2005年10月16日

横田増生著『アマゾン・ドット・コムの光と影』

2005_10_16_01.jpg


 この横田増生さんの『アマゾン・ドット・コムの光と影』(情報センター出版局)は先の森岡孝二さんの『働きすぎの時代』とセット読んでみると面白い。
 この本は基本的に、1.アマゾン・ドット・コムの歴史から、その日本上陸、そしてものすごい勢いで成長していく背景、更にアマゾン・ドット・コムが次に日本で何をしようとしているのかを書く一方で、2.アマゾン・ドット・コムを支える物流倉庫で働くフリーターやアルバイトがどんな待遇で働かされ、そのフリーターやアルバイトがアマゾンでの仕事に関してどんな意識で仕事をしているかを書いている。
 まずはアマゾン・ドット・コムの歴史からさらりと書いてみよう。
個人的に私はリアル書店(実際の本屋さんのこと。それに対してアマゾンみたいなネットで本を売る本屋をネット書店という)で働いていたときは、本を買うという行為に不自由したことがなかったし、本意関する情報にも事欠かなかったので、アマゾンに対して興味などわかなかった。 しかし、本屋を辞めて、今度は本を買うことに正直苦労していた。新刊なら本屋さん行けば買うことが簡単に出来るが、昔の本やちょっとマニアックな本など欲しいと思ってもそこにはないことが多い。注文したくても、どこでその本を注文していいのか迷ってしまった。
 こうして本屋の仕事を離れてみると、本を本屋で注文することがいかに面倒で、億劫なことなのかを知った次第だ。本屋では自由に、どんどん注文して欲しいのだけど(中にはお客さんの注文を嫌がったり、あるいは受け付けなかったりする本屋もあると聞くが、私に言わせればとんでもない話しである)、いざ本を注文してみたいと思っても、どこで、どのようにすればいいのかわからないもんだと知った。
 それに比べてネットで本を注文するのは簡単だ。アマゾンに限らず、今はだいたいの大書店ではネット注文も受け付けているから、画面上で簡単に出来る。煩わしさがなくていい。
 けど、私は本屋という現場に長くいたので、どうしても本を注文するなら本屋さんでしたいという意識が強かった。だから最初はアマゾンで注文しようかと思ったけど(1,500円以上なら送料無料だから)なんか気乗りしなかったのだ。それに欲しいと思っていた本が秋田県にある出版社なので流通上時間がかかるのか(本当は東京で仕入れることが簡単に出来るんだけど)アマゾンでは発送に1~2週間かかると書かれていたのでやめた。
 まぁ、さらりと書こうと思っていたのに、又脱線してしまった。とにかくアマゾン・ドット・コムには今でもそれほど興味を持っていないということである。でもきっと今まで以上にアマゾン・ドット・コムは日本の出版業界で大きな存在になることは間違いないだろとは思う。
 で、そのアマゾンの歴史は、1994年にジェフ・ベゾスたちが、シアトルでガレージをオフィスにして旗揚げした。そして日本には、2000年にサイトをオープンする。本の仕入れ先が問屋の大阪屋(現在はアマゾン自体が巨大になったので、小さな大阪屋では本の仕入れが間に合わないので、日販とも取引を始め、今ではかなりのシェアーを日販は占めるようになっているらしい)で、物流は日通に任せている。
 創業当時から、アマゾンは徹底した秘密主義を通し、その内情は詳しく公開されていない。アマゾンでのノウハウを他に利用されたら、自分たちの脅威となるので、従業員でさえ退職後そのノウハウを他に漏らさない、利用しないという誓約書を入社時に書かされるらしい。
 それで著者は、2003年には500億円に売上を超えたのではないかと推測している。(この数字はCDやDVDも含んでいるが、書籍だけで200億円の売上があるのではないかと推測している。)
 この業界では、1,000億円を超える売上を出しているリアル書店は紀伊国屋と丸善だけで、二番手集団が文教堂と有隣堂で、400~500億円の売上を出している。ということは、アマゾンの500億円を超える売上は、それに匹敵するかそれ以上かもしれない。アマゾンが1,000億円を超える売上を出す日もそう遠くないとしている。
 そうなると日本の出版業界にかなりの意見が言えそうである。事実アマゾンは利益率の向上を目指している。つまりアマゾンが大阪屋や日販などに仕入を依存すれば、リアル書店と同様な利益率22%しか取れない。(実はもう少し利益率は低い。というのも、大阪屋や日販が自分たちの取り分を多く取ろうとして、仕入原価を高くしてアマゾンに納品しているからだ。日本の出版物は、定価の70%が出版社、8%が取次、書店が22%が基本である)
 それで取次を通さず直に出版社と取引出来れば、取次の8%も取れる。つまり30%の利益率となるわけだ。これを「中抜き」という。出版社は本を出せば30%~40%近く返品が出てくる今の出版業界の閉塞的な状況より、ほとんど返品のない、あるいは全部買い取ってくれるアマゾンと取引した方が出版社にとって見れば、得に決まっている。アマゾンの側でも、大量に全部買い取るんだから、出版社に値引き交渉だって簡単にできるメリットがあるはずだ。だから70%以下で仕入も可能になる。これを目指しているんじゃないかと著者は推測している。
 またアマゾンでしか買えないプライベートブランド商品の開発もしている。これもかなりの利益率を生むだろう。こうしてどんどんアマゾンは巨大化していく。
 しかしそのアマゾンが巨大化していく背景は、ネットでアマゾンを利用してくれなければ話しにならない。そこでアマゾンは何をしたかというと。「小さな書店」を目指しているのである。アマゾンという巨大システムからするとこの「小さな書店」というのはちょっとぴんとこないかもしれない。
 アマゾンは確かにシステムは巨大だけど、それはユーザ一人一人を大切にした「顧客第一主義」に徹底していて、「小さな書店」とは顧客にはその顧客にあった情報をここに提供できる書店であることをいっている。
 一昔前の本屋さんがいつもお店にきてくれるお客さんがどういったジャンルの本を買っているかよく分かっていた。だからそのお客さんが何を求めているか当時の店員さんは分かっていた。時にはそのお客さんに「こんな本が出ましたよ」なんて勧めることもあった。それをアマゾンはやっている。アマゾンを利用したお客さんが何を買ったのかをデータベース化しているから、お客さんのニーズや情報を個々に提供できる。だからお客さんにとってみれば「小さな書店」である続けるのである。それは「顧客第一主義」からの発想であり、今の日本の大書店では出来ないことをコンピュータを使ってやっているのである。だからアマゾンを利用する人はリピーターが多いというのもうなずける。
 更にアマゾンを利用するお客さんが何をどれだけ買ったかというデータは当然適正仕入にも反映できるはずだ。リアル書店より無駄がない。

