2008年11月25日

松田哲夫著『「本」に恋して』

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 この本は著者の松田さんが“本”はいかに作られ(装幀され)るのか。そしてその本の“紙”はどのように漉かれて、本のページとなるのか。さらに本の文字を印刷するインクはどのように作られるのか。それぞれ受け持つ業者を訪ねる歩いたルポである。
 しかし今は、そのほとんどが機械化され、オートメーション化されて、中で何をしているのかわからないブラックボックス化しているようである。
 だから“束見本”を作るところと、その見本を入れる函を手作りで作るところがかろうじてわかるぐらいであった。それ以外は全て機械化された本作りの説明で、その機械が何をしているのかイラストや説明があっても、イラスト自体小さいので見づらいし、説明もよく理解できなかった。
 イラストはもう少し大きく鮮明にあればいいのにと思ったが、そうするとこの本の原価も上がり、それでなくても2,310円と、たかが200ページの本としては高いのに、もっと高くなってしまうのだろう。(多分装幀や紙質に凝ったしまったのではないかと思われる)
 この本を読んでわからないわけじゃないが、私としてはこの本の装幀にこだわるよりも、それよりもどのように本が作られるのかをわかりやすくしてくれた方がありがたかった。

 ところで私も最近の本は函入り本が少なくなったなぁと思う。新刊書店に行って、並んでいる本を見てもそう思う。松田さんも「ぼくが編集という稼業に従事するようになった約四十年前からすると、本そのものが大きく変わってきているからだ。当時は、文学全集など蔵書型の書物や上製の単行本が主流だった。だから、函入りとか布装の本がたくさん作られていた。
 ひるがえって、いまの出版状況を眺めてみると、本の世界では、文庫、新書といったペーパーバックが主流で、単行本も上製本よりも並製本が大勢を占めるようになっている。全体にロープライス化、ローコスト化が進み、それに伴って規格化も進行している。装幀に限って言えば、昔に比べて、資材も貧弱になり、表現できる範囲も狭くなっているのだ。『もはや、かつてのような装幀本を作るのは不可能だ』と嘆く古参のデザイナー、編集者も多い」という。
 さらに本を作る側の人たちも「中村さん(株式会社DNP製本・マーケティング部長)の話をうかがうと、上製本は年々減少傾向にあるという。市販する本でも、いまはすっかりペーパーバック(並製本)全盛の時代になり、全集や画集などの上製本のシリーズは壊滅状態に近い」というのだ。
 その現実を次のような数字として松田さんは紹介する。

「一九七〇年十月の『新刊ニュース』を見ると、全刊行点数が三十点、そのうち函なしはわずか四点。機械函十四点、貼り函十二点、うち帙入り(書冊の損傷を防ぐために包むおおい。多く厚紙に布を貼ってつくる 広辞苑 第五版)が一点。一方二〇〇三年五月の『新刊案内』によると、全刊行点数二十三点、そのうち函入りはわずか一点だ。どうしてこうなってしまったのか。原因ははっきりしている。全集の時代から文庫・新書(ペーパーバック)の時代になったのだ。一九七〇年十月の全集類は二十点、二〇〇三年五月のペーパーバックは十九点だ」

 どうしてそうなってしまったのかを、原因を次のように説明するが、多分その通りなのだろう。

①地方自治体の慢性赤字による「図書館予算の削減」

②「(図書館)利用率向上」が叫ばれ、住民のリクエストの多い、ベストセラーや文庫を中心に図書館が購入するようになった

③図書館のネットワークが進んだお陰で、全集類のような利用頻度の低いものは、都道府県の中央にある図書館のあればいいことになった

④かつて地域にいる文学書・教養書などの愛読者を把握していた地方の老舗書店の外商部が壊滅状態にあること

⑤かつては家で静かに読書をする人が多かったが、今は通勤途中などあいている時間に読書するという読書習慣の変化が、大きくて重い本を売れなくする

⑥長引く不況

 これらが安い本へと指向していくこととなった原因だ。しかしロープライス化といっても、果たして本当に本は安いのだろうか?文庫や新書の定価は安く感じるかもしれないけど、単に単行本と比べてみての話であって、文庫や新書そのものも中身からすれば高くはないか?
 ところで一つ不思議に思うことがある。通常人手がかかるところを機械化して、人件費を抑えていけば、当然製本のコストはそれ以前より下がっていいところではないかと思うのだ。ということは、本が昔より安くなってもいいはずなのに、逆に高くなってはいないか?確かにここのところの原油高などで原材料が値上がっている現状はわかる。けれどそれ以前はどうなのか?これだけ製本が機械化しておれば、本が出来るコストは以前より安くなっていてもおかしくないのではないか、と思うのだ。
 ここにおもしろ記述があった。松田さんが佐野眞一さん座談会の言葉を引用しているのである。そこには「新刊点数ばかりが増えて、本がなかなか売れない多産多死の出版状況で、なぜ多くの出版社はもちこたえているのか。その理由のひとつは、この十年間で本をつくるコストが三分の一ぐらいになっているからです」と。それを松田さんが製本関係者に言うと、その人も「製版コストでいえば、わたしが入ったころの単価に比べたら現状は三分の一くらいですよ」とある意味肯定しているのである。
 そうなのである。本来機械化により本の原価が下がっていいにもかかわらず、本の定価が下がらないのは、そのお金が出版不況をカバーするのに回ってしまっているからなのだ。思わずやっぱりそうだったのかと思った。
 結局読者は、つまらない本を作り、その半分が返品に回り、利益が出ない出版社の利益補填までやらされていることになるのかもしれない。まぁ、本が高い理由はこれだけじゃないだろうけど、このことはもしかしたらその一理由なのかもしれないなんて感じた。


評価
★★


書誌
書名:「本」に恋して
著者:松田 哲夫/内澤 旬子【イラストレーション】
ISBN:9784103009511
出版社:新潮社 (2006/02/25 出版)
版型:203p / 19cm / B6判
販売価:2,310 円(税込)

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