2008年03月05日

阿刀田高著『まじめ半分』

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 続いて阿刀田さんのエッセイを読む。
 これまで読んだ文庫本の巻末に阿刀田さん著作リストが載っていたので、その中からエッセイを抜き出し、紙に書いて、探しにブックオフへ行く。うちの近くのブックオフには阿刀田さんの文庫本が結構あると思っていたのだが、エッセイ集と限定すると、それほど手に入らなかった。これは今後探す必要性が出てきたので、古本屋さん巡りをするときが楽しみである。
 さて、この本の題名はうまく名付けたと思い感心してしまった。まさにこのエッセイはまじめな部分半分、後の半分はジョークや笑いを誘う文章でうまく締めくられている。だから、確かにそうだ!と阿刀田さんが言わんとすることに感心したり、あるいはほほ~と阿刀田さんの博識なところを感心する。そして例のごとくちゃかした感じで笑わせてくれるところもちゃんとある。

 先に“笑いの半分”から。「女房と本棚」というエッセイ。
 人の本棚を眺めていると、その人が本当に興味を持っているのは何なのか、思考傾向や趣味嗜好まで大方見当がつくという話なのだが、確かにそれは言えているかもしれないと思ったのだ。
 たとえば竹村健一の本があれば、「ああ、なるほど。このあいだ核エネルギー問題について、いっぱしのことを言っていたけど、この本の受け売りだな。ちょっと軽薄だぞ」とか、小林秀雄の“本居宣長”なんかあれば、「へえ、驚いた。知的好奇心があるのは本当らしいが、新聞の批評なんかに踊らされて、こんな高価な本を買うところもあるんだな。インテリ性みえっぱり」と推察できるというのだ。確かに。私は他人の本棚なんか覗いたことがないので、こういう経験はしたことがないけれど、もし見る機会があれば、同じようにあれこれ推察しちゃうだろうなと思う。
 そして新婚まもない友人宅で謝国権(うわ!久しぶりにこの人の名前を聞いた!)の“性生活の知恵”が二冊もあったのを見かけて、阿刀田さんは次のように推察する。
「一冊は亭主が買ったもの。一冊は奥さんが買って実家から持ってきたもの。二人とも事前に一応研究したんだな。ご夫婦ともに文献でものごとをよく調査研究してから実行に移すタイプらしい。それにしても本棚の中にこの手の本をおいておくところを見ると、セックスについてはかなり開放的な考え方を持っているほうだろう。このぶんなら二人でいろいろ研究しているにちがいない」と。
 これはちょっと眉につばをつけて読まないといけないなとは思うけど、思わず大笑いしてしまった。
 そしてさらにこの夫婦には後日談があり、更に笑えるのである。
 それから一年半たった四月にこの夫婦に子供が出来た。その知らせを聞いた阿刀田さんは「うん、なるほど」と得心するのである。というのも、赤ちゃんを産むのに一番いいのは四月である。季候もよくなるし、充分成長してから幼稚園や小学校に入れることが出来るからだ。“性生活の知恵”をそれぞれ持参して研究する夫婦だから当然計画出産だろうというのだ。

 あまりバカなことに大笑いしていると、私の人格が疑われそうなので、“まじめ半分”のこともちゃんと書いておかないとね。まずは「コンプレックス」というエッセイから。
 コンプレックスといえば劣等感の意味だと思っていた。要するに自分が他人よりおとっているという感情のことだ。しかしこれでは正解というわけではないらしい。本来の意味は「深層心理が抱く願望のこと、つまり自分では意識できないけれど心のどこかに、ある欲望が抑圧された状態で鬱積していて、それがいつか噴き出すチャンスを狙っている-そんな心理傾向を指して言う」ことらしい。だから劣等感もコンプレックスの一種と考えた方がいいのかもしれない。鬱積して噴き出すと劣等感に陥るというところか?
 ここで阿刀田さんが得意とするギリシア神話が出てきたのでギリシア神話の話を。
 エディプスというギリシア神話の英雄が父を殺して母と結婚したことから、男性は成長期において、自分では意識しないけれど、父親をライバル視して憎み、恐れ、母親を最初の異性として愛する心理傾向をギリシア神話の英雄のこの名前を借りてフロイトがエディプス・コンプレックスと名付けたという。

 ついでにギリシア神話の「パンドラの箱」についても。
 プロメテウスが神々の国から火を盗んで人間に与えたのを怒ったゼウスは、人間たちを懲らしめるために贈ったのがパンドラという女性だった。パンドラはゼウスから邪悪な贈り物を持参の箱の中に隠し持っていた。ゼウスからこの箱を絶対に開けてはならぬと言われていたが、気になり開けてしまう。すると怪しい煙が立ち上り、病気、戦争、悪意、嫉妬など、ありとあらゆるこの世の悪が飛び出した。人類の不幸はこのときから始まったとギリシア神話はしているのである。パンドラはあわてて箱のふたを閉めたが、時既に遅く、諸悪の根源はすべて飛び散ってしまったが、かろうじて箱の底に残ったものがあった。それが“希望”であった。人間がもろもろの悪にさいなまれながらも、希望だけを一縷の救いと持ち続けられるのも、このせいなのだ。さすがギリシア神話はよくできている。

 ということで、アホな笑いを楽しみながら、ちょっと物知りになれたのがこの本でった。


評価
★★★


書誌
書名:まじめ半分
著者:阿刀田 高
ISBN:9784041576021 (4041576024)
出版社:角川書店 角川文庫
版型:242p 15cm(A6)
販売価:入手不可

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