組み立てられていて、ステージに上がったジョブスは、ジーンズにイッセイミヤケの黒のハイネック姿で水のボトルを持ち、ゆったりと歩く。会場はミサを助ける侍祭があふれており、企業の製品発表というより宗教的な伝道集会といった雰囲気だ、と著者は書いている。もちろんその演出を完成させるために、ジョブスは何度も思い悩み修正して完璧なものとしていた。
アップルの創始者であり、経営者であり、プレゼンターであるスティ-ブ・ジョブズがどういう人物であったのか、そのカリスマ性に興味が尽きない。その人の自伝であるこの本が面白くない訳がない。
ジョブスとアップルの歴史も興味深い。ジョブスの学生時代の素行から大学入学、中退。ビデオゲーム会社入社。インド放浪。アップル創業。AppleⅡの大ヒット。アップルⅡは、その後16年間、さまざまなモデルが総計600万台も販売される。パーソナルコンピュータという産業を興した立て役者と言っても過言ではない。
そしてアップルから追放され、NeXTを立ち上げる。さらにピクサーでの大成功後、再びアップルに復帰。業績が落ち込んでいたアップルを再建し、2000年にアップルのCEOに就任。iTunesとiPodによって音楽事業に参入し、さらにiPhoneで携帯電話事業にも乗り込んでいく。そしてタブレットのiPadの衝撃発表となる。その間自ら膵臓癌におかされ、痛みと闘いながら、アップルで立て続けにイノベーションを開拓していく。そして2011年10月5日、膵臓腫瘍の転移による呼吸停止により死去する。
ざっくりスティーブ・ジョブスの生涯を書けばこういうことになるのだが、その場面その場面、ジョブスが置かれていた状況がスリリングで、いかにもジョブスらしい方法で対処していくあたりは、面白くて仕方がなかった。
結局ジョブスの性格、考え方がそのままアップルに反映されていたことになるのだが、ときにはそうした独断専行の立ち居振舞いは反発を買い、追放劇となる。しかしアップルはもともとジョブスなしにはアップルであり得ない会社であったため、必然カムバックとなる運命であったのかもしれない。
この本を読んでいてたえず感じたことは、製品に対するジョブスの思い入れであり、製品だけでなくパッケージのデザインまでこだわる姿勢である。その製品も外観だけでなく、中身も美しさを求めた。
後にジョブスがガンでほとんど意識がない状態でも、その強烈な性格はおさまらず、たとえば呼吸器科の医師がマスクをジョブスにつけようとすれば、こんなデザインのものは身につけないとつぶやき「デザインの違うマスクを5種類もってこい、そうしたら気に入ったデザインのものを選ぶから」と言うし、指に付ける酸素モニターも不格好で複雑すぎるときらい、もっとシンプルにデザインする方法を提案していたという。
そして製品にとことんこだわったことで、その他人がそれに手を加えることを嫌った。
「そんなことをしたら、みんな、勝手なことをしてぐちゃぐちゃにしてしまう」
と言って、マックがユーザーに改造されるのを嫌い開けられないよう特殊なネジした。ipadをカバーするケースでさえ、ユーザーが独自に付けることを嫌った。せっかくこだわって作ったものにちんけなケースをかけるなんてとんでもない、ということなのである。
ではなぜジョブスは製品の中身から外観、そしてそれを梱包するパッケージまでこだわったのだろうか?それは養子先の父親の影響による。ここでスティーブは父親から機械や車について手ほどきを受ける。もの作りに対する父親の姿勢に感銘を受けるのである。
「おやじはデザインの感覚が鋭いと思ったね」
「きちんとするのが大好きな人だった。見えない部品にさえ、ちゃんと気を配っていたんだ」
かつてジョブスは父親から、優れた工芸品は見えないところも美しく仕上がっているものだと教えられた。これをジョブスがどれほど突きつめようとしたかは、プリント基板の例を見るとよくわかる。チップなど部品が取り付けられたプリント基板はマッキントッシュの奥深くに配列され、消費者の目には触れない。そのプリント基板でさえジョブスは、美しさを基準に評価した。
重要なのはどれだけ正しく機能することであって、PCボードなど見る人などいないじゃないかと新人のエンジニアは反論する。
それでもジョブスは「できるかぎり美しくあってほしい。箱のなかに入っていても、だ。優れた家具職人は、誰も見ないからとキャビネットの背面を粗悪な板で作ったりはしない」と言うのである。
