2007年12月07日
雫井脩介著『犯人に告ぐ』
いや~、おもしろかった。今年どれだけミステリーを読んでいるかわからないけれど、少なくとも今年一番の本であった。さすが2004年のベストミステリーにあげられるだけのことはあった。
話は、神奈川県警管轄内で、4人の男の子が殺害される「川崎男児連続殺害事件」が未解決であった。犯人は4人目犠牲者の時、テレビ局に声明文を送りつけ、新たな現場を明かすとともに女子アナを脅した。新たに赴任した県警本部長はこの犯罪を「劇場型犯罪」という。
そして捜査が膠着したこの事件を解決するためには対抗処置として「劇場型捜査」を指示する。すなわち捜査官がテレビのニュース番組に出演して、事件の情報を得るともに、「バッドマン」と自ら称する犯人をこの劇場に再度登場させ、しっぽをつかむことであった。
この事件の捜査を任されたのが、巻島史彦であった。巻島は以前神奈川県警にいた。この事件の6年前、児童誘拐事件捜査に失敗し、誘拐された男の子を死なせてしまった。しかも記者会見でマスコミとやり合ったために、徹底的にマスコミにたたかれる。巻島は事件の責任を取らされて、県警本部から飛ばされていた。
巻島はテレビのニュース番組に出演し、事件後沈黙していた「バッドマン」を再度登場させることに成功する。当然このニュース番組は視聴率が上がっていき、他局のニュース番組は低迷することなる。その他局のニュース番組に巻島の上司、植草荘一郎の大学時代別れた恋人、杉村未央子が局アナとして出演していた。植草は未央子との縁を復活させるために、自分が巻島の上司であって、「川崎男児連続殺害事件」を扱っていることを伝える。未央子にすれば巻島が出演するニュース番組に視聴率を取られている以上、植草から情報は願ってもないことであった。植草にしても未央子との復縁を願っている以上、捜査の情報を未央子に流し始める。
しかし流された捜査情報は巻島たちの捜査をじゃますることとなる。巻島は未央子の番組から流れる情報が、どうも内部から漏れたものではないかと思い始め、植草に罠をかける。
犯罪捜査とテレビの視聴率争い、そして内部情報漏洩者狩りと三つどもえで話はどんどん進んでいく。そして「バッドマン」を追い詰めたとき、巻島の孫の一平が誘拐される。犯人は新宿、原宿、そして横浜と6年前の誘拐事件で犯人が指定した場所と同じ場所を巻島に指示する。そして一平の前で刺される。刺したのはあの男の子の父親、夕起也であった。
「川崎男児連続殺害事件」の捜査が大詰めのところに来たとき、巻島は最後にテレビに出演し、「余興は終わった。これは正義をまっとうする捜査であり、私はその担い手だ」と「バッドマン」に告げた。それを聞いた夕起也は正義の担い手が自分の息子を殺した。怒りは頂点に達したのである。夕起也は巻島に土下座して謝れと迫る。巻島は「謝るときは自分の意思で謝る。指示されて謝るつもりはない」と突っぱねた。
巻島は何とか命を取り留め、そこへ夕起也の妻、桜川麻美が謝罪に来た。巻島は麻美に呼びかける。
「もうすぐ、健児君の七回忌ですね・・・・」
「はい・・・・」麻美は小さな涙声で応えた。
「麻美さん・・・・」
巻島は呼んで、歯を食いしばった。
喉の奥で嗚咽が砕け・・・・。
その声が言葉となって、巻島の口からこぼれる。
「申し訳・・・・ありませんでしたっ」
天井がぶわりにじみ、涙が目尻の堰を一気にきった。
「私は・・・・」
巻島はひくついた喉から、昴ぶったままの声を必死に絞り出した。
「私は・・・・自分の力不足で・・・・あなたから大事な命を・・・・かけがえのない宝物を奪い取ってしまいました」
巻島はきっと眼を見開いて、流れる涙に悔恨の思いを乗せた。
「ごめんなさい・・・・本当に、本当にごめんなさい」
とめどない嗚咽が喉を震わせ続ける。しかし、それでも言わねばという思いだった。自分の懺悔が一掬の救済となって彼女の耳に届くことを信じ・・・・巻島は顔を歪めて言葉を続けた。
「私も背負ってますから・・・・ずっと・・・・今までも・・・・だから、お願いです。あなた方だけで背負い込まないで下さい・・・・私も背負います・・・・これからも・・・・ずっと背負いますから・・・・」
巻島はそれだけを精一杯言うと、あとはもう嗚咽に抗するのをやめ、ただ涙込み上げるままに泣いた。
巻島は「川崎男児連続殺害事件」の間も、そしてこの6年間健児のことは忘れることは出来ずにいたのだ。この場面はちょっとやばかったなぁ。
それと巻島と一緒に捜査にあたっていた津田もいい味を出している。その津田が昔の極悪人が廃人すれすれの生活をしているのを巻島に見せて言う言葉もいい。
「ああいう人の道すれすれで生きていると、いずれは一線越えてしまうってことでしょう。ちょっといつもより針が大きく振れたってことでしょう」と。
評価
★★★★★
書誌
書名:犯人に告ぐ
著者:雫井 脩介
ISBN:9784575234992 (4575234990)
出版社:双葉社 (2004-07-30出版)
版型:367p 19cm(B6)
販売価:1,680円(税込) (本体価:1,600円)
☆現在品切れのようです。文庫本ならあります。
- by kmoto
- at 19:42
comments