 あぁ~!また長くなっちゃった。本当はこれから書くことが私の最大の興味対象なのだけど、どうしてうまくまとめられないんだろうか。嫌になっちゃうなぁ。でも頑張って書こう。

 前回紹介した森岡孝二さんの『働きすぎの時代』は、フリーターやアルバイトの存在が少なくともIT化が進んだお陰で成り立っている産業、たとえば、コンビニやこのアマゾンのようなもの、通常やらない深夜産業などを支えていることはまがいようもない事実であることを書いている。
 フリーターやアルバイトがいいとか悪いとかいうのではなく、彼らがいることで成り立っている産業が現在たくさんあり、その恩恵を我々は受けていることは間違いない。
 たとえばアマゾンみたいに利用者に「簡単、便利で、手間いらず」を感じさせるものであっても、利用者がワンクリックした先には、機械やコンピュータではできない、つまりどうしても人間じゃなければできない、単純で、その分仕事に期待できない作業がある。アマゾンの場合、ピッキングといわれる、棚から注文された本を抜き出す作業などがそうである。
 アマゾンは先ほど書いたように秘密主義を徹底しているので、その経営状態が明らかでない。けれどお店を持たないアマゾンの生命線は、その物流にあると著者は考える。つまり「簡単、便利で、手間いらず」は、その物流システムがしっかりしていることがそれを支えているわけで、だからそこに潜入すればアマゾンの実態がつかめると考た。そこでアマゾンの物流を請け負っている日通の流通倉庫でアルバイトとして潜入したのである。
 私が興味があったのは、そこで働くフリーターやアルバイトの実態であり、彼らの仕事に対する意識である。採用には大した試験がある訳じゃなく、簡単な面接後、すぐ倉庫に案内され、簡単な仕事の説明の後、すぐ採用となる。時給900円(後に850円に下がる)で、交通費の支給なし。もちろん昼食代などでない。2ヶ月の期限付きで採用され、2ヶ月後に再雇用するかどうかは、それまでの成績次第。しかしどんなに成績がよくても決して時給が上がることはない。予定の勤務時間があっても、暇なときはすぐ返される。もちろん2ヶ月の期限付きで雇用されているわけだから、会社は彼らの社会保険の加入義務を負わない。そして会社は彼らに「1分間に3冊」のピッキングしろというノルマを課す。
 これはきついと思う。その棚はきちんと分類された棚ではなく、ピッキングされた後空いたところに入荷した本が入れられるだけで、ただ、棚入れ時にどこの棚に入れたかコンピュータに入力されたものが注文書のデータに記載されているだけ。つまりある場所は限定できるけど、その先は自分たちの目で探すしかないのだ。しかもなんの脈絡もないまま棚入れされているから、恐らく記憶力との勝負となるだろう。できる人でも1分間に平均2.5冊が限度だという。こうなると黙々と本を探すしかなく、おしゃべりなどしている暇などない。もちろん人やビデオカメラの監視付き。自分たちが1分間に何冊ピッキングできたかという成績データはすぐ出てくる。それを絶えず見せられ、もっと頑張れ!と尻をたたかれるか、あるいは本人達の能力のなさを思い知らせる用途に使われる。まさしく著者が言っているようにジョージ・オーエルの『1984年』の世界である。
 飴と鞭をうまく使って人を使う方法と、鞭のみでの人の使い方があるなら、アマゾンはまさしく後者の方だろう。
 結局、使用期間を2ヶ月と限定し、昇給の機会も与えない。辞めるならいつでもどうぞ!という環境であっても、それが成り立つ理由は、職を求める人間がいくらでもいることと、仕事の内容がマニュアル通りに働くだけで、能力の向上が原則的に不要とする職種だからだ。何も考える必要のない、いや考えることさえ放棄させる職場を構築できるからだ。それがIT化された職場なのだろう。そしてどうしてもコンピュータが出来ない仕事を人間にやらせるのだ。その際人件費も出来るだけ安い人件費で済むようにフリーターやアルバイトで補うわけだ。
 そんな職場環境で、たとえば仕事に対するモチベーションの向上など望めるわけがない。ただ、自分の時間を時給のために割り裂いているだけである。だから使用者側の横暴に対しても、あるいは常識的に考えてもちょっとおかしいんじゃないかと潜入した著者が疑問に思って、それを一緒に働いている同僚に聞いても、何ら反応しない状況が生まれているのである。
 たとえば本をピッキングする際、本についている帯を破ってしまうことがよくある。本当に本を愛する人なら、あるいはお客さんにそれを売るというなら、帯も本の一部であって、それがが破れていたんじゃまずいはずだ。著者は常識的にあるいは本に関わる仕事をしているから、帯が破れてしまった本はダメージ本だと考えた。だから破れてしまった帯のついた本の扱い方をどうしたらいいのか日通の社員やその上にいるアマゾンの社員に聞いた。その答えが「帯は捨てていいよ!」と簡単に言わたのであった。そんなことを気にするより、1分間に3冊ピッキングするノルマを優先させなさいと言わんばかりなのだ。
 実は私はちょっと気になっていたことがあったのだ。たとえばアマゾンのサイトでこの『アマゾン・ドット・コムの光と影』を検索すると、その本の画像が出てくる。もう一つ紀伊国屋のウエブサイトで同様に検索するとやはりこの本の画像が出てくる。やってみて下さい。

