2006年04月30日
立花隆著『滅びゆく国家』
この本(日経BP社刊)は日経BP社のサイトで「立花隆のメディアソシオ-ポリティクス」に掲載されたものを1冊の本にしたものである。現在もこのサイトは生きていて、バックナンバーが読める。URLは以下の通り
http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/feature/tachibana/media/
この本の最初に「ことわり」としてこのサイトに著者が書き込む際、ネットの情報など私的情報から主にネタもとしている。その関係か、ゴシップ的な要素かなりあるし、情報がその時は早くアップされていたのだろうけど、状況が絶えず変化してしまい、著者の考えが著しく変わってしまう。(第四章「小泉改革の真実-その政治手法と日本の行く末」と第五章「ポスト小泉の未来-キング・メーカーの野望」は状況が刻々と変化するので、著者の考えもそれに伴って変化していくのが分かる)だから今まで読んできた立花さんの本とはちょっと違うなというイメージを持ってしまった。こんなあやふやな情報で物事を判断する人とは思わなかったのだ。もっとも最初にこの本はネット情報など私的情報から書いていると断っている以上、それでいいのかもしれない。
確かにライブドア事件に関することも、私の知らなかったことが多く書かれていて(それを知って何になるかは別問題)、それはそれで面白かった。
たとえば堀江容疑者とヤミ金融との関係、元々は堀江容疑者が彼女と別れたことによって、その父親から金を工面してしていたのができなくなり、急遽借りていたお金を返さなければならなくなり、その莫大なお金をヤミ金融から借りた。その関係が最近まで続いていた。
一方今の東京地検特捜部の検事総長はロッキード事件の捜査の時にこのブラックマネーの解明で苦い思いをした人であったので、今度こそこのヤミ金融の世界を解明したいという気持ちがあったという。つまり、堀江容疑者をたかが証券取引法違反で逮捕したのではなく、地検の最大のターゲットはそこにあったという。なるほど、たかが証券取引法違反で東京地検が動くのが不思議であったのだが、東京地検がわざわざ動く理由はそこにあったのかと分かった次第だ。
私はこの本で面白かったのは、第二章の「天皇論-女性天皇・女系天皇の行方」と第三章の「靖国論・憲法論-なぜ国立追悼施設はできないのか」である。
最近憲法改正論が話題になっているけれど、立花さんはその必要はないし、断固憲法第九条が固守すべきという立場を取っている。
そもそも憲法第九条の改正は自衛隊の合法化が最大の目的なのだろうが、立花さんはそんなものわざわざ改正しなくてもいいという。つまりそれは日本国憲法の性質から、それはそのままで自衛隊は合憲だというのだ。
というのも、日本国憲法として条文に書かれているのは、極めてシンプルレベルでしか書かれておらず、細かい運用は、「法の定めるところに従って・・・」と多用されており、下位法と一体ではじめて運用されている。下位法とは最高裁の判例や内閣法制局の見解で動いているというのだ。そのため自衛隊は今ではイラクまで派遣されている。それを細かいところまで憲法に規定する必要はないというのだ。
むしろ憲法第九条は国際法社会におけるグローバル・スタンダードであり、国連憲章第一条、第二条に記載されていることと同じなのだ。それをわざわざ戦後アメリカから押しつけられた憲法だから、今の時代にそぐわないといって、改憲する理由にはならないという。
逆に憲法に自衛隊のことを明記した時点で、今度は日米同盟により、アメリカがおこしてた戦争へ、自衛隊をいつでも派遣しなければならなくなり、戦争の手助けをすることになってしまう。たとえば今のイギリスのように・・・。今は憲法第九条があるお陰で、日本は戦争の片棒を担がなくてもいいし、少なくと戦後60年以上、他国に戦争を吹っ掛けなかった。それは日本が明治以降近代国家になってから、一番長い間戦争してこなかったのは、憲法第九条があるからである。
女性天皇の容認にしたって、元々国家がああだこうだというものではないという。憲法第一条に「天皇は日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であって、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく」とあるのだから、世論調査で8割以上が女性天皇容認するという結果が出ている以上、国民の総意はもうこの時点で明らかである。
それに最近男系維持論者が男系天皇がみな神武天皇と同じY染色体伝えてきたところに万世一系の天皇の本質があるという論理もおかしいという。
