2008年12月16日

本多孝好著『チェーン・ポイズン』

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 駅で息子と会った。彼は大学へ行く途中、私は新宿へ本を買いに行くために、おなじ地下鉄に乗る。久しぶりに息子と話す。それまで何か気分が晴れなくて、気晴らしに本でも買いに行くかと出かけたのだが、しばらく息子と話している内に、気分が晴れ、いい心地になった。私は彼の感性、繊細さが好きなのである。
 最近なんかおもしろい本を読んだか?と聞いたら、この本を教えてくれた。持っているなら貸してくれと頼み、翌日貸してもらった。さっそく読み始める。一気に読んでしまった。最後に「あれ、おかしいじゃん?なんで?」と思った。しばらくわけがわからなかった。そして気がついたのである。私は作者のトリックにまんまとだまされていたことを。それがわかったとき、「やられた!」と思った。

 この本は高野章子が自分と同じ名前の人物が二十歳で自殺した高野悦子の『二十歳の原点』を手に取るところから始まる。

 そして誰も待っている人間がいない、単調な一日を送る女がいた。彼女は会社に行く気が起こらなくなった。行った公園のベンチに座り「もう死にたい」と呟いたとき、「本当ですか?」と声をかける人物がいた。その人物は、死ぬのを一年待ってくれたら、一瞬で楽に、眠るように死ねる薬を褒美として差しあげるという。
 女はその言葉を信じ、自分が勤めていた会社を辞る。時間つぶしに住宅街をふらふら歩いているときに児童養護施設のボランティア募集張り紙を見て、そこで一年間を過ごすことにする。

 週刊誌の編集部にいる山瀬は以前取材した突発性難聴にかかったバイオリニスト如月俊と妻と娘を無惨に殺された持田和夫がアルカロイド系毒物で自殺したことが気にかかっていた。如月俊は発病から一年半で、持田和夫は妻と娘を殺した犯人の死刑が執行されて一年後服毒自殺した。二つのキーワード、アルカロイド系毒物、一年という時間が気にかかった。何故同じ毒物なのか?なぜ一年という時間を置いての自殺だったのか?
 そして彼らと山瀬と何ら関係ない元OLの高野章子がやはりアルカロイド系毒物で、会社を辞めて一年後服毒自殺したことを知る。山瀬は高野章子のことを調べ始める。山瀬は彼ら三人にアルカロイド系毒物を売ったセールスマンがいるのではないかと推理し始めるが、それでも何故一年なのかわからなかった。
 物語は山瀬が高野章子の生前の生活を調べるのと、女がボランティアで一年過ごすことが同時に書き進められる。私は読んでいるうちに、この女が高野章子だと思いこまされてしまった。
 しかし私は山瀬が高野章子の生前付き合いのあった人物に会ったり、章子の両親に会ったりしているのに、章子が児童養護施設でボランティアをしていることが調べられないのが不思議であった。ここで高野章子と女は別人と気づくべきだったのかもしれない。

 女は施設でボランティアをしている内に、そこにいる子供たちと深い関係が築きあげられいくのを感じ始める。自分は一年後自殺をする覚悟でいる。約束の日まで今日も頑張って一日を潰した。近づいたと思っていた女が、いつかここにいる子供たちの将来も見てみたいという気持にもなる。
 そこへ園長が病気で死んでしまい、施設が解散される事態に陥る。園長の息子は施設の土地を売って、それを選挙資金にして区議会議員に打って出ようとしていた。そこで女は自分が自殺して入る保険金で子供たちの将来を保障してやろうとする。
 一方同じ施設で働く工藤たちは施設の存続を求めるホームページを立ち上げ、区政に打って出る園長の息子の中傷をそこに書き込む。怒った息子は女を襲うが、この時この女が高野章子でないことを知らされる。

 この本はミステリーの楽しみも充分堪能できたが、自殺を望む人間の絶望感にも考えさせられてしまう。山瀬が高野章子のことを調べているうちに、章子の性格がわかり始める。取材をしているうちに章子が「どんなに面倒なことでも、それで丸く収まるのなら、すべて自分が引き受けていた女性。その不器用な姿に、周囲は同情ともに、それよりも強い苛立ちを抱いてしまう女性。お線香を上げてあげたいという悼みより、お線香を上げてあげなきゃという義務感を覚えさせる女性」であることが浮かび上がってくる。そんな女が三十年以上も生きてきて、いろいろなものが溜まってしまい、自らの容量から溢れてしまったとき、自殺したのではないかという友人の言葉が重く響く。
 突発性難聴にかかったバイオリニスト如月俊にしても、、不遜で、傲慢で、けれど決して演奏に妥協しない過去の自分が、障害を乗り越えて演奏する自分をよしとしない。だから死ぬしかないという絶望感。
 妻と娘を轢き殺された持田和夫にしても、犯人が死ぬまで自分は一秒でも犯人より先に死ぬわけはいかない。犯人がいない世界を見届ける義務があると思っていた。けれど、犯人の弁護士がありもしない事実をでっち上げ、事実そのもを意識的にねじ曲げて弁護するのを見て、犯人みたいな化け物やそれを守ろうとする化け物が現実の社会にいることを知らされる。世界は何も変わらないという絶望感は、まさしく被害者や関係者でなければわからない、憤りのやり場のない絶望感がここに示される。
 そんな彼らの絶望感は何ともやりきれなかった。希望は人に生きる力を与えるかもしれないけれど、絶望はいった人に何を与えるのか。あるいは奪うのか。そんなことをふと考えさせられる本であった。


評価
★★★★


書誌
書名:チェーン・ポイズン
著者:本多 孝好
ISBN:9784062151306
出版社:講談社 (2008/11/01 出版)
版型:332p / 19cm / B6判
販売価:1,680円 (税込)

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