2007年07月21日
重松清著『カシオペアの丘で』上下
読む前から、この話の展開は予想できた。幼い頃、故郷に何人かの仲間がいて、何かを共有している。夢とか希望とか特別な場所とかそんなものを。だけど、一方で危ういものもどこかにある。
そして仲間がバラバラになり、あるものはそのままそこに残り、あるものは故郷を離れる。そして故郷を離れた一人が不治の病にかかり、故郷に帰る。当時の仲間がそこに集まり、子どもの頃を語り、病気になった仲間の残りわずかな時間を新たに共有する。
病気になったやつは自分の人生を振り返り、残された家族の思いを語ることで、お涙頂戴という話だろうと思っていた。そして話はほぼその通りの展開をする。
おそらく若い頃ならこんな話など絶対に読まなかったはずだ。だけど、3年ぶりの新作と聞いて、以前重松さん本を読んでいたので読んでみたくなっていた。焼きが回ったとしか言いようがない。そして感動してしまったのだ。やれやれ俺も歳をとっちゃったんだなぁと思う。
1997年、4人の小学生は後に自分たちで名付けた「カシオペアに丘」に上り、夜空に星を見に出かける。4人の名前は俊介、敏彦、美智子、雄司。彼らはいつかこの丘が遊園地になるといいと星に願った。
4人は大人になった。カシオペアに丘には遊園地ができ、北海道に残った敏彦が園長になり、美智子は敏彦と結婚した。俊介と雄司は東京にいる。
この話は、「ゆるしたい相手を決してゆるせず生きていくひとと、ゆるされたい相手に決してゆるしてもらえず生きていくひと」の話なのである。そのどちらも悲しくて、苦しい。
まずは敏彦と俊介の話である。
倉田千太郎が経営する炭鉱で事故がある。坑内では火災が起こっている。消防団である敏彦の父親は坑内に閉じこめられている坑員助けに行って、やはり坑内に閉じこめられてしまった。倉田千太郎は炭坑を守るため、そして炭坑に依存するこの町を守るため、坑内に水を注入して火を消す決断をする。そして敏彦の父親は死んだ。倉田千太郎は俊介の祖父である。
敏彦はこのことを知った時、俊介とけんかになる。そのとき崖から落ちて、下半身不随となり車イスで人生を過ごすことになってしまった。以後ここにいられなくなった俊介は札幌から東京へ出る。
偶然大学のキャンパスで美智子と雄司に再会し、俊介は美智子と暮らすことになった。そして子供ができたが、美智子は流産してしまい、俊介の元を離れる。美智子は北海道に帰り、敏彦と一緒になる。
俊介にとって敏彦には背負いきれない負い目がある。自分は敏彦の父親を殺した祖父の孫であり、いくらけんかの上の事故とはいえ、敏彦を車イスの生活を強いるようにしてしまった。更に今は敏彦の妻である美智子との関係もある。俊介は東京で恵美と一人息子哲生の3人で暮らしていたが、末期の肺ガンに冒されていた。
カシオペアの丘にある遊園地に遊びに来た川原親子がいる。川原、典子、そして一人娘の真由。その真由が典子の不倫相手に殺されてしまう。犯人が捕まる前は、川原は典子と二人で真由を失ったことを悲しんだが、その犯人が典子の不倫相手とわかったとき、典子は川原の元を去り、川原一人、娘の死を悲しみくれる。
雄司はその川原を取材してた。川原親子がカシオペアに丘にある遊園地に遊びに来ていたことを知り、レポーターの神内美唄(ミウ)を連れて、敏彦と美智子に話を聞きに行く。ミウにも過去があった。車を運転していたとき、老婆をはねてしまった。過失は老婆の方にあったが、老婆はその後寝たきりになり、腎不全で死亡した。ミウは自分が事故を起こさなければこんなことにはならなかったと思い、事故の事実がミウ自身の心に深い傷を残した。
そして倉田千太郎は自分の決断で、坑内にいる人を見殺しにしてしまったことを、その後ずっと思い悩み、苦しんできた。それは自分が老いて、痴呆が始まっても、いつまでも心に残った。
俊介、川原、ミウ、そして倉田千太郎がカシオペアに丘に帰ってくる。カシオペアの丘を離れて、時間がかなりたたったこともあり、それぞれの心の内部が変わり始め、「ゆるしたい相手」と「ゆるされたい相手」が再度時間を共有し、抜け落ちた時間を語ることで、今まで自分の負い目を自分で許せなかったことを、許し始める。相手も完全ではないけれど、許そうとする気持ちが生まれていく。それは俊介の余命少なくなってきていることが更にそうせざるを得なくした。それに触発されて、川原やミウも自分自身の心の変化が起こり始めた。
そして相手を、自分を不完全ながら許そうという気持ちになった時、みんなはカシオペアの丘を去る。
「もうすぐ終わってしまう命がある。それを見送る命がある。断ち切られた命がある。さまよう命がある。静かに消えた命もある。その命が消えたあと暗闇をじっと見つめてきた命がある。そこから目をそらしてしまった命もある。身を寄せ合う命がある。孤独な命もある。満たされた命はない。どの命も傷つき、削られて、それでも夜空に星は光つづける」のである。
評価
★★★★
書誌
書名:カシオペアの丘で〈上〉
著者:重松 清
ISBN:9784062140027 (4062140020)
出版社:講談社 (2007-05-31出版)
版型:352p 19cm(B6)
販売価:1,575円(税込) (本体価:1,500円)
書名:カシオペアの丘で〈下〉
著者:重松 清
ISBN:9784062140034 (4062140039)
出版社:講談社 (2007-05-31出版)
版型:341p 19cm(B6)
販売価:1,575円(税込) (本体価:1,500円)
- by kmoto
- at 17:14
comments