2005年10月18日
畠中理恵子・黒沢説子著『神保町「書肆アクセス」半畳日記』
昔小さな店の責任者を任されたとき、お客さんからの注文で一番嫌だったのが、地方小と官報扱いの出版物であった。何故かというと、入荷まで時間と手間がかかるというのが最大の理由であった。
官報扱いとは、政府刊行物、白書とか有価証券報告書や財務省印刷局で印刷されたものをいう。
地方小とは地方小出版流通センターの略で、都内の大手出版社以外で、地方の小さな出版社、新聞社、あるい個人で出版している本や雑誌、ミニコミ誌、などを扱う問屋さんのことをいう。
その店売が書肆アクセスで、そこではお客さんも本や雑誌、ミニコミ誌など買うことが出来るし(もちろん定価で)、書店も卸値で購入することが出来る不思議な本屋さんなのだ。
神田神保町のすずらん通りで白山通りに近い所に、本屋か何だかわかりにくいお店がそれである。
お客さんから受けた注文がここにあれば簡単に仕入れることが出来るが、そうでないと大変な時間がかかることがある。しかもこの地方小で扱っていれば、何とか手配することができるがそうでないと完全にお手上げである。今はインターネット普及しているからもう少し仕入が簡単になっているかもしれないが、当時は電話で問い合わせをしないとならないし、その電話代も馬鹿にならなかった。挙げ句の果て、書店取引をしていないとなると、ただ電話代が無駄なだけであった。
昔は靖国通りの反対側に人文図書専門の問屋さん鈴木書店があって、そこの4階に地方の新聞社で出している出版物の在庫があった。鈴木書店に仕入行くときは必ずこの棚に寄って、そこに並んでいる本をよく眺めていた。読んでみたい本がたくさんあった。
もう鈴木書店もなくなっちゃったから、今地方の出版物を扱う問屋さんはこのアクセスだけになった。
地方で出版される本や雑誌、あるいはミニコミ誌というのはなかなか面白い本がたくさんあって、しかもだいたいがその土地に根付いた文化や自然、人物などを詳しく教えてくれる出版物が多い。ちょっと変わっているところもあるかもしれないが、それは都会に住んでいてつまらぬ情報に埋もれている我々がそう感じるだけで、地方の出版物には地に足がついたしっかりしたものを提供してくれるのだ。たとえばこの『神保町「書肆アクセス」半畳日記』は無明舎出版という秋田県にある出版社からでている。
さて、この『神保町「書肆アクセス」半畳日記』は黒沢さんとその後引き継いだ店長の畠中さんがお店での出来事や、お客さんこのと、神保町という町のこと、本のこと、あるいは自分達の私生活を女性らしい文章でつづっており、読んでいて楽しかった。仕事の追われる毎日であっても、そこを訪れるお客さんや上京してくる地方の出版社の方々(この上京してくるというのがいい!)、あるいは彼女らの仲間たちの交友が楽しく描かれている。
女性らしく、神保町界隈の食べ物屋さんのことも書かれていて、3時のおやつもささやかだけど楽しんでいる姿がこちらのも伝わってくる。
お店の仕事も、地方の出版物を扱っているという特殊な事情があるにしても、それらの出版物をこよなく愛してやまないのもうらやましかった。わずか10坪のお店に彼女たちの情熱がいっぱいつまっているようでもあった。また仕事だけでなく、自分達の趣味でもある映画鑑賞や美術鑑賞、あるいは猫たちを、彼女たちの旦那さんや仲間達とで楽しんでいる姿がほのぼのと伝わってくる。(猫に関しては畠中さんはかなり困っていたようだが・・・)
たぶん店長である畠中さんはあの方だろうと推測できるが、私は本屋の仕入でしかここを訪れたことがない。けれどいつも、お店の人に(たぶん畠中さんじゃないか思うが)伝票書いてもらっている間、仕事から離れてこのお店の棚をゆっくりと眺めたいと思っていた。
黒沢さんが書かれている日記に次のようなことが書かれていた。
「2月某日
土曜日だけアクセスの店番をしにやってくるセンターの門野さんと交代でレジに入る。平日と違い、仕入れに来る書店さんが殆どいないため、レジは楽である(書店が来たときはいちいち伝票を切らないといけないので、作業が煩雑になるのだ)。いつも取次でもあり書店でもあるアクセスだが、今日は書店に専念出来る日。せっかちな書店さんに急かされることもなく、ゆったり過ごせるのがうれしい。」
これを読んだとき笑ってしまった。伝票を書いている店員さんに「早くしてくれ!」といった感じで自分も血走った目をしていたんじゃないかと思っちゃったのだ。
帳合を日販としている中小書店の仕入コースは、まず水道橋にあった日販の店売で仕入を済まし、その帰りに神田村に寄るパターンが多い。仕入れに来ている本屋さんはお店のことが絶えず気になるから(店番をパートやアルバイト、あるいは奥さんに任せて、仕入に出ているから、不安なのだ)、早めに帰らないといけない。そのためせっかちになっちゃうんだけど、急かされる方はたまらないだろうなとこの本を読んで感じた。きっと私も急かした1人です。ごめんなさい!でも今度は本屋の店員ではなくお客としてお店に行きたいなぁと思う。ホームページも整備されていますから、この私の拙い文章を読んだ方は、アクセスがどんな店なのか分かりますから、是非訪問してみて下さい。
http://www.bekkoame.ne.jp/~much/access/shop/index.htm
- by kmoto
- at 20:53
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