隠れた部分にも美を追究するという父親の教えにつながるものを、ジョブスはマイク・マークラから学んだ。パッケージやプレゼンテーションも美しくなければならないのだ。
確かに人は表紙で書籍を評価する。だからマッキントッシュの箱やパッケージはフルカラーとし、少しでも見栄えがよくなるようにさまざまな工夫をした。
さらにスティーブの実家のあたりは、ジョセフ・アイクラーというディベロッパーの建売住宅だったこともその後のジョブスに多大な影響を与える。
「アイクラーはすごい。彼の家はおしゃれで安く、よくできている。こぎれいなデザインとシンプルなセンスを低所得の人々にもたらした。優れた機能があれこれと用意されていたのもいい。床暖房とか、ね。そこにカーペット敷くと、ほかほかと暖かく、子どもにとって最高の床になるんだ」子どものころ、アイクラー・ホームズはすごいと思ったからこそ、のちに、くっきりとしたデザインを持つ量販品に情熱を燃やすようになったと、スティーブはアイクラーのクリーンなエレガンスをたたえる。
「すばらしいデザインとシンプルな機能を高価ではない製品で実現できたらいいなと思ってきた。それこそ、アップルがスタートしたときのビジョンだ。それこそ、初代マックで実現しようとしたことだ。iPodで実現したことなんだ」
アイクラー・ホームで育った子どもはたくさんいるが、ジョブスは、それがどういう家でなぜクールなのか知る珍しいタイプだった。大衆向けのすっきりとシンプルな現代建築という考え方が好きだったのだ。
父親から、さまざまな車のスタイルがどう違うのか、細かな説明を聞くのも好きだった。だから、アップルを創業した最初から、カラフルながらシンプルなロゴやアップルⅡの優美なケースなど、優れた工業デザインが会社にとっても製品にとっても差別化の鍵をにぎると信じていた。
「我々がデザインの主眼に据えていますのは、“直感的に物事がわかるようにする”です」
さらに、
「洗練を突き詰めると簡潔になる」
これは宗教的ストイックさを感じさせるが、実際ジョブスは禅に多大な影響を受けている。
「スティーブは禅と深くかかわり、大きな影響を受けています。ぎりぎりまでそぎ落としてミニマリスト的な美を追究するのも、厳しく絞り込んでゆく集中力も、皆、禅から来るものなのです」
とにかくアップルで作られる製品にはすべてにこだわった。著者は最後で次のようにジョブスとアップルとの関係をまとめているが、まさにその通りだ、と読んでいて痛感してしまう。
スティーブ・ジョブスの性格はその製品に反映されている。1984年初代マッキントッシュからiPadにいたるまで、ハードウェアとソフトウェアをエンドツーエンドで統合するのがアップル哲学の中核であるように、ジョブスも、その個性、情熱、完璧主義、悪鬼性、願望、芸術性、中傷、強迫的コントロールといった要素すべて、ビジネスに対するアプローチにも、そこから生まれる革新的な製品にもしっかりと織り込まれている。
ジョブスの個性と製品をひとつにまとめる“統一場理論”は、もっとも目立つ彼の特質、すなわち激しさが起点となる。
まさにその通りなのだろう。ジョブス=アップルなのだ。だからアップルの製品にはジョブスのすべてが表現されている。しかし会社は個人でやっているわけじゃない。多くの人がその製品に関わっているはずだ。その中でジョブスが自分の主張を強く主張すれば、ある意味、会社内での独断専行の立ち居振舞いとなろう。ジョブスの言動にとげがあるのは完璧主義者だからという面もあれば、スケジュールと予算にしたがって製品を出せるように現実的な妥協(賢明な妥協のこともある)をする人間が許せないからであった。
カリスマ的な物言い、不屈の意志、目的のためならどのような事実でもねじ曲げる熱意が、それが人びとの言う「現実歪曲フィールド」であった。ジョブスはこの「自己実現型の歪曲」で、不可能だと認識しないから、不可能を可能にしてしまうのである。可能かもしれないと思わせるところがすごいのである。
ジョブスが極端な言動に走るには、他人の感情を思いはかる能力がないからだろうか。そんなことはない。むしろ逆だと言える。ジョブスは感情というものがよくわかっている。他人の心を読むのも、他人の精神的な強さ・弱さ、自信のなさを把握するのもおそろしいほど上手である。不意をつき、狙いすました一撃をバシンと感情にお見舞いして揺さぶりをかけることもできる。本当にわかり、説きふせたり喜ばせたり、あるいはまた、脅かしたりすることも名人級に上手なのだ。
