2005年12月13日

村上春樹著『東京奇譚集』

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 この『東京奇譚集』(新潮社刊)は4編の短編が収められている。私は村上さんのファンなので、長編も物語として楽しんできたし、こうした短編も小品として楽しんでいる。
 この本は書名にもあるように、普段ありそうで、なさそうな、それでいて不思議なことや、偶然のようでもあり、それでもどこかつながっているそんなことを物語にした短編集である。
 個人的には「ハナレイ・ベイ」と「品川猿」がよかった。「偶然の旅人」も悪くなかった。
 「偶然の旅人」は、彼は自分がホモであるとカミングアウトしたがそのため結婚を控えた姉と喧嘩別れしてしまう。
 そんな彼が火曜日になるとホンダのオープン・2シーターに乗って多摩川を越え、神奈川県にあるアウト・レット・ショッピング・モールのカフェで読書にふける。読んでいる本はディケンズの『荒涼館』である。そこへ女の人が来て、彼が読んでいる本がディケンズの『荒涼館』じゃないかと尋ねてくる。彼女もディケンズの『荒涼館』を彼の隣で読んでいたのだ。
 そこから話が弾み、一緒に食事をしたりする。翌週の火曜日も彼は彼女とここで会い、その後彼女から誘われる。しかし彼はホモであることで、彼女とセックスできないことを詫びる。彼女もまさか自分が誘った男性がホモであるとは思わなかっただけに衝撃を受けるが、彼を誘いたいという気持ちがこの1週間けっこうどきどきしながら過ごせたともいう。
 「そういう気持ちになれたことって、本当に久しぶりだったんです。なんだか十代に戻ったみたいで、楽しかったわ。だからいいんです。美容院に行ったり、短期間ダイエットしたり、イタリア製の新しい下着を買ったり・・・・」と
 そういう気持ちになったのは彼女が乳ガンの疑いがあり、もしかしたら手術をしないといけないかもしれないという事情があったからだ。しかし翌週から彼女はこのカフェには来なくなった。
 彼はふと喧嘩別れした姉の声を聞きたくなり、電話を入れ、姉と会う。姉も彼に連絡をしようかどうか迷っていたところであった。姉も乳ガンの手術をすることになっていたのだ。偶然が重なって、彼は姉と会い、和解する。

 「ハナレイ・ベイ」はハワイのハナレイ・ベイで鮫に襲われたサーファーの息子の遺体を引き取りに来た母親のサチの物語だ。サチの過去、死んだ息子との関係、その後命日間際になるとここを訪れ、海を眺めにくることなど淡々と話が進んでいい感じだ。こういうテンポの話は好きだなぁ・・・。

 「品川猿」は自分の名前をあるとき急に忘れてしまう女性の話で、忘れてしまうのは自分の名前だけで、他のことはしっかりしている。でも不安があるので、カウンセリングを受ける。カウンセラーは彼女が自分の名前を忘れてしまう原因を見つける。
 品川区に現れた猿が、昔彼女と同じ女子寮にいた女性の名前が気に入っていて、その名札を探していた。その女性は一時帰宅するといって、自分の名札を彼女に預けていた。しかしその女性は自殺をしてしまい、彼女は名札を返すことができなくなってしまったので、そのまま自分の名札と一緒にしまい込んでいた。それをその猿が見つけ、一緒にあった彼女の名札も盗んだことで、彼女は自分の名前を忘れるようになってしまったのだ。
 つかまった猿がそう話すのである。ちょっとした村上ワールドがここにあって楽しかった。

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