2006年02月28日
永江朗著『菊池君の本屋』
読んでいて、涙が出そうになった。別に泣くような本じゃないことは分かっている。けれど、自分が経験して「むなしいなぁ」と思ったことが、著者である菊池さんが言っているので、ちょっと涙腺がゆるんだのだ。
それは、こうである。「一時期業界で盛んに提唱された”勧める販売”はいやだ。ぼく自身、セールスマンとして昔やったことがある。だからああいうことがいかに辛いかということが骨身にしみてわかっている。サラリーマンの頃一軒一軒自転車で回ったりした。チラシを持って、テッシュを持って、家庭を回って、『定期購読してくれませんか』ってやったのだ。その結果がNHKテキスト『基礎英語』なって言われるとガックリきちゃう。それをやって注文書を書いて、伝票切って、集金して来て、と全部やった。
女房が『SOPHIA』の創刊号を150部とったり、『日本大歳時記』を50セットとったりもしている。だからいかに大変か、プレッシャーがあっていやな方法か骨身にしみてわかっている。(略)結果として『SOPHIA』を100部売ったとしても10万円ぐらい。それで2万円の儲けだ。2万円儲けるためにあんなに必死ならないといけないのかと思うとやっぱり辛い」
私も昔新大久保店がオープンしたとき、その前に近所にポケットテッシュを一人あたり段ボール一箱分テッシュをまいてこいと言われ、やったことがある。みんなでテッシュをまいたのだけど、その時の虚しさといったらなかった。こんなことして一体何になるのだろうかと思っていた。どう考えてもお店には来ないだろうと思える離れた距離のところまで、テッシュをまいた。
又秋葉原の駅前で、確か講談社から出ていた『日本の天然記念物』という豪華本のチラシを日販の営業マンとまいたことがある。あの時も同じ気持ちでいた。しかもその時は直接手渡しである。受け取ってなんかくれないのだ。当たり前だ。朝通勤時間の忙しい時に、だれがそんなつまらないチラシなど受け取ってくれるか。いつまでもチラシが減らないものだから、悲しいたらありゃしない。それでいくつ予約が取れたのかといえば、ほとんどなし。分かってはいたが、それでもやらなければならないのだから、虚しい。辛かった。それを思い出したのだ。だって本って、嗜好品だから、自分の興味のない本なんて欲しいと思わないはずだ。まして勧められて買うもんじゃないと思っているから余計である。その本がどこか、あるいは何か訴えかけるものであればともかく、仮にあったとしてもごく一部の読者だけであって、多くの人が興味を示すなんて難しい話じゃないかと思うのだ。
それ以来、私がお店の責任者となってからは、一切そんなことはしないようにした。いくら問屋や出版社、あるいは社長にやれと言われても、受け付けなかった。それをやらなければならない人のことを思うと、とても出来なかった。配達のついでに本を勧めることもさせなかった。
菊池さんのヴィレッジ・ヴァンガ-ドは変わった本屋さんだけど、この本を読んでいて、菊池さんはとことん本屋さんなんだなぁと思うのと同時に、自分が辛いと思ったことは、絶対に従業員にさせないというポリシーはすばらしいと思ったのだ。そんな辛いことをしなくても、違う方法があるはずだというわけである。それがヴィレッジ・ヴァンガ-ドというお店で実現していると思った。
新刊にしてもそうである。小さな本屋さんだと売れ筋の新刊など殆ど手に入らない。それに対していらだちを覚えるなら、既刊本で売ればいいと思っていた。もちろん新刊が全くないというわけにもいかないから、多少手に入れる方法を模索したけど、そればっかり追い続けると、いずれ行き詰まる。それが分かっていた。だから既刊本で、その本屋独自のプレゼンテーションが出来れば、きっと売れるはずだと思うし、それがその店の個性にもなると思うのだ。それを菊池さんはやっておられる。菊池さんは言う。「ようするに一つでも多くのものを買ってもらいたいのだ。『こういうモノがあるんだよ』とプレゼンテーションしたい。お客が見た時に、ここはわかっているいるなと思わせたい。95パーセントの客が気がつかなくても、5パーセントの客がわかってくれればいい」と。だから「本屋のセンスは、この本の隣になにを置くかで決まる」という。その隣に置くのが本だけでなく、雑貨であったり、CDであったりするわけだ。本屋では本の隣は本を置かなければならないという固定観念があるから、行き詰まるわけだけど、別に本でなければならない理由などどこにもない。これがヴィレッジ・ヴァンガ-ドが成功した理由だろうし、個性だと思わせる。
事実本以外のグッズの売上が大きいのが分かる。この本にはヴィレッジ・ヴァンガ-ドイーストの月別売上が示されているが、それを見てみると、グッズの売上は全体の50.2%~45.5%を占める。つまりお店の売上の半分は雑貨、CDなどのグッズの売上なのだ。それだから粗利益も通常の本屋が20%弱なのに30%もあるというのもうなずける。だからといって、それら雑貨をメインにしている訳じゃない。あくまでも本を中心に雑貨の配置、品揃えを考えているという。何故なら、「本が出るということは、世間にそれ(グッズ)を受け入れる状況ができているということ」だからと言う。つまり基本は本屋さんなのである。 でも、こういうグッズを置くというのはどうしてもマーケティングがしっかりしていなければならないはずで、しかも利益率が高いということは、リスク(たとえば全て買い取らなければならないなど)もかなり高いはずだ。ということはそのあたりリサーチもしっかりしたものでなければならないし、それをどうやって売るか、それをきちんと考えないとならない。このあたりは楽しさもあるけど、厳しさも当然伴っていくはずだ。
それに伴って置かれている本もかなりセレクトされていて、いわゆる定番といわれるその店の売れ筋の本も通常の本屋さんとは一線を引いている。この本の後ろに「定番1200」というのがあり、そこにはヴィレッジ・ヴァンガ-ドの売れ筋一覧が記されている。これを見てみても、普通の本屋さんとは違うよなと思ってしまう。このあたりが新刊ばかりを追わない姿勢となっていくのだろうと思われる。
この本(アルメディア刊) は先に読んだ『ヴィレッジ・ヴァンガ-ドで休日を』の実践編といった感じの本で、12年前の本であっても、今でも様々な方向性を示してくれているような気がする。もっと早く読んでおけばよかったかなと思った。
評価
★★★★
- by kmoto
- at 21:50
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