しかしジョブスのような性格は付き合いにくそうだ。ジョブスの言っていることを実行に移せば、他に見ない製品となってしまうからどこか宗教的なカリスマ性を帯びてしまうのかもしれない。
このようにジョブスはなんでも自分がコントロールしないと気がすまない性格だが、同時に、先行きが不透明だと思うと、優柔不断となり、前に進めなくなってしまうという。
完璧を求めるあまり、中途半端なもので妥協したり、可能なものでがまんしたりが上手にできない。複雑なものへの対処も好まない。製品についてもデザインについても、自宅の家具についてもそうだ。
この性格は、やる気や姿勢にもはっきりと表れる。これは正しいと確信したジョブスは誰にも止められない。しかし少しでも疑いがあると消極的になり、自分にとって必ずしも都合のよくないことを考えずにすまそうとするらしい。こうなる背景には、人間はヒーローかまぬけ、製品は驚異かゴミなど、なんでも白黒に二分したがる彼の性格からだと周りの人間は見ていた。
「すばらしい才能に恵まれた人の多くがそうだと思うのですが、あの人も、すべての面で非凡なわけではありません。たとえば、他人の身になって考えるといった社会的スキルは持ち合わせていません。でも、人類に新たな力を与える、人類を前に進める、人類に適切なツールを提供するということを、あの人は心の底から大事にしています」
さて、すべてをエンドツーエンドででコントロールしたいというジョブスの欲求はビル・ゲイツが率いるマイクロソフトとは基本的にスタンスが両極端である。一方がクローズドであり、一方がライセンス制をひくことでオープンをとる。最終的にはマイクロソフトが市場を席巻することになるのだが、アップルもこのままではいられない。
その中でパーソナルコンピュータはデジタル革命の中心であったが、ジョブスとウォズニアックがアップルを創設して25年には、その役目を終わろうとしていると考える人が出てきた。
このような時代にジョブスは、アップルを変革し、同時にテクノロジー業界全体さえも変革しようとする壮大な構想を打ち出す。パーソナルコンピュータは脇役になどならない、音楽プレイヤーから、ビデオレコーダー、カメラに至る、さまざまな機器をコンピュータにつないで同期する。そうなれば、音楽も写真も動画も情報も、ジョブスがいう「デジタルライフスタイル」のあらゆる側面をコンピュータで管理できる。このことはハードウェアからソフトウェア、コンテンツ、マーケティングにいたるまで、製品のありとあらゆる側面を一体化するアップルのような企業には有利である。そのような形なら、モバイル機器のコンテンツをシームレスにコンピュータで管理できるからだ。
パーソナルコンピュータを「デジタルハブ」として、音楽プレイヤー、ビデオレコーダー、電話、タブレットなど、いわゆるライフスタイル機器につなぐ。シンプルに使えるエンドツーエンドの製品を作るというアップルの強みと相性もいい。こうして、ハイエンドのニッチを狙ったコンピュータ会社は、世界トップの価値をもつテクノロジー企業へと変貌していく。
最初はiPodから始まる。もちろんここでもジョブスの今までの発想が遺憾なく発揮されている。なるべく多くの機能をiPodではなくコンピュータのiTunes側で行うことで、iPodをよりシンプルし、使い易くする。そのシンプル極地がiPodにオン・オフのスイッチを付けなかったことである。また同期をコンピュータからiPodへは曲が送れるが、iPodからコンピュータに転送出来ないようする。そうすることで違法コピーをできなくさせるというものであった。(ただこれは曲データを他の記憶媒体に落とし込み、他のパソコンへコピーすれば可能だろう)
iPodは、最初マック専用であった。だからiPodの爆発的人気でマックも予想以上に売れた。しかしアップル幹部は、アップルはマック事業だけでなく、音楽プレイヤー事業にも乗り出すべきという意見が多くなり、そうなるとiPodがマック専用ではまずい。ウィンドウズでも使えるようにしなければならない。当然ジョブスは反対した。しかしそのジョブスも幹部の意見に折れた。
ウィンドウズ用のiTunesソフトウェアも大人気となる。ジョブスはウィンドウズ用のiTunesソフトが人気になっていることについて訪ねられると、「地獄の業火に焼かれている人に冷たい氷水をあげている気分だよ」と言っている。
