2009年04月06日

吉村昭著『月夜の記憶』

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 読んでいて、“おや?”と思った。今まで読んできた吉村さんの随筆とはちょっとトーンが違うなと感じたのである。
 どちらかと言えば私は吉村さんの随筆にどっしりと構えた感じが好きで、世の中のこと、あるいは身の回りのことなどあるがままに受け入れつつ、大人の対応を見せていた文章が好きだった。
 この本に収録されている随筆は吉村さん初の随筆からよるものが多いことを知る。書かれた文章は昭和30年代から40年代のもので、吉村さんが昭和41年に太宰治賞を受賞して、世の中に出られた頃の随筆かと思われる。
 そして私が今まで読んできた吉村さんの随筆は晩年のものであったから、この本の随筆からずいぶん時間がたっていることになる。その時間が吉村さんの文章に変化を生んでいるのだろう。ここにある文章は読んでいて“若いな”と感じさせるほど、自己主張がはっきりとされていて、たとえば世の中の風潮に対しても結構怒りをあらわにしているのだ。
 
 話は横にそれてしまうかもしれないが、最近私はこうした自己主張の激しい文章にはついて行けなくなってきているところあるのかもしれない。あるいは生きることとか死ぬこととか、そんなことを大上段に取り上げられると“もういいよ”と言いたくなってしまうのだ。
 恐らく若い頃には、そうした“どのように生きるか”といった問題を身近に、そして真剣に考えたくなるのだろうと思う。多分私もそれなりに考えたはずだ。あるいは友人と議論もした。しかしそれはその頃罹る“はしか”みたいなもので、そういう時期を通り過ごさないと今があり得ないのではないだろうか。
 だからそうした“はしか”に罹った頃は、そんな文章を読んで感動したり、あるいは怒ったりしていた。結構好んで読んでいたような気がするのである。
 しかしこの歳になると、“もういいや”という気持になっており、むしろそんなことを熱く語る奴を見かけると、逆に勘弁してくれと言いたくなってしまう。むしろ世の中を諦観している人の文章の方がストレートに今の自分の中に入ってくるようになった。好みも歳共に変わっていくものなのである。だからいくら好きな吉村さんの随筆であっても、若い頃に書かれたこれらの文章には少々辟易したしまった。
 まぁ、随筆に時と共に人の変化が見られて、それはそれで面白かったが、ここに書かれた文章は私が若い頃に読んだら、もう少し感想は変わったかもしれないなと思った次第だ。気に入った作家さんだから、何でも読めばいいもんじゃないということを知らされる。

評価
★★


書誌
書名:月夜の記憶
著者:吉村 昭
ISBN:9784061847422
出版社:講談社 (1990/08/15 出版)講談社文庫
版型:322p / 15cm / A6判
販売価:入手不可

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