2008年06月10日

フレデリク・フォ-サイス著『アフガンの男』下

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 おいおい、これでおしまいかよ。ここまで盛り上げておきながら、この結末はないんじゃないの?しかし何となくこうなるんじゃないのかなあと感じていた。アルカイダが9.11以降大規模なテロを計画し、実行する。そしてそれがどんなテロなのか、アメリカやイギリスの情報局が探りを入れ、阻止しようとするのがこの本の話なのだが、そのテロに使われたのが船であるところに、話の面白みに限界があるように思える。
 だって、テロリストが船に乗ってしまえば、そこに潜入したSASのマイク・マーティンには、そのテロがどんなものなのか伝える手段がないし、阻止するにもマイク自身がするしかない。なぜなら外は大海原なのだし、船の中には自分以外テロリストしかいないのだから、必然的にそうならざるを得ない。だからテロが進み始めると、話は行き詰まってくる。ということは読む側にとって話が見えてしまうし、実際その通り話が終わる。
 しかも、実際のテロが進行する場面は下巻の後半の後半で、もうすぐ終わっちゃうよと心配したくなるところからで、ぎりぎりまでクライマックスがこない。そしてそのクライマックスも“これだけ?”と言いたくなるくらい。
 まぁ、結果は尻つぼみだったけれど、その過程は充分楽しめたので、“よし”とするしかないかと思うことにした。

 フォーサイスはいつもそうなのだが、実際あった事実と、今進行しつつある現実の中に物語の登場人物を組み込み、しかも何の不自然さもなく、いつの間にかその事実や現実に登場人物がいたようしてしまう。だから過去にあった、あるいは現在進行しつつある戦争や紛争の中で、リアルに行動しているように感じさせる。それはフォーサイスが膨大な情報を駆使しているため、当然あってもおかしくない状況をうまく生み出すからだろう。
 たとえば主人公であるマイク・マーティンがアフガニスタンに潜入するとき雇った地元のガイドのイズマート・ハーン(後にタリバン戦士となる)が当時のソ連軍のヘリに銃撃され、イズマート・ハーンが足に大けがをする。何とかとある洞窟にたどり着く。その洞窟内部には兵舎、モスク、図書館、厨房、商店、外科病院まで設備されていた。イズマート・ハーンはそこで手術を受けた。手術後病室に入ってきた男がイズマート・ハーンに「年若いアフガンの闘志の気分はどうかね?」尋ねる。その男はオサマ・ビン・ラディンで、手術をしたのが、アルカイダのナンバーツーのアイマン・アル・ザワヒリ医師であった。今世界で最も危険な人物たちが、こうしてさりげなく登場するのである。(後にこのことがイズマート・ハーンの勲章となり、彼に扮したマイク・マーティンがアルカイダに潜入できるきっかけとなる)
 私はアフガニスタンの政治状況についてまったく疎いのだが、この本を読んで、ちょっと勉強になったこともある。アフガニスタンからソ連が撤退した後、何千人もの若いアフガン人は学業を終えるためにパキスタンにある神学校(マサド)に戻っていった。そこでワッハーブ派による洗脳を受けた。ワッハーブ派は極めて厳格なイスラム原理主義に基づく宗派であった。現在もサウジアラビアの国教であり、オサマ・ビン・ラディンもその信徒であった。
 アフガニスタンの政局は不安定で、中央政権が倒れてしまった後、軍は一番お金を払ってくれる地元の軍閥に身売りしていく。軍の無法状態が続いた。カンダハルの郊外で村の娘二人が連れ去られ、輪姦された。村の宗教指導者は報復のため立ち上がり、基地に乗り込み、兵士達を殴り倒し、司令官を戦車の砲身で吊し首のした。この指導者がハンマド・オアマール、いわゆるオマール師である。彼は地方の英雄となった。彼の下に一万二千人もの男達が集まり、彼が巻いた黒いターバンを自分たちまねて巻いた。自ら弟子と称した。パシュート語では弟子をタリブといい、その複数形がタリバンである。彼らはどんどん巨大になり、カンダハルに代替政府樹立する。タリバン政権はイスラムの価値観に基づいたアフガニスタンの復興を目指したが、イスラムの名のもとに国民に女子教育禁止など極端な人権侵害を行ったため国際的に孤立した。さらにアメリカ合衆国に対するテロ行為の黒幕と目されていたサウジアラビア人オサマ・ビン・ラディンを客人として迎え入れてかくまったことから、アメリカと激しく対立する。
 オサマ・ビン・ラディンは9.11の首謀者としてみなされ、タリバンはアメリカにオサマ・ビン・ラディンの身柄の引渡しを要求されるが、オマールはこれを拒否した。このためターリバーンは米軍の攻撃対象とされ、米軍と北部同盟の攻撃により2001年12月までに政権は崩壊した。

 この本は最後に欲求不満がのこるけれど、フォーサイスがストリーテラーとしての醍醐味は随所に健在だし、このようにちょっと勉強になることもあったので、読んでよかった。
 それはそうと、この本の主人公マイク・マーティンはフォーサイスの前の本『神の拳』にも登場していたことを解説(いつも解説は訳者の篠原さんが書かれて、本の裏話やフォーサイスの近況などを教えてくれるのだけれど、今回は書かれていない)を読んで知り、愕然とする。フォーサイスファンとしては当然覚えていていい名前であったはずなのに、まったく記憶に残っていなかった。
 『神の拳』は確か湾岸戦争を舞台にして、サダム・フセインの大統領親衛隊との戦いを描いたものだったと思うのだが(これもあやふやなので自信がない)、まさかこの本の主人公がマイク・マーティンだとは思わなかった。この本が書かれたのは1994年だというから、もう14年前に読んだものだ。だから忘れても仕方がないけれど、あわてて本この本を取りだし、再度読むことにした。


評価
★★★


書誌
書名:アフガンの男 下
著者:フレデリク・フォ-サイス・篠原慎訳
ISBN:9784047915596 (4047915599)
出版社:角川書店 (角川グル-プパブリッ) 2008/05出版
版型:269p 20cm(B6)
販売価:1,785円(税込) (本体価:1,700円)

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