iPodは大人気商品となった。けれど心配もあった。携帯電話である。もし携帯に音楽プレイヤーが搭載されれば、携帯は誰でも持っているのでiPodは不要になる。デジタルカメラの市場がカメラ付き携帯電話の普及で食い荒らされたのと同じ運命をたどりかねない。そうなる前に自分たちでやって作り上げたのがiPhoneであった。もちろんその設計もiPod同様侃々諤々と議論され、アップルの基本姿勢であるシンプルでありデザイン性に優れているものが求められた。
実はそのころアップルでは、プロジェクトがもうひとつ進められていた。タブレットコンピュータの開発が秘密裏に行われていたのだ。2005年、ふたつの話が交わり、タブレットのアイデアが電話プロジェクトに伝えられる。つまり、iPadが先にあり、それをもとにiPhoneが生まれたらしい。
そのタブレットコンピュータである。ジョブスは、本当はスタイラスペンなしで使えるタブレットコンピュータをいつか世の中に示したいと考えていた。当時スタイラスペンや普通のペンを使って入力するタブレットコンピュータはいくつか発売されていたが、いずれも大したことがなかったから、ここに市場が見出せた。その結果はご存じの通りである。
iPadとアップルストアでは、出版から報道、テレビ、映画にいたるあらゆるメディアに変革をもたらす結果となった。ちょっと前までは著名人のiPodに何が入っているかが話題になったが、今度はiPadに何が入っているか話題となるのである。
時代はものすごいスピードで変化している。コンテンツのハブがデスクトップコンピュータではなくなり、「クラウド」に移る。つまり、自分のコンテンツは、自分が信頼する会社の管理するサーバーに保管し、どこにいてもどういう機器を使っていても、必要なときにさっと呼び出せるようになる。このビジョンを実現したのが、iCloudであった。ただジョブスの病状は悪化する一方で、実質ここまで関わることなく、その生涯を終えたことになる。
ジョブスとビル・ゲイツとの関係に触れたい。特にGUIに関してのやりとりは面白い。
マイクロソフトは、DOSと呼ばれるオペレーティングシステムを開発し、IBMのコンピュータやIBM互換機にライセンスしていたが、「C:¥>・・・・」というようなつっけんどなプロンプトにユーザーが対処しなければならない従来型のコマンドラインインターフェースであった。だからジョブスはマッキントッシュのようなグラフィカルなアプローチの仕方をマイクロソフトがまねするのではないかと心配していた。いわゆるGUIである。
これはもともとゼロックスPARCで開発されたものをアップルがコピーして使ったものである。最初はジョブスとの話し合いで、このシステムを使わないとゲイツと約束していたが、1983年11月にウィンドウズやアイコンを持ち、マウスが使えるGUIのオペレーティングシステムをマイクロソフトが発表する。当然ジョブスは激高する。
「おまえのしているのは盗みだ!信頼したというのに、それをいいことにちょろまかすのか!」
これに対してゲイツは、
「なんと言うか、スティーブ、この件にはいろいろな見方があると思います。我々の近所にゼロックスというお金持ちが住んでいて、そこのテレビを盗もうと私が忍び込んだらあなたが盗んだあとだった-むしろそういう話なのではないでしょうか」
と反論する。これは伝説的な一言だという。結局マイクロソフトはウィンドウズ1.0の開発にかかるが、出来上がったのは粗悪品であった。当然ジョブスは落胆するが、その不完全なコピーを作ったマイクロソフトが最終的にオペレーティングシステムの戦いを制してしまった。それでもジョブスは言う。
「マイクロソフトが抱えている問題はただひとつ、美的感覚がないことだ。足りないんじゃない。ないんだ。オリジナルなアイデアは生みださないし、製品に文化の香りがしない・・・・僕が悲しいのはマイクロソフトが成功したからじゃない。成功したのはいいと思う。基本的に彼らが努力した成果なのだから。悲しいのは、彼らが三流の製品ばかり作ることだ」
ジョブスと違い、ゲイツはコンピュータプログラムを習得しており、考え方は現実的で規則を重んじる。分析能力も高い。ジョブスはもっと直感的で夢見がちだが、技術を使えるようにする、デザインを魅力的にする、インターフェースを使いやすくするなどの面にするどい勘が働く。完璧を求める情熱があり、そのせいで他人に対してとても厳しく、カリスマ性と広範囲・無差別な激しさで人を動かす。
ゲイツはもっと整然としている。きっちりとスケジュールが組まれた会議で製品レビューをおこない、緻密なスキルで問題の核心に斬り込む。
