2008年01月21日
佐野真一著『東電OL殺人事件』
1997年(平成9年)3月19日午後5時半頃、東京都渋谷区円山町の木造2階建てのアパート「喜寿荘」の1階101号室の空き部屋で、東京電力に勤める渡邉泰子(39歳)が絞殺死体で発見された。捜査本部は殺害現場となった「喜寿荘」の隣りの粕谷ビル401号室に仲間4人と一緒に住でいたネパール国籍のゴビンダ・プラサド・マイナリ(当時30歳)を同年5月20日逮捕した。詳しくはゴビンダはオーバーステイで、入管難民法違反(不法残留)で懲役1年・執行猶予3年の判決を受けた後、その日の午後、すぐに警視庁により泰子殺害および現金4万円を奪った強盗殺人容疑で逮捕され、6月10日、東京地検に起訴される。
私はこの本に以前から興味を持っていて、読んでみたいと思っていた。
この本は事件発生から、東京地裁でゴビンダの判決(一審無罪)の判決が出るまでの三年間をゴビンダが無実であることを詳しく証明して歩いた記録である。著者はこの事件を調べれば調べるほどゴビンダが無実の罪で逮捕された冤罪だと確信を得て、そのことを中心に記述が進む。が、それよりも私はなぜ地位も名誉もある東電のエリートOL渡邉泰子がなぜ渋谷のラブホテル街で一人で立ちんぼをして売春を行っていたのかそっちの方が興味があった。しかもこの本を読んでいると、泰子の奇行は、私には“どうして?”としか言いようがないほど異常であった。
泰子は東大出の父親と、日本女子大出の母を持つ、高学歴の家庭の長女として生まれた。地元の公立中学校から慶応女子校、慶応大学経済学部と進み、昭和五十五年東京電力へ入社した。配属は企画部調査課であった。その後経済調査室副長という管理職に抜擢された。いずれの部署も当時の通産省や資源エネルギー庁との情報交換や経済動向の分析などが主な仕事であった。
大学時代同じ東電に勤めていた父親を亡くしたが、学生時代はかなりの堅物だったようである。その上父親の溺愛からかファザコン傾向があったようであった。
そして彼女がクラブホステスのアルバイトを始めたのは平成元年の頃で、東京電力本社を毎日午後5時20分に定時退社していたのに帰宅はほとんど深夜だった。1991年(平成3年)ころから勤務後は渋谷区円山町界隈に出没し、すぐ近くの道玄坂のホテル街で売春したり、なじみの客と待ち合わせをしたりして、一日に客を四人取るノルマを自分に課していた。しかし毎日きちんと最終に乗って自宅に帰ってきている。
この間の泰子の行動にはかなりの異常性が見られる。コートの裾をたくし上げて路上で放尿したり、道に落ちているビール瓶を拾って酒屋で1本5円に換金し、その小銭を集めて、百円玉に、それがたまると千円札に、さらに一万円札にと“逆両替”をする。ホテルで布団を大便や小便で汚して出入り禁止になっても性懲りもなく利用する。帰りの終電の中で菓子パンをほおばる等々。
泰子が売春を始めたのは三十代であったが、その行為はビルの陰、公園、駐車場と所かまわずで、最後には二千円で客を取っていた。そしてその行為は克明に自分の手帳に記されていた。
ゴビンダはネパールで自分の家を建てるために、オーバーステイしてまでも日本で働いていた。その得た給料をほとんどネパールへ送金してい。そのため金銭的にはかなりきつかったはずであるが、それでも彼の性欲は旺盛で、わずかに手元に残っている金額で彼の性欲を満たしてくれる女性を渋谷界隈で物色していた。泰子とも3回会って性交渉を持っている。
しかしすさまじいのは泰子に方で、一回目の性交渉を持った後、突然訪れて来て「今日もセックスしませんか」と誘ったという。マスコミはこうした泰子の行動を当然放っておくわけがなく、当時かなりおもしろ半分に報道した。
著者は泰子のこうした異常性を探ろうと試みてはいるのだが、如何せんあまりにも裏表の激しい泰子の生活に踏み込めない状態である。結局ジグソーパズルのはめ込まれないままのピースように、泰子の行動に、これという確信を得られなかった。でもこれはやっぱり無理のようにも思える。精神的に異常を帰してしまっていると、言い切ってしまえばそれで済んでしまうことかもしれないが、それがどうして起こったのかは説明できない。間接的な理由を泰子の生い立ちから見いだせるかもしれないが、“これだ!”というものは見つけられないだろう。しかしそれは当然のような気がする。ジグソーパズルははめ込まれないまま残しておくしかなかった。だからゴビンダの無実をせっせと証明しようとこの本はなってしまっている。
それはそれで仕方のないことと思うので、このまま残しておいていいのだと思っていたのに、安直に精神科医の意見を求めたところは残念だし、妙に納得してしまった著者の姿勢はどうもいただけない。いただけないついでに、「ファーストフード」もまずいでしょう。
ちなみにゴビンダは一審では疑いの余地はあるが、無罪となった。そして直ちに検察は控訴、再勾留を要請し、最終的に裁判所もこれを認めた。2000年(平成12年)12月22日、東京高裁で判決公判が開かれ、「原判決を破棄する。被告人を無期懲役に処する」という判決が出る。2003年(平成15年)10月20日には最高裁が上告が棄却され、無期懲役刑が確定する。現在、横浜刑務所に服役しながら、無実を訴え、2005年3月24日、再審請求を提出したという。建設が一時止まってしまったネパールのゴビンダの家はどうなっているのだろうか?
評価
★★
書誌
書名:東電OL殺人事件
著者:佐野真一
ISBN:9784104369010 (4104369012)
出版社:新潮社 2000/05出版
版型:444p 20cm(B6)
販売価:絶版のため入手不能。新潮文庫ならあるようです。
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- by kmoto
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