2007年09月22日

ジャケ買い

 9月18日の朝日新聞に面白い記事があった。文庫のカバーを若い世代の心をつかむために、表紙のデザインを今風に受けるようなものにして、それが売上を伸ばしているという記事である。たとえば集英社文庫の太宰治『人間失格』のカバーを自社の人気コミック『DEATH NOTE(デスノート)』の小畑健さんのイラストに変えたところ、この夏の3カ月で10万部を突破するヒットになったという。
 まぁ最近の若い奴は本を読まなくなっているから、少しでも若い奴らの気を引こうと出版社も必死なのだろう。このことに関して個人的に言わせてもらえば、「別に読みたくなけりゃ読まなければいい」と思う。むしろ本を情操教育や教養のために是非読まなければならないと主張する奴のほうが疎ましい。それを目的にしてしまう方が嫌なのだ。結果そうなったら、それでいいだけのことだ。本は強制されて読むもんじゃない。読みたいという気持ちが大切だと思う。

 実は私も女優の蒼井優が表紙になっている集英社文庫版の漱石の『こころ』をつい先日買っているのだ。


2007_09_22_01.jpg


 しかも我ながらバカだなぁと思うのは、この漱石の『こころ』はいくつか持っているのだ。いくら好きな作品とはいえ、同じ本を何冊も持ってたってしょうがないとは思うのだけれど・・・。
 たとえば岩波の漱石全集、同じ漱石全集の新書版、袖珍本もあるし、更に和泉書院が出している当時新聞に掲載されたものをそのまま本にしたやつさえある。(当時の雰囲気でも知れればと思ったのだ)
 それでもわざわざ集英社文庫版の『こころ』を買ったのは、別に私が女優の蒼井優ファンだからじゃなくて、こういう表紙は面白いなと思ったことと、口絵の資料や年譜が面白そうと思ったからだ。(言い訳じゃなくて、本当にそう思ったのだ)各社漱石の『こころ』を出しているのだろうから、中身は同じである以上、解説や資料などに特色をだすしかあるまい。カバーも結構だけれど、このあたりを充実させることも必要だろう。そして私は集英社文庫を買ったのも、ここに惹かれたからだ。
 ところでこの記事によると、このカバーはそれぞれの物語の世界をイメージした写真を使っているという。だけど蒼井優がどこかの寂しいそうな旅館らしきところの欄干に手を当てて座っているのが、この『こころ』のどこにそんなイメージがあるのだろうか?

 こういう風にカバーに惹かれて買うのを「ジャケ買い」というらしい。確かにこういうのって面白い企画だと思う。そもそも文庫本の装幀って各社統一感を出すために装丁が同じになってしまっていて、面白くもなんともない部分がある。私は本も読むだけでなく、表の部分を楽しんでいいと思っている。かっこいい装丁の本はインテリアの一部にさえなれるもんだと思うのだ。
 うちの息子は音楽CDをたくさん持っているのだが、その収納棚がCDの表面を見せられるようになっている。いつも感心するのだが、それが意外にかっこいい。本だって何も棚に差し込んでおくだけじゃなくて、見せる部分があってもいいし、おしゃれであればいいじゃんないかと思う。(もっとも収納場所がないので詰め込むしかないのだが・・・)

2007年09月21日

ウンベルト・エーコ著『フーコーの振り子』下

2007_09_21_01.jpg

 アルデンティ大佐という人物がベルボたちがいる出版社に自費出版の依頼にくる。その本の内容はテンプル騎士団の秘密に関するものであった。アルデンティ大佐はテンプル騎士団のある秘密を発見したのだ。

 テンプル騎士団の財産をめぐってフィリップ美王はテンプル騎士団の解体をめざし迫害を加える。迫害を逃れたテンプル騎士団の一部は地下にもぐる。隠れた場所がシャンパーニュ地方のプロヴァンであったとアルデンティ大佐は推理する。
 アルデンティ大佐は1894年の地方新聞からエドアール・インゴルフという人物がプロヴァンの中心にあるグランジュ・オ・ディムという館の地下で何かを発見したことを知る。このあたりはあのレンヌ・ル・シャトーの伝説と同じだ。
 インゴルフが発見したものが何であったのかアルデンティ大佐は調べ始める。インゴルフの娘がパリに住んでいたことを突き止め、訪ねていく。そこにはインゴルフの書斎が残されており、そこでアルデンティ大佐は一枚の紙切れを発見する。そこには難解な文章が暗号のように書かれており、アルデンティ大佐はそれを次のように解読する。

干し草の荷物から三十六(年後の)
聖ヨハネの(夜に)
白いマント(の騎士[テンプル騎士団]のために)
(ヴァン)ジャンヌ[復讐]のためにプロヴァンの(異端転向者が)
六か所で六が六回
一回につき二十(年)で百二十(年)
これが計画なり
最初の者たちは城に向かうべし
再び[百二十年後に]第二陣はパン(の)連中に合流すべし
再び避難場所へ
再び川向こうのノートル・ダムへ
再びポペリカンの宿へ
再び石へ
偉大な娼婦(の)祭りの前に六回が三回[六六六]

