2008年04月26日
日本ペンクラブ編 阿刀田高選『恐怖特急』
いわゆるこうしたアンソロジーというのは、編纂する方が楽しんでいるんじゃないかと思ったりする。選出者テーマに沿ったものを選び出すのに、結構苦労するらしいことを阿刀田さんはエッセイで書かれていたが、選ぶ方としてはこれは入れたいけれど、本のページの制限もあるだろうから、捨てざるを得ないものや、これは絶対に入れたいという思いこみのある作品など、あれこれ悩みながら編纂しているのを楽しんでいるようにも思える。確か喜国雅彦さんも、もし自分が好きな探偵小説のアンソロジーを編めと言われたら、いろいろ悩むだろうと言っていたけれど、一方でそれを楽しんでいるところが感じられた。
さて私の方はアンソロジーをほとんど読んだことがないので、どんなものなのか多少期待していたのだが、今回「いや~、これは怖いなぁ」と心底思えるものはなかった。
たとえば映像や音などは有無も言わせず、いきなり来て、身構える時間を与えない。ダイレクトに恐怖感を味うこととなる。ところが文字に書かれた恐怖というのは、段取りを踏んで、状況を説明し、恐怖へ追い込む。その手間が逆に恐怖感を弱めてしまことにもなる。文字で書かれた恐怖感はだんだん怖くなるといった感じでしか持って行きようがないのかもしれない。
その上私はもともと鈍感なところがあるので、時間を置かれた恐怖にはそう驚けない。さらに馬齢を重ねている関係で、すれっからしになっているところもあるから余計である。結局選ばれた作品を読んで、失望し、次に期待して、またそれほどでもなかったなぁと思い、本が終わってしまった感じであった。
その中で多少怖いなと思ったのは、結城昌治さんの『怖い贈り物』であった。酔った勢いでタクシーの中で女性社員にキスをしてしまった男の話である。この女性は男性経験がないようで、その行為を真剣に受け止めてしまい、その男の机の引き出しに小さな花束をしのばせておく。最初はスイトピー、次がマーガレット、スズランと。そして彼女の行為は更にエスカレートして、男の自宅にバラの花束、鉢植えのシクラメン、ヒアシンス、アネモネ、を置き、最後の黒ユリが置かれる。
花には花言葉がある。スイトピーは「恋の喜び」。マーガレットが「真実の愛」。スズランは「純愛」。赤いバラは「情熱」。白なら「純潔」。黄色なら「嫉妬」。置かれていたバラは三色束になっていた。このあたりから彼女の執念みたいなものが表に出てきて、ヒアシンスが「悲しみ」アネモネが「忍耐、期待、私を捨てないで」で、黒ユリは「呪い」となる。彼女は男の元を訪ね、黒ユリの花言葉の説明をし、呪われたものは必ず死ぬと言い、以前彼女の手を握った同僚が黒ユリが枯れたとたん、交通事故に遭い死亡したことを伝える。
男はノイローゼになり、黒ユリを枯らさないようにせっせと水を与えるが、黒ユリは枯れ、男は死にはしなかったが、会社を辞め、死を待っているようにぼんやりとするようになった。
花言葉にはほとんど興味がないが、結構恐ろしい意味の言葉もあるんだなぁと思った次第。
あとは、山川方夫さんの『箱の中のあなた』もちょっと怖かったかな。三十過ぎの内気で、臆病な女が旅行者に景色をバックに写真を撮ってくれと頼む。女はもっといい景色の場所があると男を誘う。男は予定通り、女を襲うが、抵抗に遭い逆に殺されてしまう。
女のアパートにはこの男の写真が立てかけられるが、女は「ね?殺しちゃって、ごめんなさい?でも我慢してね。私は、生きている人がこわいの。だって、いつどこへ行っちゃうかわからないし、生きている人は本当には私のものにはなってくれないですもの。このあなたならおとなしくて、けっして私を裏切りもしないわ。私たちは、だましあうこともいらないのよ。きっと、あなたもお淋しくないと思うわ。いつまでもいっしょに暮らしましょうね。仲良く・・・」と写真に話しかける。そして鍵のかかった本棚には黒いリボンをかけた別の写真立てがあり、「ええと、あの人は何番目だったかしら」と言うのである。
結城さんの作品も山川さんの作品もまさに「げに恐ろしきは、女なり」である。
評価
★★
書誌
書名:恐怖特急
著者:阿刀田高・日本ペンクラブ
ISBN:9784087510294 (4087510298)
出版社:集英社 (1985/04出版) 集英社文庫
版型:358p 16cm(A6)
販売価:入手不可
- by kmoto
- at 05:49
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