2007年05月23日
弓削達著『ローマはなぜ滅んだか』
この本、本棚の整理をしていたら、目についた。一度は読んでいるようである。調べてみると、確かに一度は読んでいる。どうもこの本は、岩波文庫版の『ローマ帝国衰亡史』の復刊後に出版されたようで、この復刻版が人気があって品切れを起こしたことも書かれている。しかし私の中にこの本の印象が全くない。だからもう一度読んでみようと思ったわけである
読んでみて、私の中でそれほど印象が残らないのも何となくわかった。とにかく読みにくいのである。
通常新書という媒体を使う以上、だいたいは読みやすく書かれる。しかしこの本はかなり比喩が多くて、その分抽象的で、わかりづらい。だから何となく読んで、そのままにしておいたのだろう。
著者は序章で、なぜローマだけその滅亡を問うのかという。生者必滅の人の世にあって、ローマのみその訳を問うのはどうしてなのだろうかというのだ。言われてみれば確かにそうだ。
しかしローマ滅亡の理由を問うには問う理由があるはずだ。その理由を著者は次のようにいう。「すなわち、ローマは、世界史上まれに見る長年月の間に空前絶後の大帝国を建設し、かつそれを、これまた比類のない長い年月の間維持発展させることができた、という事実が一つ。
そしてまた、ローマを中心に帝国各地に放射し、辺境から人間や物資をローマに運んだローマの公道のように、これ以前の先進文明を吸収し、それを次代の諸世界へとそれぞれ伝えていったというもう一つの事実」をあげる。この二つの事実が「ローマは一日で成らず」、「すべての道はローマに通ず」のことわざが象徴的に言い表しているという。
それではそうした大帝国を維持できたシステムとはどんなものであったのだろうか?以後「ローマ帝国の繁栄とは何か」、「道路の整備」、「ローマ帝国の経済構造」、「経済大国ローマの実態」「爛熟した文明の経済的基礎」とローマ帝国を経済的見地からその実態を解明する。その上で、その繁栄した帝国の文化が実は腐敗と退廃をもたらしたことを「悪徳・不正・浪費・奢侈・美食」、「性解放・女性解放・知性と教養と文化」で知らしめる。
そしてやっと「ローマ帝国の衰退とは何か」、「第三世界(周辺)への評価の岐れ道」、「ローマはなぜ滅んだか」となる。
確かに後半の3章のためにはローマの経済、文化の実態を知っておかなければ、その滅亡の過程がわかりづらい部分はあるにしても、正直退屈であった。
で、やっぱりローマ帝国の滅亡理由が気になる。面白いと思った記述は次の通りである。
「共同体国家すなわちポリス(ローマのこと)まで発達した先進的共同体は、自己への同化力を周囲に拡散する磁力の中心のようなものであり、それにふれた発展度のより低い共同体はいわばその磁場の中におかれ、その質において磁力の中心へと吸い寄せられる、という運動方向を示している。
また言いかえれば、ポリスは、周辺の共同体を自己へとまき込んでゆく渦巻の中心である。地中海沿岸地方及びそれをとりまく諸地方は、共同体国家すなわちポリスという磁場の中心とそれがつくる磁場、或いは渦巻の中心、そういう中心が多数に散在し、それぞれの中心にそれをとりまくペリフェリー(周辺)の共同体が吸い寄せられ、或いはまき込まれてゆく、そういう諸中心と、それをとりまく諸ペリフェリーによって構成されている」
これがローマ帝国のシステムである。ローマから地中海沿岸地方とその領域を拡大した帝国は、これらを磁場の中心とし、さらに内陸へと広がっていった。
ローマは恒常的に戦争状態であり、属州からの戦利金(品)と賠償金が国家収入のかなりの部分占めていたし、属州の人々は奴隷として扱われた。そしてその「支配の果実」はローマに集まり、一部の貴族に独占された。それを可能にしたのが「すべての道はローマに通ず」といわれる交通網である。まさしくローマは「磁力の中心」であった。
属州の支配方法は、ローマ人と非ローマ人の二つの部分に分けた。そのローマ人の範疇は「ローマ人の枠を狭量に閉鎖することなく、賢明にも新しい成員を選び出してその枠を補う。だから、各地の砦を自分で守る必要はない、各地のもっとも権勢と実力をもつ人びとが、補われたローマ人として、自分たちの母市ローマをローマ人のために守ってくれる」のである。
このことはローマがローマであるためには、地中海沿岸地方以外の「蛮族世界」が不可欠であったことを如実に語っている。そこからの実入りがなければローマは成り立たなかったのである。
磁場の中心がローマを含む地中海沿岸地方であったときはローマは安泰であった。しかしそうでなくなったとき、ローマは滅びざるを得なかったのである。磁場の中心が「蛮族世界」に移ったのである。(この本はなぜ磁場の中心が「蛮族世界」に移ったのか具体的に言及していない)ただ「蛮族世界」の人々(ゲルマン民族)が「支配の果実」を求めてローマに集まったことでローマは滅んだ。
ゲルマン民族がなぜローマを目指して移動してきたのか、かねがね不思議に思っていたのだが、それまであった磁場の中心がローマであり、そこにローマの「支配の果実」があったから、彼らはそれを求めてやってきたのである。そしてその果実はかなり毒を持っていて、それに毒されたゲルマン民族は、本来持っていた自分たちの特性を失い、結局ローマ同様滅びざるを得なかった。唯一ローマと距離を置いたフランク族が次の時代を担ったのである。
評価
★★
書誌
書名:ローマはなぜ滅んだか
著者:弓削 達
ISBN:9784061489684 (4061489682)
出版社:講談社 (1989-10-20出版) 講談社現代新書〈968〉
版型:241p 18cm
販売価:777円(税込) (本体価:740円)
- by kmoto
- at 20:29
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