2009年04月13日

東野圭吾著『さまよう刃』

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ねたばれ注意


 長峰重樹の一人娘絵摩は友人と行った花火大会の帰り、菅野快児、伴崎敦也、中井誠らに拉致され、蹂躙され殺された。彼等はいずれも未成年であった。
 一人娘を無残にも殺された長峰の携帯に犯人が菅野快児、伴崎敦也の二人であり、伴崎敦也のアパートを知らせるメッセージが入る。長峰はそのアパートに行き、絵摩の浴衣、そして絵摩が菅野快児と伴崎敦也に蹂躙されるビデオテープを発見する。それを涙ながらで見ているとき伴崎敦也が帰ってくる。長峰は部屋にあった包丁で伴崎敦也を何度も刺し、殺してしまう。長峰は伴崎敦也を殺してしまう前に菅野快児の居所を聞き出し、菅野快児が長野県に潜んでいることを知り、復讐に走る。そこから長峰のマンハントが始まる。
 一方伴崎敦也の死体がアパートで発見されたことで、警察は包丁などから残された指紋が長峰のものであることが判明し、伴崎敦也の殺害は長峰であることがわかる。
 部屋には絵摩以外にもたくさんの女性が連れ込まれ、強姦されたビデオテープがあった。警察は絵摩の殺害犯人は伴崎敦也と菅野快児であることを知る。警察は伴崎敦也の殺害犯人長峰重樹と絵摩殺害犯人の菅野快児を探し始める。

 この本はマンハントをする長峰の苦悩、そして長峰が娘の復讐に走っていることを充分理解していても、その長峰を逮捕しなければならない警察の苦悩が描かれる。
 長峰はごく普通のサラリーマンであった。しかし娘の絵摩が無残な殺され方をされてから、菅野快児に復讐をするために彼を追い続けているうちに、自分の考え方を整理し始める。

「そもそもなぜあのような偶然が起きたのか。あんな連中が生み出され、放置されたきたのか。世の中はなぜそれを許すのか。
 許しているわけではない、ただ無関心なだけだ、と長峰は周りを見て思う。ここにいる何人が、罪もない女子高生が性的玩具として扱われた上に、遺体となって発見された事件のことを覚えているだろうか。その父親が復讐鬼となったことを気に留めているだろうか。関連ニュースが流れるたびに思い出すことはあるかもしれない。しかしそれだけだ。ニュースの話題が切り替われば、彼等の関心も切り替わる。
 自分もそうだった、と長峰は思う。自分たちの生活が保障されていれば、他人のことなどどうでもよかった。少年犯罪について真剣に考えたことがあるか、問題解決のために何かをなしたかと問われれば、何も答えられない。
 自分だってこの世の中を作った共犯者なのだ、と長峰は気づいた。そして共犯者たちには、等しくその報いを受ける可能性が存在する。今回選ばれたのが自分だった、と思うしかない。
 ただ、絵摩は共犯者ではない。彼女が生き続けたなら、もっといい世の中を作ろうと努力したかもしれない。
 だからこそ自分は彼女に償いをしなければならない、と長峰は思った。スガノカイジのような人間の屑を生み出したのが自分たちならば、その後始末も自分たちの仕事だ。後始末にはいろいろと方法がある。更生、という言葉を使う人間もいるだろう。しかし長峰には、どうしてもその考えを持つことができなかった。世の中というシステムが作り出した怪物を、人間の力で人間に戻すことなど不可能としか思えない」

 しかし私にはこれは詭弁に思える。どこか自分のすること美化している。それよりも人として、親として、娘を殺され、その犯人が未成年ということで、充分に罰せられなければ、その傷は絶対に癒えない。法律があるいは社会がそうしないなら、自らがそうするしかないというのが人間であり親であろう。ところがこの本はその憎しみが妙に美化されてしまっている。もっともっと長峰重樹の犯人に対する憎しみが前面に出ていいような気がした。
 警察にしても「要するにこの銃は-織部は自分が持っている拳銃を思い浮かべた。この銃は、菅野の命を守るためのものなのだ。長峰絵摩を死に至らしめた張本人が、その父親から復讐されるのを防ぐための銃なのだ」そして「自分たちが正義の刃と信じているものは、本当に正しい方向に向いているのだろうかと織部は疑問を持った。向いていたとしても、その刃は本物だろうか。本当に『悪』を断ち切る力を持っているのだろうか」と思う警察官の姿も描かれるけれど、そこまでしかない。
 確かに犯人を捕まえる警察にしても、このように疑問を持って当たり前だと思う。娘を無残に殺された親の気持ち、その犯人を捕まえる警察官の気持ちを考えると、やっぱり今の法律にどこか誤りがあることを思い知らされる。人として“おかしい?”と思うのであれば、それはやっぱりおかしいのではないかと思う。そして特に最近はこういうことが多すぎる。更生させる前に、罪を償うこれが先であろう。
 私としては、せめて小説ので世界では、そうした復讐劇は徹底的であって欲しかった。この本はこうした法律と人の気持ちの乖離を言わしめるだけであって、言ってみればそうしたことを社会に訴えるみたいなところがあって、妙にしゃらくさい。


評価
★★


書誌
書名:さまよう刃
著者:東野 圭吾
ISBN:9784043718061
出版社:角川書店 角川グループパブリッシング〔発売〕 (2008/05/25 出版)角川文庫
版型:499p / 15cm / A6判
販売価:740円(税込)

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