2005年08月02日

阿刀田高著『コーヒー党奇談』

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 長いこと本屋で仕事をしていた関係で、データベースとして書名、著者、出版社、あるいはさわりぐらいの内容など頭に入っているものがある。
 勿論商売柄そういうことが必要であったし、今みたいに簡単にインターネットで調べられる時代じゃなかったから、頭の中にあるデータベースが結構役に立ったものだ。
 それは毎日、本を触って、棚に陳列する作業で、必然的に覚えていった。あるいは本屋で初めて仕事に就いたときなどは、ほとんど毎日一日中返品作業をさせられていたから、伝票書くうちにそういったことが頭に入っていった。
 だから、実際に本を読まなくても、雑学的な知識があり、ちょっとした会話ができちゃう。
 そんな関係で阿刀田さん著作はいくらか知っているけど、実際に本を読むのは今回初めてなのだ。何故今まで読まなかったのか不思議なくらいなのだけど、今回読んでみて、おっ、面白いじゃん!と思った。

 『コーヒー党奇談』(講談社文庫)を選んだのはほとんど書名が気に入ったためだ。私はすぐ書名で読みたいと思う傾向があって、前回のカーヴァーの本だって、たぶん書名が気にいて買ったはずだ。
 この本は、全部で12話の短編から成り立っていて、解説を読んでみると、雑誌「旅」に連載されていたものを集めたものらしい。そのため日本の各地の昔主人公が住んでいた場所や、訪れたところで、主人公の経験したこととその地方にまつわる話をうまく絡めて、話を進める。だいたいが、主人公がかつていた場所を、かなりの年月がたって、そこを訪れる。本来変わってしまっていいはずのものが、年月を経てもそこだけ取り残された感じで、余り変わっておらず、そのことがかえって不思議な物語を作っていく。そこへその地方のにまつわる話が加わってくるので、不思議さを増幅させる。でもその不思議さはくどくなく、さらりとした感じで、ちょっとした清涼感がいい。
 通常不思議な世界を描くと、妙に恐怖感をあおってみたりして、おどろおどろしくなってしまうものを、くどくなく、さらりと描き、なおかつ清涼感さえ感じさせるのは、やっぱり阿刀田さんの技量がすばらしいが成せる技のような気がする。
 私は個人的にコーヒーが好きなので、やっぱり第一話の「コーヒー党奇談」が気に入っている。話の内容を書いちゃうと面白くなくなっちゃうから、コーヒーの話を書く。
 アムステルダムの霧深い路地から美味しいコーヒーの香りが漂ってくる。隆二はコーヒーを注文する。店主は濃いめにコーヒーを入れ、シュガーを溶かし、ショット・グラス一杯のウィスキーを注ぎ、更に火を入れる。そこに白いクリームを流し込む。たった一杯のコーヒーでぐんぐん疲労が取れていく。
 この描写だけでも美味しそうと思わせるけど、その前によく地理もわからない、霧深いアムステルダムの町で主人公を歩かせ、疲れたところにコーヒーの香りを漂わせる。ありきたりのパターンのようだけど、そうすることで、更にそのコーヒーが美味しいそうだと思わせる。このあたりはうまいなぁと思う。これから続く不思議な話の「まくら」としてはいい感じだ。
 これからちょっと阿刀田さん本を読んでみようかと思わせる1冊であった。

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