2009年02月06日

小川糸著『食堂かたつむり』

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 アルバイトを終えて部屋に帰ると生活用品一式がなくなっていた。同棲していたインド人の恋人もいなかった。一瞬部屋を間違えたのかとさえ思った。その瞬間、倫子は声が出せなくなってしまった。かろうじて残っていたのは祖母の形見でもあったぬか床だけであった。
 深夜バスを使い、故郷へ戻る。母親との関係がうまくいっていない実家へ帰った。故郷は「どれもが、懐かしくてくすぐったくなるような、けれど手のひらで今すぐ握りつぶししてしまいたくなるような景色だった」。母親は倫子が家に戻ることを渋々承諾してくれたが、働かなければならない。しかし倫子は料理を作ること以外できない。それしかない、と思う。何もかも失ったけれど、祖母から教わったレシピが自分の舌に残っているし、様々な飲食店で働いてきた経験が自分にはある。ここで「食堂かたつむり」をやろうと決める。
 但し、この食堂は一日一組だけ。メニューはなく、前日お客と面接やFAX、メールでやりとりをして、お客が何を食べたいのか。あるいは家族構成や将来の夢、予算などを細かく聞いて、当日のメニューを決めるというもの。そしてここは見渡せば、海、山、川、畑と食材の宝庫だ。だからなるべく土地のものを使って料理するのが基本方針。
 そうして一日一組のお客を迎えるうちに、倫子の作る料理で幸福感につつまれたお客は、「食堂かたつむりの料理を食べると恋や願い事が叶う」と感じるようになる。それが噂となっていう村や近くの町に暮らす人達に伝わっていった。

 まぁ、多くの自然が残る里山みたいなところには自然の食材がいっぱいあるだろうし、それを使った美味しい料理を食べれば、幸福感につつまれるであろう。お客を限定して、お客の希望に沿って料理を作るとなれば、お客の人生模様もそこにはあるだろう。それを感じる倫子自身、自分の家族関係、特に母親との関係にも、何らかの影響を与えるに違いないことは想像できる。特に母親が末期ガンとわかり、母親が死んだ後残した手紙を読んで、なんで母親と仲直りができなかったのだろうと後悔するのも、ありふれたパターンだ。
 倫子が「私は思うのだけれど、女系家族の気質というのは、必ず隔世遺伝するのではないだろうか?
 つまり、おかんは貞淑すぎる実の母親に反発してそれとは正反対な波瀾万丈な生き方選択し、その母に育てられた私は、そうなるまいと反発し、また、それとは正反対の地道な生き方を選択する。永遠のオセロゲームをしているようなもので、母親が白に塗り替えたところを、娘は必死に黒に塗り替え、それをまた、孫は白に塗り替えようと努力する」と考えるのも、それが普通じゃないかななんて思ってしまった。
 要するに、この本を私が若いときに読んでいれば(もちろん作品としてないのだが)、ある程度感動もしたのかもしれないけれど、50のオジサンがこんなことで感動してられないので、こんなもんでしょとか言いようがない。ただ所々になる言葉の響きには女性らしい優しさがあって、いいなとは思った。たとえばこんな感じ。

 「本当に大切なことは、自分の胸の中に、ぎゅっと、鍵をかけてきっちりしまっておこう。誰にも盗まれないように。空気に触れて、色褪せてしまわないように。風雨にさらされ、形が壊れてしまわないように」


評価
★★


書誌
書名:食堂かたつむり
著者:小川 糸
ISBN:9784591100639
出版社:ポプラ社 (2008/01/15 出版)
版型:234p / 19cm / B6判
販売価:1,365円 (税込)

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