2008年06月23日

角田光代・岡崎武志著『古本道場』

2008_06_23_01.jpg


 この本単行本の時も気になっていた本であった。それが今回ポプラ社が文庫本を創刊することになり、第二弾としてこの本がラインアップされた。早速購入する。ポプラ社が文庫を創刊することに関しては、少々期待している。ポプラ社はいい本を資産としてもっているのだから、今風のネットで話題になっているものなど文庫化するより、もっているいい本をどどんどん文庫化して欲しいなと思う。

 さて、この本は師匠役の岡崎武志さんが弟子として作家の角田光代さんに場所を指定して、特色のある古本屋さんで指令の通り本を探させる。そして角田さんが古本屋さんで感じた疑問の答えや購入してきた本の解説を岡崎さんがしてくれるというもの。
 訪ねる古本屋さんは最初は神保町で、次に代官山・渋谷、さらに東京駅、銀座、早稲田、青山・田園調布、西荻窪、鎌倉、そして再び神保町に戻る。
 私はまずはビジネス街の東京駅地下街に古本屋さんがあること自体驚いた。それと地べたの高い銀座にも古本屋さんがあることも。 そういう町で古本屋巡りするにあたり、岡崎さんは「最短距離を、迷わず行きつくことが要求されるのはビジネスの世界。古本屋巡りは元来、資本主義の原理とも経済効率とも無縁だからな。見知った町を迷宮に変えてしまう。これこそが古本の力なり」といい、お店を探すのに迷うことも古本屋巡りの醍醐味の一つであると教える。
 角田さんの古本に寄せる文章もいい。まずは古本屋さんの百円均一の棚について書かれたものから。「百円棚は、やっぱり『用無し』本が圧倒的に多いのだ。とうに文庫になった単行本とかさ。時代に置いていかれた本というか、あるいは時代には切実に求められていたのだが、それ故に、時代が変わるとまったく用無しになってしまうもの。百円棚にあるのはそういうものだ」と書く。だから百円均一の棚にある本は「時代の置きみやげ」、「だれかの成長の軌跡」だというのはうまい言い方だな感じた。
 あるいは店内にある本から「そうなのだ、店内を歩いていると、だれかの生活に触れているような錯覚を抱く。この膨大な本をそれぞれ所有していた人たちの、本を読むという、ゆたかな時間の切れ端が、そこここにちりばめられているみたいだ」と表現する。
 あるいは古本屋さんの店内を「高田馬場に向かいながら、今日一日見せていただいたお店の前を通りすぎる。どこも戸を開け放ち、現実と微妙にずれた静寂の時間が、その向こうに広がっている」と表現する。

 そうなのだ。古本屋さんを巡って歩くときいつも感じるのは、せわしい日常を忘れさせてくれ、ふと立ち止まって、昔読んだ本のことを思い出させてくれるし、あるいは好きな作家の知らなかった本を教えてくれることだ。だから、読んだ本でも、もう一度読んでみようかなと思ったり、古い単行本そのものに、新しい発見をして、驚いたりする。それが楽しいのだ。
 また角田さんが書かれているように、ここにある本は以前の持ち主の切れ端でもあるし、あるいは時代の証言者でもある。だから新刊とは違う付加価値を、好むと好まざるに関わらず、もっている。それを探るのも楽しい。それを感じるだけで、自分の豊かな時間を過ごせるような気がするのである。私は何年か古本屋巡りをするに当たり、そうした雰囲気を味わってきた。それがたまらなく幸せ気分であった。だから角田さんがこのように言うのがうなずけちゃうのだ。

 角田さんが早稲田の古本屋さんで、「なんだなんだ、この感じ・・・。しかしなんだかわからない。奇妙な胸騒ぎを抑えつつ棚に目を這わせると、あああっ!すごいものを見つけてしまった」と開高健さんのサイン本を見つける。値段が2,500円だったという。これを読んだとき、えっ!いいなぁ!と素直にうらやましく思った。こういうこともあるんですね。師匠の岡崎さんも「やられたな」と嫉妬したくらいだ。岡崎さんも開高さんのサイン本はもっていないらしい。もちろん私もだが・・・。
 その開高さんの古い本、たとえば芥川賞受賞作品の『裸の王様』は“文藝春秋新社”から出版されている。私はこの“文藝春秋新社”って何だろうとかねがね思っていた。
 たとえば現在“河出書房新社”という出版社がある。この出版社は河出書房が倒産して、再度立ち上げたので“河出書房新社”と名乗って、現在に至っている。ところが文藝春秋は現在“文藝春秋新社”ではなくて、“文藝春秋”である。どういう経緯があるのだろうか?角田さんもこのことを疑問に思っていて、それを岡崎さんが答えてくれている。それを読んで長年の疑問が解けたので、書き置いておこうと思う。
 『文藝春秋』は当初菊池寛が私費を投じて創刊した雑誌であった。社名は“文藝春秋社”である。ところが戦後出版および用紙割り当ての実権を握っていたのはGHQで、雑誌が出せなくなってしまった。昭和二十一年、四,五月合併号の発行をもって文藝春秋社は解散する。しかし佐々木茂索を社長に、雑誌『文藝春秋』を引き継いで発行される。その際社名を“文藝春秋新社”とした。この社名は昭和四十一年四月号から社名変更として“文藝春秋”になるまで続いた。だから昭和二十一年から約二十年間に刊行された出版物に“文藝春秋新社”発行と書かれている。ということらしい。なるほどね。

 こうして古本屋さんの本を読んでいると、まだ行っていない古本屋さん、特に中央線沿線に興味が行く。時間があれば行きたいものだ。


評価
★★★


書誌
書名:古本道場
著者:角田 光代・岡崎 武志
ISBN:9784591103494 (4591103498)
出版社:ポプラ社 (2008-06-05出版) ポプラ文庫
版型:279p 15cm(A6)
販売価:588円(税込) (本体価:560円)

trackbacks

trackbackURL:

comments

comment form

(どんなことがあっても、本が好き にはじめてコメントされる場合、不適切なコメントを防止するため、掲載前に管理者が内容を確認しています。適切なコメントと判断した場合コメントは直ちに表示されますので、再度コメントを投稿する必要はありません。)

comment form