2008年02月23日

佐野眞一著『この国の品質』

2008_02_23_01.jpg


 いつもこの人の本を読んだ後、もうこの人の本を読むのはやめようとと思うのだが、どういう訳か新作が気になり読んでしまう。そして前と同じで、だめだなこりゃと思うのだ。今回も同様で、読んだ後何でこの人の本が気にかかるのか。そして何がおかしいのか考えてみた。

 この本では、最近の日本の品質が著しく低下していることを憂う。特にメディアの退廃のひどさを前書きで次のように言う。
「メディアの退廃は、これに輪をかけている。テレビで構造改革を叫ぶ者が、実は権力の我利我利亡者にすぎないことを、われわれはとっくの昔に知ってしまった。
 それを知らずに有頂天になっているのは、メディアのなかで相かわらず俗情におもねった浅薄な構造改革論を言い立てる本人だけである。その恥知らずな言動には、底なしの卑しさが漂う。廉恥心の美徳を忘れれば、人間は際限なく厚顔になれる。
 権力の暴走を監視するはずのジャーナリズムは、怒って見せるだけの権力の補完物になり下がり、マスメディアから日々垂れ流される情報は、読む者、聞く者、見る者の共感を呼ばないどころか、われわれの胸に響いて、つき動かすということがない」と。まさにその通りと思い、今回はちょっと期待できるかなとページを進んだが、結局この著者の情報もつまるところゴシップ的であるように思えてきた。
 著者が尊敬する民俗学者の宮本常一が自ら「あるく みる きく かく」をして、独自の学問を完成してきたことを自らの戒めとして、ルポライターとしての自分を確立していこうとするところはわかるが、結果著者が地にはうようにして得た情報はゴシップ的要素にとどまってしまっている。それがある意味衝撃的なだけに、へぇ~そうなんだとそれだけが頭に残ってしう。しかも時にはそれを何度も使って、話に色をつけている。
 著者が宮本常一の「あるく みる きく かく」を戒めとして、地をはうように様々な情報を得ることは、それこそ大変なことだし、すばらしいことだと思うけれど、だからといって、そうして苦労しないで得た情報は意味がない、あるいは浅薄だと断罪する姿勢はいかがなものかと思うのだ。
 たとえば司馬遼太郎さんの『街道をゆく』を自らの足で歩かず、車に乗って、何人もお伴を引き連れた「大名旅行」だったいい、このことをもってして司馬さんのイメージが壊れたというのだが、私からすればえっなんで今頃そんなことをいうのだろうと思ってしまったのだ。しかも司馬さんの『街道をゆく』がこうして車を使った「大名旅行」だったことはあまり知られていないと平気でいうのである。
 これを読んだとき、私はこの人、司馬さんの『街道ゆく』全部読んでいないなと思ったのだ。いや全部読まなくてもいい。ある程度読んでいれば、司馬さんが車に乗って旅されたことは至る所に書かれている。つまり司馬さんの読者は知っていることなのだ。それをたいして読んでもいなくせに読んだかのように「知られていない」と平気で言うのはどういう神経をしているのだろうか。しかも宮本常一のように自らの足で歩かない紀行文を否定する言いぐさはない。
 同様の発想がインターネットに関する著者の意見にも見られる。つまりインターネットの情報が安物で、中身の薄いものと決めつけてしまい、またそこから情報得る人の安易さに危機を感じている。
 けれど、果たしてネット上の情報がすべて安物で中身のないものと断定できるのだろうか。少なくとネット上に真摯に読んで、調べて、書いている人もたくさんいる。その中には貴重な情報もたくさんある。もちろんどうしようもないものもたくさんあるので玉石混合状態なのだが、だからこそその中から貴重な情報があれば有り難いのだ。
 自分のことを偉そうに言うつもりはないけれど、こうして本を読んで、書くだけでもかなり頭を使い、書いている。それが地に足がついていないと言われるんじゃたまらない。だったらあんたのように本に書かれていれば地道なもので、貴重なものなのかと反論したくなる。
 ネットで簡単に情報が得られることにも危惧しているけれど、それは手段であり、方法なのだから、それでいい。むしろ情報の共有が簡単にできることの意味の大きさを考えるべきであって、問題はネット上で得た情報をいかに有効に使ったかその一点にかかってくるんじゃないかと思う。それこそ著者が力説する「読む力」が問われるだけのことじゃないかと思うのだ。
 私は一昔前のやり方がいちばん良くて、大変な労力要するやり方が一番だと主張する輩は大嫌いだ。


評価
★★


書誌
書名:この国の品質
著者:佐野 眞一
ISBN:9784828413914 (482841391X)
出版社:ビジネス社 (2007-11-05出版)
版型:334p 19cm(B6)
販売価:1,785円(税込) (本体価:1,700円)

trackbacks

trackbackURL:

comments

comment form

(どんなことがあっても、本が好き にはじめてコメントされる場合、不適切なコメントを防止するため、掲載前に管理者が内容を確認しています。適切なコメントと判断した場合コメントは直ちに表示されますので、再度コメントを投稿する必要はありません。)

comment form