「どちらも、『頭は自分のほうがいい』と思っていましたが、美的感覚やスタイルを中心にスティーブがビルを若干、下に扱うことが多かったと思います。逆にビルは、プログラミングができないことからスティーブを格下に見ていました」
ジョブスはビル・ゲイツと会社としてマイクロソフトと今後を次のように語っているが、これがなかなか興味深い。
ビルは自分を“製品タイプ”の人間に見せたかったけど、本当のところはそんなタイプじゃなかった。彼はビジネスマンなんだ。彼にとっては、すごい製品を作るよりビジネスで勝つほうが大事だった。世界一の金持ちになったし、それが目的だったのなら達成できたわけだ。僕はそういう目的を持ったことはないし、それに、なんだかんだ言ってもビルもどうだったんだろうと思う。すごい会社を作った点は評価しているし、彼と仕事をするのは楽しかったよ。頭がよくて、ユーモアのセンスも意外にあるしね。でも、マイクロソフトのDNAに人間性やリベラルアーツはあったためしがない。マックを見ても、それを上手にコピーできなかった。本質がわからなかったんだ。
IBMやマイクロソフトのような会社が下り坂に入ったのはなぜか、僕なりに思う理由がある。いい仕事をした会社がイノベーションを生みだし、ある分野で独占かそれに近い状態になると、製品の質の重要性が下がってしまう。そのかわり重く用いられるようになるのが、“すごい営業”だ。売り上げメーターの針を動かせるのが製品のエンジニアやデザイナーではなく、営業になるからだ。その結果、営業畑の人が会社を動かすようになる。IBMのジョン・エーカーズは頭が良くて口がうまい一流の営業マンだけど、製品についてはなにも知らない。同じことがゼロックスにも起きた。
営業畑の人間が会社を動かすようになると製品畑の人間は重視されなくなり、その多くは嫌になってしまう。スカリーが来たときアップルもそうなってしまったし-これは僕の責任だった-バルマーがトップになったときマイクロソフトもそうなった。幸いなことにアップルは立ち直れたけど、マイクロソフトはバルマーが経営しているかぎり変わらないだろう。
最後にジョブスが自分の自伝を著者に書いてもらう動機みたいなものが書かれている。
「ではなぜ協力を?」
「僕のことを子どもたちに知ってほしかったんだ。父親らしいことをあまりしてやれなかったけど、どうしてそうだったのかも知ってほしいし、そのあいだ、僕がなにをしていたのかも知っておいてほしい。そう思ったんだ。もうひとつ。病気になったとき、気づいたんだ。僕が死ねば、僕についていろいろな人がいろいろなことを書くはずだけど、ちゃんと知っている人がいないって。間違いばかりになるって。だから、僕の言葉を誰かにちゃんと聞いてほしいと思ったんだ」
「君の本には僕が気に入らないことがたくさん書かれるはずだ」
私(著者)はうなずく。
「それは良かった。それなら社内で作った社長礼讃本みたいになる心配はないな。かっかするのは嫌だから、当分、読むのはやめておくよ。読むのは1年後くらいかな-そのころまだ生きていたらね」
ジョブスは最後まで自分の生き様にこだわった。ある意味最後に自分の人生をきちんとデザインして終えたかったような感じだ。でも最後のセリフはちょっと笑えた。
「一から十まで自分たちでやる会社にウォズと僕がしたから、僕らはほかの人たちとの協力が不得意になってしまった。アップルのDNAに協力という要素がもう少したくさんあったら、きっとすごいことになっていたと思うよ」
そのためジョブスは生きることに忙しくなってしまった。でもそれで良かったのだろう。ジョブスはボブ・ディランの「生きるのに忙しくなければ死ぬのに忙しくなってしまう」と言う言葉で、自分の人生を肯定しているように思えた。
評価
★★★★★
書誌
書名:スティ-ブ・ジョブズ 〈1〉
著者:ウォルタ-・アイザックソン/井口耕二【訳】
ISBN:9784062171267
出版社:講談社 (2011/10 出版)
版型:445p / 20cm / B6判
販売価:1,995円(税込)
書誌
書名:スティーブ・ジョブズ〈2〉
著者:ウォルタ-・アイザックソン/井口耕二【訳】
ISBN:9784062171274
出版社:講談社 (2011/11/01 出版)
版型:430p / 19cm / B6判
販売価:1,995円(税込)
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