2008年11月15日
山口瞳著『男性自身』
「男性自身」は「週刊新潮」に1963年(昭和38年)年から1995年(平成7年)に死去するまで31年間、延べ1,614回、一度も穴を開けることなく連載を続けたコラムである。この本は男性自身シリ-ズの第一巻目の作品である。
私は書店員時代、毎週、「週刊新潮は本日発売です」と聞くたびに、今日は週刊新潮の「男性自身」シリーズを読んできた。自分の本棚にもこれをまとめた単行本や文庫本がある。ただ気合いを入れて集めてこなかったので欠本がある。この第一巻も持っていなかった。
私はこのシリーズは途中からの読者である。だから最初このシリーズはどんな感じで始まったのか知りたかった。だからどうしても第一巻は読んでみたかった。そのためこの巻を探しに神田古本まつりにも行った。ないことはなかったけれど、値段が高かった。で、アマゾンのマーケットプレイスで買った。それを今回読んだ。以後このシリーズも読んでいこうと思っている。
で、途中からの読者として、へぇ~山口さんは最初、こんな文章も書いていたんだと思ったことだ。そもそもこのシリーズが何故“男性自身”というかである。その目論見が次のように書かれている。
「もしそれ、非常に注意ぶかい読者ならは、私が、この随筆ともオトギバナシとも精神訓話ともつかぬもので何を目論でいるかをすでに察知せられることであろう。
私自身の心構えとしては長篇小説を書いているつもりなのである。もし私に幸運にもかの「白樺派」の如き長寿が許されるならば、実にこれは大河小説ともなるはずのものである。
すなわち、現代に於いて一穴主義(女房だけしか女を知らない男)は果たして可能であるか、というのがこの大河小説に課されたテーマなのである。従ってこれは『日常生活における華麗な冒険もしくはサムワン氏の悲しき生活』と題されてしかるべきものであるが、誰かさん小説の題名に似てしまうので、いさぎよく、きっぱりと、簡潔に『男性自身』とした。男性自身とは考えようによってはかなりキワドイ題名である。今様にいえばそのものずばりである。吾人は清く正しく美しくこれを保たなければならぬ」
要するにここでは山口さんは自分を含めて、貧乏人根性の持ち主で、生活を一番大事にしている人種であるとして、そういう人たちがどう生きているか、半ばちゃかして書いているのである。仕事にも、人間関係にも、女性の誘惑に負けず、一穴主義と呼ばれようが、軽石(カカトスルバカリ)と呼ばれようが、1DK(寝る所も排泄するところもひとつだけ)と呼ばれようが、ミシン(ひとつ穴ばかりつつく男)と呼ばれようが、とにかく、自分の生活を守ることを身上としている男が、どうやってこの世の中を生きていけばいいか、その処世訓を教えてくれている。
ただひたすら生活を守ることがいつも頭にあるわけじゃない。ここは戦争体験者である。「どうせあのとき死ぬ運命にあったんじゃないか、いつ死んでもいいや、という気分と、戦時に育ったための極端な臆病とが交互する。どうせ変な具合に生き残ったんだから、こんな世の中は笑いとばしてやれというヤケッパチと、せっかく生き残って、切望した戦争のない世界にいるのだから、父と妻子の小さなかたまりを大事にしようという気持が交互する」と男の切ない欲望も吐露する。
それにしても女房至上主義者をちゃかすのにいろいろな言い方があったんだなと笑ってしまった。でもこういう小市民的な部分は個人的には好きだなぁ。
評価
★★★
書誌
書名:男性自身 男性自身シリ-ズ
著者:山口 瞳
ISBN:9784103226048
出版社:新潮社 (1985/05 出版)
版型:255p / B6判
販売価:入手不可
- by kmoto
- at 06:46
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