2007年02月21日

紀田順一郎著『内容見本に見る出版昭和史』

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 内容見本とは、出版社の企画本、あるいは全集の内容、特色などを記したもので、我々はどちらかといえばパンフレットと呼んでいた。こうした本は定価が高額になるので、買う側も一大決心が必要だが、作る側も膨大なコストをかけて、時には社運をかけて企画、発行する。だから当たれば、それまで左前だった会社が、立ち直ったり、あるいはつぶれてしまったりすることもある。だからこうした内容見本には当然力を入れるのだろう。ここに紹介されている内容見本はそうした意気込みが感じられるものが多い。ページ数も多いし、紹介文もちょっとしたアジテーゼ的な過激な文章のオンパレードである。
 しかし最近はそんな内容見本はあまり見かけないのではなかろうか?我々がパンフレットと呼んでしまうくらいだから、ほんと見開きだけのものが多いような気がする。どちらかといえば、現物見本や束見本(本の厚さ、紙、表紙など どんな感じになるのかをつかむためのもので、 中身は数ページ印刷されているが、後は白紙の状態で製本されたもの)を見せて、直接ビジュアル的にアピールするのが多かった。
 話は自分の体験になっちゃうのだけど、その昔講談社から『日本の天然記念物』というシリーズ本が出版されたのだが、これを拡販するため、パンフレットを持って、朝、秋葉原の駅前で問屋のやつと配ったことがある。その惨めさが今も甦る。今にして思えば、朝みんな急いでいるときにそんな訳の分からないパンフレットなど受け取るわけがないのに、反応が鈍いことを嘆いていた。前日から用意したパンフレットに自分の店のゴム印を押して準備したのに、予約が取れたのはたった1セットのみ。しかもその1セットはパンフレット一緒に配った問屋のヤツが買ったものだ。だいたい数を配ればいいというくらいの効率の悪さでは宣伝効果あるようには思えないのだ。

 というくらい、出版物の内容見本なんて、興味のないヤツには無用の長物のなにものでもない。お店でもよく出版情報と一緒に送られてくることがあるが、ほとんど捨ててしまう。
 もちろん中には興味を持ってくれるお客さんもいるわけで、そういうお客さんは内容見本を注文される。そんなお客さんは定期購読に結びつく可能性は大きいので、せっせと注文書を書いたものだ。

 こうした企画本や全集は豪華で重厚な装丁が施されている。出版社の側でも社運をかけているから、ぞんざいなもの作れない。当然外観も凝ったものが作られる。だから内容見本の中身に、「瀟洒な新式の装幀で書斎の一美観」(大正14年に発売された改造社の円本(1冊1円)である『現代日本文学全集』)や、「書架に重量感をもたらす豪華造本」(河出書房の『世界思想教養全書』)と付け加えられる。要するにこれらの全集や企画本は、成金趣味の人にはどれどれと思わせるところがある。

 また思い出したのでけど、昔本屋でアルバイトを始めた頃、様々な全集を定期購読している人がいて、発売されるたびに、配達していた。購読者はここの社長さんらしく、いつも秘書の人が受け取ってくれた。ある時いつもの人がいなくて、知らない人が受け取ってくれたのだが、その人が言った一言が今でも記憶に残っている。「まったく、こんなに全集を買ってどうすんだろう?ただの飾りだろう!」とぼそっと言ったのだ。言われてみればそうかもしれない。社長室の書棚に仰々しく飾っておくにはいいかもしれない全集だなと思ったものだ。内容見本が作られる本はステイタスシンボルにもなる。

 それにしても企画本や全集が本当に数多く出版されてきたんだなぁと思っちゃう。出版社も大した特色もなく似たようなものを出し続けてきたのだ思った次第だ。そのなれの果てが、全集の端本を古本屋の100円均一ワゴンで見かける。まるでこれで買ってくれる人がいなければ、捨てられるのを待っているかのようなたたずまいだ。
 私の好きな夏目漱石の全集はこの本によると没後35種類も出ているらしく、作品集や叢書類を含めると50種類以上になるという。まぁお札にもなるくらいだから人気があるのは分かるが・・・。そういえば岩波書店が経営が悪化すると漱石全集を出すといううわさを聞いたことがあるが(本当かどうか知らないが)、何となく真実味があるように思っちゃうのは私だけだろうか?
(今回は本の内容より思い出話が主流になりました。というのもただ読んでいて、ふ~んと思うだけなので、面白くなっかたからです)


評価
★★


書誌
書名:内容見本にみる出版昭和史
著者:紀田 順一郎
ISBN:9784938463243 (4938463245)
出版社:本の雑誌社 (1992-05-10出版)
版型:301p 19cm(B6 判)
販売価:1,835円(税込) (本体価:1,748円)

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