つまり神武天皇のY染色体を受け継ぐ人は今の天皇家だけかということなのである。もし仮に神武天皇以来今上天皇まで125代の血筋がつながっていると仮定した場合、歴代の天皇がそれこそ仮に2人子供を持ったとしたら、Y染色体を受け継いだ子供は2、4、8、16、32、・・・と世代数だけ倍々ゲームで子孫が増えることになる。これを計算していくと、神武天皇の子孫は2の125乗人いることになる。これはゆうに今の日本の人口を上回る。もちろんこの中には女性が半分以上いるだろうけど、それを考えても、神武天皇以来のY染色体を持った人間が、日本にはゴロゴロいることになるはずだ。従って神武天皇のY染色体を受け継ぐ人は今の天皇家だけという論理は意味をなさない。これを読んだときは大笑いしてしまった。
さてまたしても「靖国問題」である。私は小泉首相の靖国参拝は個人の意志に基づくものだから問題ないという姿勢には異議を唱えた。それはどう考えても詭弁だとも言った。中国や韓国が「靖国問題」を批判するのは内政干渉だという小泉首相の主張もおかしい。なぜなら日本国民の総意で小泉首相が靖国参拝をしているならともかく、首相個人の意志で靖国参拝をしているのだから、それを内政干渉という方がおかしい。だいたい隣国が止めてくれと言っているのに、それを無視して靖国参拝を行う小泉首相の姿勢を批判しているのだ。
なぜ中国や韓国が小泉首相の靖国参拝を批判するのかよく考えるべきだと思う。A級戦犯が靖国神社に合祀されているからである。そして日本はこのA級戦犯を裁いた東京裁判をどんな事情であれ、それを認めたからサンフランシスコ条約を批准した。これによって、戦後日本は国際社会からの復帰を許されたのだ。日本が仕掛けた戦争は国際法違反であるから、当然それは裁かれて当たり前だし、戦争責任を問われても当然なのである。被害者である中国や韓国はそれを監視する立場にあるのだ。どんなことがあってもA級戦犯が祀られている靖国神社を認めるわけにはいかないのだ。
何故中国がこうまで靖国参拝にこだわるのかよく考えれば分かる。中国の現代は日本の侵略戦争を期にして始まったといってもいいのではないかと思う。
中国はそれまで清王朝という非漢民族に支配されていた。清王朝の末期になると、欧米各国の植民地政策で国自体がぼろぼろにされ、漢民族の自立を促すようになりつつあった。そこへ更に日本が中国を蹂躙するが如く侵略し始め、多くの中国の人達を殺害してきた。その中で抗日戦争として民族が自立し始め、ここから現代中国が生まれてきた。
日本民族は他民族に支配された歴史を持たない民族である。(戦後連合国側に支配されたというかもしれないが、あれは支配されたというには、あまりにも甘い支配だったし、その為に多くの日本人が殺害された訳じゃない。中国人民がなめた辛酸、多くの人民の血が流された事実から見れば、比較になんかならないと思う。
だから日本国民は感覚的に中国人民の感情が理解できない。しかも自分たちのことしか考えないアホな国民だから、中国や韓国が「わかってくれ!」と声を張り上げれば張り上げるほど、「俺たちには関係のないことだ!」と思ってしまうし、疎ましく感じてしまう。挙げ句の果てに首相でさえ「どうしてなんでしょうね~」という始末なのだ。
今は、日本はもう戦争世代がかなりの数で減ってしまっているし、戦争を経験してきた人達も正しい情報を与えられてこなかったから、中国や韓国の苦しみを理解できなくなっている。だから「いつまでも昔のことばかり持ち出すなよ」という意識が日本国民に出てきてしまうのだし「俺たちには関係ないよ」という考え方になってしまうのだ。
そうなったのは歴史教育に問題があるからだと思う。日本の歴史教育は人類の誕生から古い順に進めていくから、複雑な現代までなかなか行き届かない。実際に高校の歴史教育など、限られた時間で人類の誕生から現代までやるものだから、肝心の現代に時間が割けない。本当から言えば、今生きている我々にとって現代史こそ大切なのにおろそかにされているのが現状ではないだろうか?
私は中国や韓国が現代史を重視しているのに比べて(当然なのだが)、日本は軽く考えていないだろうか思ってしまう。
感覚的に日本人が中国や韓国の感情を理解できないなら、せめて「歴史」は被害者、加害者の立場はあるにしても、歴史的事実は共有できる。そのために現代史を重視すべきだと思うし、それこそが隣国である中国や韓国のことを少しでも理解できるきっかけになるのではないだろうか?日本の歴史教育の仕方を変えない限り、いつまでたっても日本人は「俺たちには関係ないよ」という考え方しか持たなくなってしまうと思うのだ。中国や韓国が日本の歴史教育に口をはさむのも当然だと思う。
もし日本の歴史教育がしっかりしたものであったなら、天皇も行かない靖国神社に日本の首相が参拝することが如何に馬鹿げたことなのか分かるというものだ。意地になったって、何も生みやしないと思う。
何だか偉そうなことを言ってしまった。こんなつもりじゃなかったのだけど、この本を読んでいてあまりにも日本の首相がひどいからついつい大声を張り上げた形になってしまった。
私は自分でも現代史をもっともっと勉強できればなぁと思う。
評価
★★★
- Permalink
- by kmoto
- at 05:43
- Comments (0)
- Trackbacks (0)
