2008年07月02日
村井重俊著『街道をついてゆく』
この本は司馬さんの『街道をゆく』の編集担当であった村井さんがその6年間のエピソードをつづった本である。朝日新聞土曜日の夕刊に連載されていたものに加筆されたようだ。連載時楽しみに読んでいた。この『街道をついてゆく』という題名はうまくつけたものだと感心したものだ。
だいたい有名作家が亡くなると、その作家の担当者やゆかりの人が、当時を偲んで思い出をつづった本が何冊も出版される。この本もそうした本である。言ってみれば“偲ぶ本”(私が勝手にそう名付けている)である。
でも、贔屓にしている作家のことが書かれたこうした本は読んでいて楽しい。私は案外この手の本は好きな方である。特に愛読した『街道をゆく』の企画から、そしてどのように司馬さん一行が街道を歩いたのか、その担当者じゃなければ知り得ないものがここには書かれていて楽しかった。それは本文ではあまり関係ないから司馬さんの文章からも感じられないから、その裏側を知ると、“へぇ~、そうだったんだ!”感心してしまうのである。いわゆる番外編『街道をゆく』である。
司馬さんにはいつもたくさんの出版社の編集者や新聞社の記者がついて回っていて、世の中に何か事件があると、司馬さんに意見や取材を求めてくるシーンが何回か出てくる。当然村井さんも週刊朝日の記者でもあるから、同じようにしていいのに、いつも他社の編集者や記者にスクープを持って行かれてしまう。せっかく“「街道をゆく」ファミリー”の一員になっているのだから、取材しやすいはずなのに、それをしない。むしろ司馬さんの奥さんであるみどりさんが気を利かせて教えてくれるのに、それさえもわからない。後になって自分は記者失格だと後悔する。このあたりは村井さんの性格なのだろう。
でもそういう人だから、損得勘定なしに司馬さんとお付き合いされたのではないかとも思える。たぶんそうした村井さんだから多少呆れつつも、司馬さんはこころ許したように感じられた。村井さんは「本所深川散歩」、「本郷界隈」、「オホーツク街道」、「ニューヨーク散歩」、「台湾紀行」「北のまほろば」、「三浦半島記」、未完の「濃尾参州記」を担当された。私はこれらの街道はこのシリーズではちょっと異色なところがあると感じているが、だからこそ面白かった記憶がある。この間今まで一緒に旅をされていた須田剋太さんが亡くなられたり、移動距離もかなりあったし、そして司馬さんの死も経験される訳だから、担当は大変だったのではないかと思われる。
司馬さんにゆかりのある人が司馬さんのことを書くとき、司馬さんからいただいた手紙をよく披露してくれる。その手紙の文章を読むとき、“あたたかくていいなぁ”といつも思っていた。こういう手紙をもらったらうれしいだろうなと思うのだ。そして街道を一緒に歩いている司馬さんの言動を読むと、なるほどこういう人だからあんな手紙が書けるんだなと思った次第だ。
手紙は司馬さんの一つのキーワードである。司馬さんが文化功労者に選ばれたときの記者会見で「私の小説はすべて二十二歳の私にあてた手紙なんです」と語ったという。二十二歳の司馬さんは陸軍の戦車部隊に所属し、終戦を迎えたのである。作家になって「どうしてこんな馬鹿な戦いをしたのか、日本はそんなつまらない国だったのかと絶望した二十二歳の自分に対し、日本にもこんな歴史があって、こんな男たちがいたということを伝えたかった。でももう、その義務は果たしましたね」とも語ったという。村井さんはその記者会見の席にいたそうで、寂しいことを言う人だなと思ったという。
そして「二十一世紀を生きる君たちへ」という文章にふれる。そこには「私の人生は、すでに持ち時間が少ない。例えば、二十一世紀というものを見ることができないにちがいない」と書かれている。村井さんはこの部分が好きではなかったという。私もこの本を読んだとき、えらいことを言う人だなと感じた。確かに司馬さんは二十一世紀を見ずに亡くなられたが、そうした覚悟というか、諦めは、悲壮なものがある。未来を見たくても見られない。自分には時間がない。そうしたことを切々と感じる歳になったとき、自分はどう考えるだろうかと思ったものである。
話が横にそれた。この「街道をゆく」の裏話を読むと、このシリーズは司馬さんの下調べや興味に寄るところが大きいけれど、ただ司馬さんだけでできあがったものではなかったのだなと感じた。何人もの裏方がいたからこのシリーズはできあがったのだ。だから佐野眞一さんが『街道をゆく』を自らの足で歩かず、車に乗って、何人もお伴を引き連れた「大名旅行」だったと批判した文章を思い出し、更に腹がたってきた。いくら宮本常一を語りたいからといって、この言葉はないと思う。そもそも性質が違うものを比較するからこうした暴言を吐くのだろう。佐野さんは村井さんの本を読むべきである。
評価
★★★
書誌
書名:街道をついてゆく―司馬遼太郎番の6年間
著者:村井 重俊
ISBN:9784022504432 (4022504439)
出版社:朝日新聞出版 (2008-06-30出版)
版型:299p 19cm(B6)
販売価:1,470円(税込) (本体価:1,400円)
- by kmoto
- at 05:16
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