2008年03月16日
梅田望夫著『ウェブ時代をゆく』
前作『ウェブ進化論』がインターネット世界がどのように進化し、社会を変えつつあるか、大まかな展望をみていたのに対し、今回はじゃあインターネットで変質した社会をどうやって生きていくべきか、「その時代に生まれる新しい生き方の可能性」を模索したのがこの本である。まぁ今度は実践編というところなのだろう。
インターネットは私たちの「時間」と「距離」と「無限」についての概念を揺さぶる。つまりインターネットは私たちに「距離」の制約を感じさせない。情報が瞬時に伝わるため「時間」の感覚さえ感じさせない。不特定多数が参加するため、情報が「無限」でしかもコストがゼロだ。だからインターネットを利用すれば、どこにいようとも、ある分野を極めたいという志さえあれば、効率よく、スピーディーに吸収できる。そのためネットに「住むように生きる」ことができるようになってきて、まるで別世界に住んでいるかのように、「もうひとつの地球」に住み、暮らすことが可能になる。
そしてそうした世界に住んでいる人たちは、リアル社会において、もうひとつの生き方を提唱するのだ。つまり既存の社会は年寄りが威張り、支配し、自分たちが思うようなレールを引いて、若い人たちをその上に強引に乗せ、強要する。しかし世の中には「大組織適応性にすぐれた人たち」ばかりでできているものではない。日本の教育システムにあまりあわず、大組織適応性がなくても、社会性に富み、創造的で質の高い仕事ができる若者もたくさん日本にいる。そういう若者たちが「好き」でやってきたことをどんどんやっていき、さらに創造的で独創的なものを生み出し、違った価値観を生み出す。
たとえば“働く”ということ一つとっても、リナックスを例にとり、情報が共有され、公開され、個人でそこに参加できる。その個人の成果、貢献度だけが評価され、他者から注目され、賞賛される。今までは“働く”というは労働に対して、金銭に換算されたものをいってきたが、評価され、注目され、賞賛された個人ははそのことが満足感となり、無償で“働く”という価値観を生み出すという。
確かにインターネットは、それまでのわれわれの常識を打ち破りつつある。そのためわれわれがそれまで持ってきた価値判断や常識では計りがたい状況を生み出している。ネットの社会は「もうひとつの地球」を作り、そこに「住むように生きる」ことができるようになりつつあるのかもしれない。だからわざわざ既存の社会を「リアル社会」と別けるのだろう。
しかし私はこの本を読んでいてどこか違和感があった。著者は今ネットが変えつつある、個人の意識を最大限に評価し、賞賛するのだが、それは著者自ら言っているように“オプティミズム”以上のものがありはしないだろうかと思うのだ。
元々ネット社会を強調するために、既存の社会を「リアル社会」と言い放つこと自体、私は好きになれない。既存の社会を「リアル社会」というなら、ネットの社会はバーチャルな社会ということになる。「リアル社会」がなければ、著者が言う「もうひとつの地球」は成り立たないはずだ。なぜならネットの社会で「住むように生きる」人たちは仙人じゃないのだから、かすみを食って生きていけるものじゃないだろう。「リアル社会」に必ずどこかで依存して、たとえば広告収入などに、生きているはずだ。つまり「リアル社会」に許容力があるからネットでの価値観を認めるんじゃないのかと思うのだ。あるいは「リアル社会」が行き詰まっているから、ネットが生み出す価値観を受け入れているんじゃないかと思うのだ。そこにある何らかの可能性を「リアル社会」が求め、組み入れたいという意識がネットを支えているようにおもえるのだがどうだろうか。そもそも人が生きること自体、リアルなんだから、「もうひとつの地球」に生きるなんておかしな話だ。
といっても私はネットの可能性は否定しないし、ネットが生み出す技術や価値観、あるいは機会均等性は評価するつもりだ。しかしそれでさえ、「リアル社会」に足をしっかりついていての話であって、より良い「リアル社会」のためであることがネットの存在感だと思っている。
さらに何でもかんでも年寄りが支配する、ある意味生き方を強制する社会だから、それからドロップアウトした人たちは能力が劣るとは思っていない。が、社会というものは、自分勝手にやっていては成り立たないものである以上、人それぞれ得意分野で社会に参加すべきであるべきであって、その得意分野がネットの世界ならそれで社会に参加すればいい。それだけのことじゃないかと思うのだ。わざわざ「リアル社会」とは別に「もうひとつの地球」を意識して作り上げ、そこに暮らす必要性はない。この本はどこかネットのすべての面で変化や可能性を肯定し、それがベストと言っているように思えてならなかったのだ。あくまでも「リアル社会」で生きるための一つの生き方にネットがあると言うべきだったんじゃないのかと思う。ネットの可能性を強調しすぎる傾向があり、ネットも「リアル社会」があるから成り立っていることをきちんと言うべきだったんじゃないのかと思うのだ。
評価
★★
書誌
書名:ウェブ時代をゆく―いかに働き、いかに学ぶか
著者:梅田 望夫
ISBN:9784480063878 (4480063870)
出版社:筑摩書房 (2007-11-10出版) ちくま新書
版型:244p 18cm
販売価:777円(税込) (本体価:740円)
- by kmoto
- at 07:29
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