2009年03月17日

森まゆみ著『谷中スケッチブック』

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 昔、本屋で配達をしていた頃、本郷当たりまで行っていたことがある。とにかく坂道が辛くて、荷台に多くの雑誌や本を積んで、立ちこぎで自転車で坂を登っていった。しかし少しずつ荷台が軽くなってくると、その坂道につけられた名前が、どこかで読んだ小説にあった坂道だったりして、坂道の由来を書いたプレートを自転車を停めて読んだことがある。それがなんか懐かしい。
 ネットで手に入れた地図を眺めていると、谷中は本郷の北に位置するようで、ここにもたくさんの坂道がある。そしてたくさんのお寺がある。この本にもたくさんのお寺が紹介されている。どうしてこんなにお寺が多いのかよくわからないけれど、お寺が多くあるということは、それほど時代の流れに流されない部分がかなり残っているのではないだろうかと思ってしまう。
 お寺には有名人のお墓が多い。この本の面白いところは、そのお墓を語ることで、歴史が語られるところである。ただ単に谷中の紹介だけではないのである。谷中の墓地にある有名人のお墓の一覧がこの本にはあるが、それを見ていても、思わず「へぇ~」と思ってしまう。

 地域雑誌「谷根千」というのがある。谷根千とは、谷中、根岸、千駄木をいい、「谷根千」とはこの地域の情報誌である。その雑誌を創刊した一人が森さんである。なお、この雑誌は今年終刊している。
 私はこの土地と何の関係もないところで生まれ育っているのだけれど、最近どういう訳か、この谷中、根岸、千駄木という場所が気にかかる。思い過ごしかもしれないけれど、ここには私が過ごした子供の頃の風景がまだ残っている感じがするのだ。
 この頃自分が子供頃の風景が懐かしく感じることがある。東京という変化の激しい土地に暮らしていると、いつの間にか昔あった風景が忽然と消えていて、そしてそれが当たり前になってしまう。そして気がついたら、あの風景はどこへ行っちゃったんだろうと懐かしくなる年代となってしまったからだろうか?
 とにかく再開発だなんていって、新しい背の高いビルがどんどん建って、ショッピングモールみたいなところがもてはやされるけれど、どうも私はそんなところへ行ってみたいという気が起こらない。行ってみてもただきらきらしているだけで、ちっとも落ち着かない。むしろうるさく感じてしまう。こんなところに来て何が楽しんだろうと思ってしまう。
 そんな気分になっているとき、噂で谷中、根岸、千駄木にはまだそんな一昔前の風景が残っていると聞いた。だから森さんの本を手にした。ちょっと郷愁に浸りたかったのかもしれない。
 でもこうして自分が暮らしている土地の昔をたどれるというのは何かいいなぁと思うし、昔をたどれる歴史がそこにあることがうらやましくもある。歴史も伝統もない根なし草みたいな生活をしていると余計にそう思う。だからせめて自分の子供頃の原風景に懐かしさを求めてしまうのかもしれない。ちょっと前までは鬱陶しかった人とのふれあいが妙に懐かしく思うのだ。
 結局私は新しいものについていくことに疲れてきたのかもしれないなと思うことがある。いや新しいものについていけなくなりつつある自分を自覚してきているんじゃないかと思う。それは歳をとったことの証拠かもしれないけれど、それは仕方がない。

 いずれにせよ、そのうちかみさんと一緒にネットで手に入れた地図を頼りにここ谷根千をぶらりと歩いてみてもいいかなと思った。

評価
★★


書誌
書名:谷中スケッチブック―心やさしい都市空間
著者:森 まゆみ
ISBN:9784480028556
出版社:筑摩書房 (1994/03/24 出版)ちくま文庫
版型:297,8p / 15cm / A6判
販売価:693円 (税込)

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