2008年04月09日
阿刀田高著『好奇心紀行』
この本に収録されているコラム、エッセイの初出が最後にまとめてあるのだが、それを見てみると、いかにも雑誌などに書かれた文章を寄せ集めてこの本を出したという感じである。その関係で、大まかにまとめてはあるものの、やはり統一感がない感じがする。
大まかにまとめられているのは、いわゆる雑文と旅に関するエッセイである。雑文の方は阿刀田さんの作品について書かれたものは興味がわき、ちょっと読んでみたいなという気持になった。
旅に関しては、阿刀田さんは世界各地に旅をされているので、興味深い。特にギリシアやトルコなど小アジアの古代の遺跡のある旅の記述は、読んでいて自分も行ってみたいなと思う。
トルコの旅でタイル細工がみごとなモスクの宮殿やモスクを訪ねているのだけれど、それを見て、「りっぱなお風呂屋さんみたいだなあ」と思ったというのは笑ってしまった。
でも阿刀田さんの感想は、最初きわめて庶民的で、現実的でわかりやすいし、なるほどと思ってしまう。たとえば、吟醸酒について書かれている文章。阿刀田さんは吟醸酒についての知識は「とにかくいいお酒なのだろう」という程度のものであるとまず前置きで書いておき、実際に灘に行って吟醸酒を飲みに行く旅に出る。灘の酒がいいのは、いい水がでるからで、実際その水を飲んでみる。感想は「わからんなあ。うまいような気もするけど、世の中には気のせいということもある」である。
先のモスクのタイルにしても、灘の水にしても、偉そうにわかったようには、絶対に言わないところがいい。得てしてこういうときはひとつ、ぶってしまうものだけど、そんなことは一切しない。自分に素直に感じたままに言う。だから読む方は親近感もわくし、リアルに感じることが出来るような気がする。
中にはへぇ~と思えるものもある。たとえば、アレキサンドリアにあった世界最古の図書館について書かれた文章。この図書館の蔵書は七十万冊もあったといわれており、クレオパトラも自慢していたらしい。ところが小アジアのペルガモンに新しい図書館ができ、アレキサンドリアの図書館を凌駕しそうな勢いであった。当然クレオパトラは面白くない。恋人のアントニウスに「ねぇ、ペルガモンの図書館が、すごいんですって。このまんまじゃアレキサンドリアが負けちゃうわ」と訴えたという。(このフレーズはいかにもクレオパトラが言ったよな感じがするので、非常にわかりやすい)訴えられたアントニウスはそれじゃまずいから、ペルガモンの蔵書を全部アレキサンドリアに移そうと約束する。またそれとは別に、クレオパトラに言い寄られて、ペルガモンの図書館の本もパピルスを使って書かれていたから、パピルスをペルガモンに輸出しなきゃ、ペルガモンは困り、アレキサンドリアを凌ぐことは出来まいと言ったという。
困ったペルガモンはパピルスの代わりに羊皮紙を作り出す。このお陰で、人類の記録がよく残されることなったという。パピルスだと数百年の時間を超えて記録は残らなかったからだ。故に阿刀田さんはクレオパトラのおねだりがなかったら、世界の歴史は変わっていただろうというオチになっている。
この本で残念なのは、一枚の風景写真や人物写真をあげて、それに関する阿刀田さんのコラムを書かれている「一枚のフォークロア」と「アジアの風」である。如何せんモノクロ写真なので、民族衣装の鮮やかな色について書かれていてもピントこない。そのことに関しては断りの文章があるのだけれど、やっぱりカラーじゃないとよくわからない。まして文庫の載せてある写真はひどい代物なのでどうしようもない。
評価
★★★
書誌
書名:好奇心紀行
著者:阿刀田 高
ISBN:9784062636216 (4062636212)
出版社:講談社 (1997-10-15出版) 講談社文庫
版型:269p 15cm(A6)
販売価:入手不可
- by kmoto
- at 18:30
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