2007年04月25日

司馬遼太郎著『街道をゆく』40巻

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 今回は「台湾紀行」である。私は台湾について詳しいことは知らない。蒋介石が作った国だと長いこと思っていた。これがとんでもない間違いであったことを今回知る。
 今中国は台湾の存在を認めていない。「一つの中国」として、台湾を見ている。つまり台湾は中国本土の一部だと考えているわけだ。日本も田中角栄首相の時、「日中国交正常化」を整えたとき、台湾と断交した。それまで日本は、中国とは台湾を意味していたのが、これによって中国本土が中国としたのである。
 私は馬鹿だったから、台湾も蒋介石が作った国だし、同じ中国人の国なのだから、中国が主張する「一つの中国」は何ら問題のない主張だと思っていた。
 だけどよく考えてみると、中国が台湾は自分の国だというなら、台湾(中華民国)にとっても、中国大陸のすべてやモンゴルやチベットは台湾のものだと言えることになる。もちろんこれは台湾の人々が声を上げて言っている訳じゃない。司馬さん言う空想である。でも論理としては矛盾はない。ただ中国が台湾を自分の国だと主張する背景には、自国の国力にものを言わせているのところが感じる。
 司馬さんはこの紀行文で、台湾を通して、国家の起源論を考えている。

 清王朝にとって台湾は"化外の地"であった。要するに19世紀末までボートピープルや流民、棄民たちが暮らしていた島であった。国として清王朝が所有権を主張していても、ほとんど支配権などなかったといっていいようだ。言ってみれば歴史の空白地帯であった。
 1894年日清戦争が起こり、日本は台湾を植民地化した。以後50年に渡り台湾は日本の統治化に置かれた。日本は台湾を植民地化することで「文明」を持ち込んだ。児玉源太郎、後藤新平、新渡戸稲造らが統治をし、八田與一という技術者が台湾に「文明」をもたらした。
 李登輝さんが面白いことを言っている。「植民地に対して宗主国というのは、自国いいところを見せたがります。シンガポールに対する英国もそうでしたし、台湾における日本もそうでした」と。これに対して司馬さんも同意し、「そういわれてみると、古いころの日本は国力の点では分不相応に、台北において上下水道など完備させている。いい格好をしてみせたかったのにちがいない」と言っている。
 日本の敗戦という形で太平洋戦争が終わり、日本は台湾から去ることになる。そこへ中国共産党に敗れた蒋介石が大陸から「中華民国」という国名を背負って泥靴で上陸してきた。彼らは支配階級を作り、ときに本島人を殺し、凌辱し、差別した。
 地生えの本島人にとってみればたまったものではない。「中華民国」がこの小さな島にのしかかり、陳儀以下の軍人・官吏は宝の山に入り込んだ盗賊のように掠奪に奔走し、汚職のかぎりをつくした。そのさいたるものが、1947年2月28日に起こった二.二八事件であった。
 司馬さんは「漢民族にとって歴朝の国家が皇帝の私物であったように、この台湾も、ながく蒋家に私物同然だった」と言い切る。本島人の間では「犬(日本人)が去って、豚がきた。犬はうるさいが、家の番はできる。豚はただ食って寝るだけだ」という悪口が流行ったという。
 1975年蒋介石が88歳で亡くなり、長男の蒋経国が総統となる。「蒋経国は私としての権力の命数をよく知っていたようで、総統就任以前から台湾人の俊才を抜擢しはじめた」という。
 蒋経国は1985年12月に「蒋家の者が権力を継承することはない」と公言した。更にその翌々年「台湾がやがて本島人たちのものになる」と発言し、同7月に40年近く続いた戒厳令を解除し、その翌年、1988年1月に死んだ。
 蒋経国は死の4年前に後継者に台湾人で学者でもあった李登輝を副総統にしていた。総統の死後、李登輝副総統が憲法の規定で、1988年1月に新総統に就任した。
 ここに「台湾のひとびとの表情が、一挙におだやかになった」と司馬さんは言うのである。
 これが台湾の現代史である。台湾は確かに大陸から来た、蒋介石たちに支配され、中国人の国であるかのような形になったけれど、彼らは最初から「中華民国」という国を背負ってここにやってきて、居座っただけのことであった。台湾の人たちが自ら作り上げた国ではなかった。つまり「一つの中国」ではなかったことになる。李登輝さんが総統になって初めて、自分たちの指導者を得たことになる。ここに中国本土の指導者が声高に主張する「一つの中国」には無理があることを知るのである。台湾は台湾なのである。

 私もそうなのだが、その国の歴史的背景を何も知らないで、知ったかぶりしてものを言うのは恐ろしい。

 それにしても、このシリーズを読んできて、司馬さんが入れ込み具合の強弱がよく感じる。今回の台湾紀行はかなり熱かった。その分台湾が抱える歴史的諸問題がよく分かり、中国が主張することが、そう簡単な問題でないことを知らされる。


『街道をゆく』40巻の「台湾紀行」は週刊「街道をゆく」の9巻に収録されている。


評価
★★★★

書誌
書名:街道をゆく〈40〉/台湾紀行
著者:司馬 遼太郎
ISBN:9784022568083 (4022568089)
出版社:朝日新聞社 (1994-11-01出版)
版型:502p 19cm(B6)
販売価:1,785円(税込) (本体価:1,700円)

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