2006年08月12日
三浦しをん著『まほろ駅前多田便利軒』
私のもう一つのブログで書いたようにこの本(文芸春秋社刊)を神田の三省堂本店で買った。直木賞を取った作品だから読んだわけではない。実は以前から題名に惹かれ、帯の内容紹介を読んで、面白そうな本だなぁとは思っていた。私の中では購入図書のリストに入っていたのである。
で、せっかく三省堂まで来たのだから、何かめぼしい本がないかと思い、結局この本を買った。買って家に帰ったら、この本がサイン本であることが判明する。(別にどうでもいいのだけど・・・)
いやぁ~、久しぶりに全編笑わせてくれる本であった。面白かった。読んでいるうちに昔テレビでやっていた「傷だらけの天使」を思い出してしまった。
地域に密着して仕事をする便利屋として多田啓介は、バスの間引き運転を疑っている岡から、その運転が間違いなく運行予定表通り運転されているかどうか、その実態を調べてくれという仕事の依頼を受ける。
この仕事の前に実家に帰省するからチワワをその間預かってくれという仕事の依頼を受けていたので、チワワと一緒に岡に家に行く。
多田は正月にこんな依頼をしても、バスの間引き運転が行われるわけがないと思う。何故なら正月に運転すれば、たぶん正月休みに仕事をしたということで、バスの運転手には特別な手当が出るはずだから、そんなことするはずがないからだ。
多田はバスの運転状況を調べるのに夢中になっていた為に、チワワのことを忘れてしまい、探し回る。チワワは高校時代の同級生であった行天春彦が抱いていた。行天は行く場所がなく、多田の事務所に泊まることになる。
これから多田と行天の同居生活が仕事とともに始まる。チワワの飼い主は約束の期日になっても現れず、飼い主は夜逃げをしていた。多田の事務所にもう一匹同居者が加わった。
とりあえずはチワワの飼い主を捜したのだが、結局チワワの新しい飼い主を多田と行天は捜すはめになり、自称コロンビア人のルルという娼婦がチワワがほしいといってくる。ルルはどう見てもコロンビア人には見えない。行天が「なんでコロンビア人なの」と聞けば、ルルは「コロンビアの女を運ぶルートがあるのよぅ。あたし、国では毎日、フェンスの向こうを見ていたんだ。これを越えればアメリカだわ。って。すっごくたくさんの星が見える夜、あたしは友だちとフェンスを越えた。そしたらマフィアが待っていて、コンテナに積まれて、着いたら日本だったのぉ」と言う。多田はその話を聞いて、コロンビアはアメリカとはつながっていないぞと思う。
チワワのもとの持ち主の子供に新しい飼い主を捜して、今度まほろ市に来たとき、新しい飼い主を紹介してあげるからと多田は言った以上、その飼い主が娼婦じゃまずいと行天に言う。行天はなぜ娼婦じゃまずいの。職業に貴賤などないでしょうと言い返される。
結局チワワはこのルルと一緒に暮らすハイシーに手渡された。彼女らは小さな犬を飼いたかっただけにチワワは大事に飼われた。元の飼い主であった子供が訪ねてきたとき、最初はルルとハイシーに戸惑ったが、すぐに彼女たちが自分のチワワを大切に育ててくれることが分かったし、自分をもてなしてくれるルルとハイシーたちと仲良くなった。この事務所で起こることはすべてこんな調子進んでいく。
塾で帰りが遅くなるので、子供を迎えに行ってほしいという仕事の依頼がくる。こんな物騒な時代なので子供の帰りが不安だというのである。しかし子供の方は、家では帰りにはちゃんと迎えがつけているという親の見栄で多田たちに頼んだこと見抜いていた。両親は共稼ぎで帰りが遅かった。
ある時多田はその子が塾へ行くバスの中で見かけたが、挙動がおかしいのに気づく。彼は座席のシートの間にスティック状の砂糖のようなものを隠していたのだ。覚醒剤の売人の手助けをしていたのであった。成り行き上、多田と行天は子供を救わざるを得なくなり、以前ハイシーにつきまとっていた男を行天が締め上げたことがあり、その男から、覚醒剤の売人の元締めを捜し出す。
子供にもう手を出さないこと、残っているスティック状の砂糖を受け渡す条件として、売人に自分たちがいつも行っているお弁当屋でノリ弁18個とシャケ弁23個を買ったら、その時一緒に渡してもらうからという条件を多田が出し、行天は「多すぎ」と思うのだった。
その覚醒剤の元締めが女子高生を多田の事務所に連れてきて、かくまって欲しいというのだ。その女子高生、まほろ市で起こった両親殺害事件の犯人と同級生であった。マスコミやクラスメイトがうるさいので星(覚醒剤の元締め)に助けを求めたらしい。身の安全を考えるならその元締めの所にいた方がいいはずだと多田は思うのだが、そのやりとりがふるっている。
「星くんは、『俺はカタギじゃないから、清海に迷惑がかかる』って」
「カタギじゃないやつと女子高生が、なんで知りあいなんだ」
これにはさすが吹き出してしまった。しかも電車の中で(恥ずかしかった)
妙な人間と遭遇する確率が高い気がするのは、便利屋の仕事柄なのか、行天のせいなのか、多田は自分の仕事を振り返るのだが、ボケかましているところがあっても、押さえるところは押さえているし、締めるところは締めている。多田にしたって、行天にしたって、ちょっと性格的にぬけてるところはあるけれど、極めて常識的なのである。その二人が、非常識な世界に巻き込まれるから、この話は面白いのだ。
もともと便利屋に依頼する仕事って、本来自分たちで出来ることがほとんどだろう。それをわざわざお金を出して頼まなければならないところに、もう常識外のことが発生していて、その家族の暗い部分を垣間見ることになってしまう。しかも多田にしても行天にしても自分たちの過去を引きずりながら生きているところに、この話が面白いだけでなく、悲しみをにじませている。
評価
★★★★★
- by kmoto
- at 07:36
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