2008年11月28日
河合敦著『なぜ偉人たちは教科書から消えたのか』
この著者は確か「世界一受けたい授業」という番組で、日本史の先生として出演されていた。私は最近の日本史はどのように教えているのだろうと興味もあって、たまにこの番組を見ていた。
面白いと思ったのは、我々が習った日本史とは、最近さまざまな部分で解釈が変わったり、あるいは教科書に当時載っていた人物は実は違う人だったとかで、日本史の教科書自体もかなり変わっているらしいことを知る。
この本の「はじめに」にも次のように書かれている。
みなさんは、日本史の教科書から偉人たちの肖像画が消えつつあることをご存じでしょうか。
たとえば一九八〇年の教科書(『日本史』三省堂)には、三十六点の肖像画が掲載されていましたが、現在の教科書(『日本史B』三省堂 二〇〇六年)はわずか二十点。およそ半分近くに減ってしまっているのです。
織田信長、豊臣秀吉、徳川家康、松尾芭蕉、徳川吉宗など、これら有名な偉人も、みな教科書から姿を消してしまいました。
教科書に掲載されている肖像画のなかには、「本当にこの絵は、本人を描いたものなのだろうか」というような、疑惑の肖像画が次々に見つかりはじめたのです。
つまり、我々の世代が教科書やお札などに描かれた日本史上有名な人の肖像画が実は当の本人を描いたものではないということが、今盛んに言われているようなのだ。そのためまずこの本では有名な肖像画は実は違う人物であったということから始まり、次に我々が描きいだいている人物像は例えばテレビドラマなどに影響されて、虚像を作ってしまっているのだと言うのである。
そして最後は肖像画の人物の実体像は実はこうだったと、いわば異説を紹介している。ただここまで来ると、多少著者の筆が走りすぎている感じがしないでもない。
でも我々が知っている肖像画が実は違う人物か、あるいは本当の姿をあらわしていないというのは面白かった。例えば聖徳太子である。我々が知っている聖徳太子の像は多分お札から来るイメージが固定されている。この本で知ったことなのだが、聖徳太子の肖像は戦前・戦後七回も使われているという。その肖像は「唐本御影」という絵画から使われている。
しかしこの「唐本御影」というのは、八世紀半ばに描かれたもので、それは聖徳太子が死んで百年以上も経って描かれたものだそうだ。だから今みたいに写真やビデオが残っているわけもないので、それが本人と似ているなんて誰も証明できないわけだ。
それどころかここ数年「聖徳太子は実在の人物じゃない」という学説さえあるという。推古朝には廐戸皇子という人物がいたが、彼が聖徳太子と呼ばれた事実がないとさえ言われているし、冠位十二階や憲法を制定し、遣隋使を派遣したなど政治に主導的立場であったかどうかさえ疑わしいらしい。
そのため最近の教科書は聖徳太子という名前はなく、廐戸皇子の名が載っているという。私も以前にそれを聞いて、息子が日本史の教科書をまだ持っていると聞いて見せてもらったら、廐戸皇子(聖徳太子)となっていた。
実は我々が知っている源頼朝の肖像画も違う人物だという。我々が知っている頼朝像は神護寺にある「伝源頼朝像」という肖像画である。
ところがこの肖像画実は頼朝ではなく、足利尊氏の弟直義を描いたものだといい、学会でもその説が受け入れられつつあるらしい。
では足利尊直義の肖像画がどうして頼朝の肖像画とされたのか?それは『神護寺略記』という文書に神護寺には頼朝の肖像画があると書かれていて、江戸時代になって神護寺にある肖像画がそれだということが定着し、そのまま現在に至っていたからだそうだ。本来は言い伝えでしかなかったのに、それが実像だとして、我々の教科書に載っていたらしい。
足利尊氏だとして『守屋家本騎馬武者像』がやはり教科書に載っていたが、これも違うらしく、これは高師直(こうのもろなお)らしい。
さらに西郷隆盛の肖像画も西郷の死後、弟の西郷従道と従弟の大山巌の顔を参考にして描かれたものだ。
ただこれは知っていた。もともと西郷はかなりの写真嫌いで一枚もないのである。
こう見てくると、教科書に載っている歴史上の人物像はかなりあやふやなもので、あてにできるもんじゃないんだなと知らされる。またそれら歴史上の人物のイメージが、テレビのドラマや映画で脚色されたもので、たとえば一休さんは漫画のイメージが残っているし、沖田総司は病弱のイケメンといった役者のイメージがそのままインプットされてしっているところが確かにある。(実際はかなり違う)
まぁ、肖像画ならまだ許せるところはあるけど、ドラマや映画の物語、あるいはセットなどがそのまま史実だと思いこんじゃっているところがあるから、考えてみると恐ろしい。
さらに歴史認識というのは時代時代でさまざまな形に変化していき、習ったことが古くなりつつあるんだなという一端を見せてくれる本でもあった。ただ、惜しいのは、さっきも書いたが、後半著者は調子に乗りすぎてしまっていて、「おいおいそれはどうなのよ」という感じなってしまい、あまりにも異端説を書きすぎてしまっているのが残念であった。そのためこの本は単純に雑学本になってしまっているのである。
著者は現役の高校教師というから、授業を飽きさせないために、こうした話をサービスとして生徒たちに提供していたのだろう。確かにこんな話をしてくれる先生の授業は面白いかもしれない。
評価
★★
書誌
書名:なぜ偉人たちは教科書から消えたのか―“肖像画”が語る通説破りの日本史
著者:河合 敦
ISBN:9784334975029
出版社:光文社 (2006/06/30 出版)
版型:274p / 21cm / A5判
販売価:1,365円 (税込)
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- by kmoto
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