2008年03月13日
阿刀田高著『ことばの博物館』
これで今まで手に入れた阿刀田さんのエッセイ集はすべて読んだことになる。で、こんなに立て続けに読まなきゃよかったと後悔している。だんだん面白くなくなってきてしまったのだ。そりゃそうだよな。好きな食べ物も毎日食べていたら飽きるのと同じである。それに話の内容が重複するのが気になって仕方がなかった。あれ?この話前の本で読んだぞといった感じである。
この本は書名の通り、世間一般に使われていることば、特に故事成語の意味を阿刀田流に解説してくれている。しかし故事成語ばかり並べている訳じゃない。それだと故事成語辞典になっちゃうから、今風のことばも加えている。まぁ先に読んだ『左巻きの時計』ほど下半身にこだわっていない感じの本と思えばいいかもしれない。
でも読んでいて、「へぇ~」と思うことや、「確かに!」と感心してしまう部分があった。
まずは問題です。最後の肝腎なところで手落ちがあることを中国の故事で何といいますか?
答えは「画竜点睛」といいます。で、これを何と読みます。ガリュウテンセイと読んだら間違いです。正しくは「ガリョウテンセイ」と読みます。リュウではなくリョウなのです。坂本龍馬もサカモトリョウマと読むでしょう。それです。私もリュウと読んでいました。そして点睛のセイですが、晴ではないことも知りました。意味は瞳のことだそうです。ですよね。意味から考えれば、晴ではおかしい。
最近テレビで日本語に関するクイズ番組が流行っている。これを見ていると、自分では正しいと思っていても結構間違った読み方や意味で覚えていることが多い。これもいい例かもしれない。
また「健全なる精神は健全なる身体に宿る」という言葉がある。よく中学や高校の体育の先生が言いそうな言葉なのだが、これは有名な誤訳だという。確か中学時代読んだ五木寛之さんのエッセイにも同じことが書いてあったのを思い出す。これだと身体が丈夫な人しか健全な精神はもてないことになるじゃないかと疑問を呈していて、それが誤訳であることを教えてくれた。
阿刀田さんも同じ疑問を持っている。この言葉の出典となったのは、古代ローマ風刺詩人ユベナリスという人の詩の一節で、そこには「賢者が神に願うものは、健全な身体に宿った健全な精神であって、この二つさえあれば、それだけで満足すべきものだ」と言っているそうだ。どこをどう押しても健全な身体に自動的に健全な精神が宿るなんていっていないのだ。
「日本は人格者が多いのか、偽善者多いのか、外国の名言を日本語に訳すとき道徳教育のたしになるように訳すのが大好き」だからこういうことになるのだと阿刀田さんは言っている。そうかもしれない。人格者や偽善者の都合のいいように訳された名言なるものはある意味迷惑な話である。案外こんなことは多くあるようで、この本ではその間違いを指摘してくれている。
感心したこともいくつかある。面白かったのは、世界の国々の人々の特徴を言い表す言葉。たとえば「フランス人が作曲し、ドイツ人が演奏し、イタリア人が歌い、イギリス人が聞き、アメリカ人が金を払う」とか、「フランス語で恋を語り、ドイツ語で神を説き、英語で演説し、ロシア語で馬を叱る」とか、「ある夜、女性ばかりのキャンプに暴漢が押し入った。日本の娘は処女を失ってメソメソ泣きくずれた。イギリスの娘は風聞をおそれて、けっして秘密を漏らすまいとみんなにもちかけた。ドイツの娘は犯人をつかまえて断固制裁を加えるべきだと主張し、フランスの娘は・・・・べつに気にもかけなかった」というもの。それぞれのお国柄や民族性をうまいこと言い表している。
また「蛍の光、窓の雪」とい歌があるが、もともとはスコットランド民謡にそんな歌詞をつけたもの。むかし中国の晋の国に孫康という男がいた。幼いときから勉学の志が強かったが、家が貧乏で油が買えない、それで雪明かりをたよりにして本を読んで勉強していた。さらに同じ晋の国に車胤という男がいて、この人物も勉強が好きであったが、やはり貧乏で油が買えなかった。そこで蛍を捕まえて絹の袋に入れて書を読んだ。二人ともこうして苦学して役人となる。
ここから阿刀田さんの皮肉が始まる。この二人は刻苦勉励して宇宙の深遠な心理を突き詰めたというならともかく、結局たかが官僚的立身出世主義の権化でしかないという。それよりこの二人は雪のない季節や蛍のいない季節はどうして勉強したんだ?とそっちの方が気にかかるという。雪や蛍のいない季節の方が遙かに長いじゃないかと皮肉るのである。確かにそうだ。こういうスタンスは好きだな。
評価
★★
書誌
書名:ことばの博物館
著者:阿刀田 高
ISBN:9784167278106 (4167278103)
出版社:文芸春秋 (1989-06-10出版) 文春文庫
版型:234p 15cm(A6)
販売価:入手不可
- by kmoto
- at 12:40
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