 アルデンティ大佐はこれがテンプル騎士団の復讐計画だと解したのであった。ここには六つの任務が書かれたフロチャートで遂行されるべきプログラム(復讐計画)が書かれていて、百二十年ごとに一つの使命を果たすようにそのフロチャートが六カ所に分けられていた。それを次の相手に伝えていくシステムであった。ところがある事情で(暦の改定で)それが次に伝わらなくなり、テンプル騎士団が有する強大なパワーを秘めた計画がわからなくなってしまった。
 この本は長々とその計画がどんなもであり、テンプル騎士団が有した強大なパワーとは何かを世界中の本や様々な宗教結社などから得た知識を駆使し、そこから関連情報をカゾボンやベルボたちがさぐっていく。そしてそれらの正体を突き詰めたとき(推理が完成したとき)、テンプル騎士団の亡霊たちがそれを知ろうとする。
 しかし、このメモの解釈の仕方ではテンプル騎士団の秘密なんてないものになってしまう。たとえばカゾボンの恋人であるリアはアルデンティ大佐のメモを次のように解読する。

サン・ジャン通りで
干し草用の荷車の一台分の単価は三十六ソルディ
六枚の封印のついた新しい布地は
白いマント通りへ
花飾用の十字軍の赤いバラは
六本ずつ束にしたものを六束、次の場所へ
単価二十ドゥニエなので合計百二十ドゥニエ
配達の順序は
最初の六束は城砦へ
次に同数をパン門地区へ
同、避難教会へ
同、川向こうのノートル・ダム教会へ
同、カタリ派の旧館へ
同、ピエール・ロンドへ
それから、六本の束を三束、祭りの前に娼婦の通りへ

 となる。
 アルデンティ大佐のメモは、果たして本当にテンプル騎士団のものであったかは疑わしい。あくまでもそれはアルデンティ大佐が解釈したものであって、それが正しいかどうかはまったく別物である。カゾボンたちがたまたまテンプル騎士団に入れ込んでいるところに、アルデンティ大佐がこの情報を持ってきたものだから、こういうことになってしまっただけのことで、解釈の仕方で、テンプル騎士団の秘密にもなり、あるいは「花屋さんの配達伝票みたいなもの」にもなるということなのだ。
 そして我々読者はアルデンティ大佐のメモに関する解釈をめぐって、ああでもない、こうでもないと著者のエーコに長々とつきあわされた形になる。それはほとんど理解不能な文章で、これでもかというくらいくどい。しかし最後にリアの解釈を読むと、結局「何だったんだ!」ということになってしまう。よく分からない本であった。この本を面白いという人がいるなら、どこが面白かったのか教えてもらいたいくらいだ。


評価
★(やっぱり評価不能)


書誌
書名:フーコーの振り子〈下〉
著者:ウンベルト・エーコ 藤村 昌昭【訳】
ISBN:9784163137902 (4163137904)
出版社:文芸春秋 (1993-03-05出版)
版型:569p 19cm(B6)
販売価:2,344円(税込) (本体価:2,233円)

入手不可(品切重版未定) 文春文庫ならあるようです。

2007年09月06日

ウンベルト・エーコ著『フーコーの振り子』上

2007_09_06_01.jpg


 この本は平成5年に買ってから何度も読もうと思って手に取ったのだが、数ページ読んでこりゃダメだと投げ出してしまった。
 今回とにかく読んでやろうと意を決して、半ば我慢しながらやっと上巻を読み終えた。しかし何だかさっぱりわからない。上巻で理解できたのは主人公であるカゾボンが自分の卒業論文のテーマとしたテンプル騎士団の歴史を語る部分と、カゾボンと知り合いとなったヤコポ・ベルボが勤めるガラモン社の裏の仕事である自費出版のもうけのからくりぐらい。
 ネットで調べてみると、面白いという人もいれば、私みたいに何が何だかわからないという人もいて両極端に別れる感じだ。テンプル騎士団のことは一時興味があって調べたことがあったから多少理解できたけれど、それ以外の西洋の秘密結社(『ダ・ヴィンチ・コード』に出てくる修道僧・シラスが属する敬虔なカトリック組織、オプス・デイもあった)やキリスト教だけでなく世界中の土俗宗教をこうも並べられちゃうと、何がどうなっているのかさっぱりわからない。しかもそれが歴史的事実や人物とからみ合っているのだが、どこかこじつけがましく感じてしまう。いずれにせよ私には理解不能であった。
 こういう裏のというか闇の部分のつながりは、よほど興味のある人じゃないとわからないのではないか。だいたいベルボが言っているが、「テンプル騎士団の話を持ちかけてくる連中はまず間違いなく狂っていることが多い」というのからしても、訳がわからなくなるのも当然のような気がする。下巻も苦労しそうだ。


評価
★(というか私には評価不能)


書誌
書名:フーコーの振り子〈上〉
著者:ウンベルト・エーコ 藤村 昌昭【訳】
ISBN:9784163137803 (4163137807)
出版社:文芸春秋 (1993-03-05出版)
版型:516p 19cm(B6)
販売価:2,344円(税込) (本体価:2,233円)

入手不可(品切重版未定) 文春文庫ならあるようです。