2006年03月27日
貫井徳郎著『追憶のかけら』
私はこの本(実業の日本社刊)を読もうと思って手に入れたわけではなく、別な意図があってこの本を手に入れた。
実はちょっと「造本」に興味があって、1冊本を自分の手で分解してその構造を見てみたいと思ったのだ。その為に古本屋さんで1冊分解用の本を購入した。その際、ハードカバーで、多少厚みのある方が分解しやすいと思い、この本を買った。
でもただ分解してしまうのはどうも気が引ける。まずはちゃんと読んでみようと思い、読み始めた。読み始めてみると、意外に面白い。結局夢中になって読んでしまった。
この本の話は構造は二重になっており、大学講師の松嶋に戦後まもなく自殺した佐脇依彦という寡作の小説家の手記を入手する。
この手記がミステリー風になっており、佐脇が終戦後知り合った復員兵の頼みを聞き入れ、愛人の春子を捜しはじめる。
ところがこの春子を捜し始めると、自分のまわりに不可解なことが起こり始め、最後にはお手伝いの富美さんが暴力の餌食になってしまう。富美さんに好意を寄せていた佐脇はこのことを苦にして自殺してしまう。
一方松嶋はさえない大学の講師であった。魔が差した松嶋は風俗店へ遊びに行った。そのことが妻の咲都子にばれてしまい、咲都子は一人娘を連れて実家に帰ってしまうが、まもなく交通事故で亡くなってしまう。妻の咲都子は松嶋の大学の教授の娘であった。そのため実家でも大学でも松嶋のその行為が気まずいこととなってしまった。松嶋は自分の立場を立て直すために、佐脇の手記を元に論文を書くことで、世間に認めてもらおうとする。
しかしこの手記を持ち込んだ人間は、何故佐脇のまわりに不幸な事件が起こったのか。その真相究明をすることが、松嶋がこの手記を元に論文を発表する条件とした。
松嶋はある程度佐脇のまわりに起こった不幸の原因を究明し、論文を発表するが、この手記が偽物であることが分かり、松嶋は学会にいられなくなってしまう。(実はこの手記を読んでいて、どこか戦前に書かれたものにしては、表現が今風なところがあって、不自然さを感じていた。たぶんこれは偽物らしく見せるために意識的にそうしたのではなく、無理して一昔前の表記をしているうちに、今風の表現になってしまったものと思われる。どう考えても戦前にこんな表現の仕方はないのではないかと思われる部分がいくつかあった。)
どうして松嶋は偽物の手記ををつかまされたのか。誰が松嶋を陥れたのか。手記は全部偽物なのか。状況が二転三転していく。
なかなか読み応えのあるミステリーであった。ついつい夢中になってしまい、この本を潰すなんてとんでもないと思った次第である。それより全く知らない作家を偶然知ることになって、むしろ感謝しなければならない。
評価
★★★
- by kmoto
- at 20:38
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