2009年01月22日

アガサ・クリスティー著『ABC殺人事件』

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 またクリスティーの作品に戻る。この本もおもしろかった。


今回もねたばれ注意


 Aの頭文字がつく土地でAで始まる名前の持ち主が殺され、B頭文字がつく土地でBで始まる名前の持ち主が殺される。さらにC頭文字がつく土地でCで始まる名前の持ち主が殺される。殺人現場にはABC鉄道案内が残されていた。殺人の前には必ずポアロのところに殺人予告の手紙がABCと称する人物から届いている。
 話はポアロの友人でワトソン役を務めるヘイスティングスの叙述で進められるが、途中「ヘイスティングスの記述でない」という三人称の章をはさみ、一見この殺人事件とは無関係な人物(猫背で近視のストッキングの行商人)ことが書かれる。

 この三つの殺人事件は今までポアロたちが扱ってきた事件とは違い、三人の被害者には何ら関係が見出せない。ただ犯人がABCの順で人を殺していくというもの。だからポアロは「これまではいつも、内部から調べるというのがわれわれの仕事でした。重要な点はこうです。“この死によって利益を得るのは誰か”これまではつねに“内部の犯行”でした。今回は、わたしたちが協力するようになってはじめて遭遇した、没個性的な殺人です。外部からの殺人です」と言う。つまり今までの犯人は必ず被害者を中心の人間関係の中にいて、犯行の動機もその人間関係の中にあったが、今回はまったく違うということなのだ。
 そこでポアロの提案で被害者の関係者が集まって、一見無関係な殺人事件に関連を見出そうとし、殺人事件があった日に何か思い出すことがないか、話し合いがもたれる。しかし集まった被害者の関係者は、自分達が目撃したことはすべて警察に話しているので、もうこれ以上何も思い出すことはないと言う。しかしポアロは「いえ、いえ、マドモワゼル。そうではありませんぞ。それぞれが、何かしら知っているのです。-自分たちが何を知っているのかさえわかりさえすれば。かならず何かを知っているはずです、それをつかめばいいだけなのです」と言い、自分たちが何を知りたいのかそれさえわかれば、記憶の中から新しい何かを見出すことが出来ると言うのである。そうして一人のストッキングの行商人が三つの殺人事件の現場にいたことをつきとめるのである。
 しかしこの行商人には、特にB頭文字がつく土地でBで始まる名前の持ち主を殺すには無理があった。というのも殺されたのは若い尻軽娘で、どう考えてもうだつが上がらない、しかも猫背で近視のさえない男についていくようには見えない。しかもこの時行商人にはアリバイがあった。この時この三つの殺人事件は、実は一人の人間を殺したいために、他の二人が殺されたのではないかと思うようなる。つまり“木を隠すには森”である。そのため無差別殺人を装い、何ら関係のない人間をABCの順で殺し、ポアロたちを混乱させたのである。
 ここまで来ると今度は外部犯行から内部犯行に視点が移っていくことになり、ポアロの元に集まった関係者に真犯人がいることになる。
 こうしたストリーの運び方がすこぶるうまい。ヘイスティングスの記述の記述から突如「ヘイスティングスの記述でない」という章をもうけて、ストッキングの行商人を描き、こいつが犯人ではないかと思わせつつ、しかしどこか無理があるように描いていく。
 そしてこの行商人が犯人ではないだろうと確信するのだが、ではなぜこの男は三つの殺人現場の近くにいたのだという疑問がわくし、Dのつく土地と名前の人間を殺したとき(この時の被害者はDの頭文字を持つ人間ではなかった)、なぜこの男は凶器のナイフを持っていたのか。男の自宅に家宅捜査が入ったとき、何故部屋にABC鉄道案内があったのか、なぜこの男が犯人に仕立てられたのか、など違う疑問が生まれてくる。だからページがどんどん進んでしまう。なかなかおもしろいミステリーであった。


評価
★★★★


書誌
書名:ABC殺人事件
著者:アガサ・クリスティー 堀内 静子【訳】
ISBN:9784151300110
出版社:早川書房 (2003/11/15 出版)ハヤカワ文庫―クリスティー文庫
版型:412p / 16cm
販売価:798円 (税込)

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