アマゾン http://www.amazon.co.jp/

紀伊国屋 http://bookweb.kinokuniya.co.jp/

 
 もう違いが分かると思うけど、アマゾンの画像には本の帯がないのである。恐らくすべての本の画像に対して帯付きはないんじゃないかと今までアマゾンで検索して感じている。そのわけがやっと分かったのだ。つまりウエブ上で帯付きの画像を載せてしまうと、配送された本にそれがないと違うじゃないかというクレームがくる可能性がある。それに案外この帯にこだわる人もいるのだ。またこの帯がその本を浮きだたせる役目をしているときもある。古本では帯付きとそうでないのとでは値段が違うのもそういう理由だ。 アマゾンはピッキングの際、帯が破れてしまうことがあることを前提として、クレームを避けるために、わざわざ帯を外した画像を載せているのだ。

 また話が横道に行ってしまった。私はアルバイトやフリーターが自ら努力もせずにその立場に甘んじている奴は擁護ない。好き勝手なことをしていて、口先だけは達者な奴などとは話もしたくない。欲望だけは強く、自分の欲望を満たすだけのために、仕事をするのはどう考えてもおかしい。(自分の欲望のために、人を殺してでもお金を奪う奴が最近多いから、そのためだけに仕事をする方がまだましかもしれないけど)そこには生活感がないからだ。
 だけどそんな奴らと一緒にリストラされたおじさんや、生活のために働く主婦を労働力としてのみ使う企業にも賛成しない。そこにあるのはスピード化、効率化、あるいは利便性を追求する企業の手足だけであって、そんな手足を安価で使えるという理由で彼らを使うのだ。企業も「そんなんでいいよ」といっているもんである。人を人として見ていない部分が感じるのである。能力や技術、あるいは資格がある人間を正規に雇い、それ以外は臨時に集めればいいという考え方は、基本的に与しない。出来る人間、出来ない人間と二極分化した先には一体何があるというのだろうか?
 それでもそれが資本主義であって、貧富の差は如何ともしがたいし、能力の差も同様にあっても当然だとは思う。けれど、貧しくても心豊かに暮らせる方法をどこかで見つけないと、世の中荒廃するだけじゃないかと思うのだ。アマゾンの物流センターみたいに、ロボットようにしか働けない場所しか提供できなくなれば、一体どうなるのだろうか?それでいいとは思わないのだが・・・。

trackbacks

trackbackURL:

comments

comment form

(どんなことがあっても、本が好き にはじめてコメントされる場合、不適切なコメントを防止するため、掲載前に管理者が内容を確認しています。適切なコメントと判断した場合コメントは直ちに表示されますので、再度コメントを投稿する必要はありません。)

comment form