2008年12月18日

松本健一著『司馬遼太郎が発見した日本』

2008_12_18_01.jpg


 この本は松本さんが「週刊『街道をゆく』」の巻頭に載せたそれぞれの街道の解説を一冊にまとめたものである。だから私は少なくても読んでいることになる。が、読んでいて、こんなにつまらなかったけ?と正直思った。「週刊『街道をゆく』」を読んでいた頃は、結構松本さんの解説がためになっていたし、実際司馬さんの『街道をゆく』を読んでいたときは、かなり参考にさせてもらった記憶がある。しかしこうして一冊にまとまってしまうと、大したことは言っていないなと感じてしまった。
 ただおもしろいと思ったことが一つある。三島由紀夫事件と『街道をゆく』の関係である。たぶんこれは松本さんの仮説なんだろうけど、仮説としてはおもしろいと思った。
 1970年11月25日に三島由紀夫は「盾の会」のメンバーと自衛隊市ヶ谷駐屯地に乱入し、「天皇陛下万歳!」と叫んで割腹自殺した事件がいわゆる三島由紀夫事件である。
 一方司馬さんのこの「街道をゆく」の連載が始まったのは1971年1月1日号からで、当然この連載の原稿は前年の11月か12月の初めではないかと松本さんは推測されている。ということは、この三島由紀夫事件が「街道をゆく」の執筆に何らかの影響を与えているのではないかというのである。
 その根拠として松本さんは三島由紀夫が自決してからすぐ「異常な三島事件に接して」という三島由紀夫を痛烈に批判した文章を書いていることをあげている。
 三島由紀夫は昭和天皇が戦後「人間宣言」をして天皇が神でなくなってしまった日本を問題視した。三島にとって気概を持った美しい日本の象徴は天皇であるべきであって、だから自分は天皇が神であることを信じ、天皇陛下万歳と叫んで死んでいくんだとした。松本さんは三島由紀夫は天皇原理主義だったというのである。
 それを司馬さんは「私が考えている日本とは違う」ということを批判文章で言い表したというのである。司馬さんは思想に淫してはいけないし、あるいは思想のために死ぬことはあってはならない。たとえ仮にその思想が一時支持されても、所詮一種の「狂気」でしか支えられないものだというのである。
 司馬さんは三島由紀夫の思想を「美」に置き換えた方がわかりやすいとし、三島が求める「美」が戦後日本にはなくなってしまったから、自衛隊員にその絶対的な価値(天皇)の復権を促した。
 司馬さんが求める日本とは、三島が言う天皇が神である社会でもないし、高度成長期の「豊かな社会」でもない。松本さんは司馬さんは「日本人が長い歴史をかけて歩いてつくってきた『道』や『土(くに)』に、そうしたモノ(づくりの文化)に詩を、いや『美しい日本』を見出しているのである」という。
 つまりある意味この『街道をゆく』は三島が求める日本の美に対してのアンチテーゼであったのではないかというのである。そしてそれがこの『街道をゆく』の執筆の動機の一つであったのではないかというのである。

 あるいは三島由紀夫事件とこの『街道をゆく』の執筆時期が重なっていることを考えれば、そんなことも言えるかもしれない。けれどたとえそうであっても、この『街道をゆく』は高度成長期社会に作り上げてきたモノとは違い、本来日本あった、日本を日本たらしめている「不合理」的な「文化」を求め、それが高度成長という名の下に壊されつつあるから、こうした失いつつある原郷を求めて出た旅ではないかというのがしっくり来るような気がする。
 もちろん司馬さんが経験した戦争が、三島が求める天皇を神とした戦前の思想や政治体制を批判することをこのシリーズでも忘れてはいない。ということは結果として三島の思想を批判していることにもなるのだろう。何となくそう考えた方がいいような気がするのだがどうであろうか?


評価
★★


書誌
書名:司馬遼太郎が発見した日本―『街道をゆく』を読み解く
著者:松本 健一
ISBN:9784022502315
出版社:朝日新聞社 (2006/10/30 出版)
版型:232p / 19cm / B6判
販売価:1,365 円(税込)

trackbacks

trackbackURL:

comments

comment form

(どんなことがあっても、本が好き にはじめてコメントされる場合、不適切なコメントを防止するため、掲載前に管理者が内容を確認しています。適切なコメントと判断した場合コメントは直ちに表示されますので、再度コメントを投稿する必要はありません。)

comment form