2009年04月29日

阿刀田高著『獅子王アレクサンドロス』

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 獅子王アレキサンドロスとはもちろんアレキサンダー大王のことである。アレキサンダーの生涯を描いたこの長編はどこか、しゃのかかった感じが全体にあって、アレキサンダーそのものに人間臭さが感じられなかった。おそらく阿刀田さんは神と人間の境を曖昧にしたホメロスの作品を意識されて、それをアレキサンダーにも適用したんじゃないかと思われた。だからどこか神話みたいな感じがする。

 「現代人には少々奇異に思われるかもしれないが、古代にあって文明が進化するにつれ神と人間との融和が繁くなったのである。いや、一般化は不適当かもしれないが、少なくとも辺境のマケドニア人よりは、より進んだギリシア本土の住民のほうが、神と人間との融和を身近に感じていた。神が人間と交わって子を儲けたことなどギリシア人にはさほど珍しくない。ギリシア神話には、その手のエピソードが溢れていたし、哲人プラトンも神と処女の結合から生まれたと信じられていた。神の子であるということは、ギリシア人にとっては、“この世で際立って優れている”くらいの意味合いでしかなかったし、王であれ、預言者であれ、偉大な人物は霊感を吹き込まれていると自他ともに認めていた」

 だから「アレキサンダーが神の御子です」と周りのものから言われ、自分自身も「ゼウス・アモンの子」であることを信じることに何ら違和感がないのである。まだ現実と神話の世界がはっきりと分かれた世界じゃない。
 物語はそうしたスタンスで描かれるのだが、これはどこか話に不合理な部分や突飛なことが起これば、神の思し召しとなってしまう。それで済んでしまうところがこの話の弱みではないかと思われる。つまりどろどろした人間世界で起こる、因果関係を詳しく説明しないでも済んでしまうのである。もっと言えば詳しい時代考証を並べる必要性がなくなるのである。
 これがこの話、強いてはアレキサンダーの人間描写に“非人間的”にさせてしまうのだろう。もちろんあれだけの大遠征を古代においてした人物である。どこか神がかり的なところがないとできるものじゃないだろうとは思うけれど、この物語全体が神話を読んでいる感じがしてしまった。

 素朴な疑問として、アレキサンダーがなぜあれほどの大遠征を東方で行ったのか。それがよくわからなかった。それをする意味が知りたかった。
 本来、国を脅かす外敵から自らを守るために、その外敵を排除するために戦いをするのはわかる。アレキサンダーの場合それなダレイオス三世の率いるペルシアであり、マケドニア、ギリシアをペルシャから脅威から守るために、ダレイオス三世を討つというのはわかる。あのイッソスの戦いでダレイオス三世を打ち損じたから、彼を追いかけてペルシア奥地に入り込むのもわかる。


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 けれどそのダレイオス三世がペルシアの重鎮ベッソスに殺害されれば、今度はそれを討ち行く当たりからおかしくなってくる。まぁペルシアの完全制覇を考えればそこまではわからないことではない。けれどそうしてどんどんペルシアの奥地へ入り込んで、インダス川流域まで行く理由がよくわからない。
 師であるアリストテレスが「善なるものを求め続けること、真なるものを探し続けること。神の子ならば、おのずと見えてくるものがある」言った言葉を胸に抱きながら、先へ先へ進む。遠征がアレキサンダーの“真”の追求であるなら、彼の東方遠征はアレキサンダー個人の心的理由だけであったことになる。
 しかしアレキサンダーについていった兵士はたまったもんじゃない。まったく未知な世界に駆り出され、いつマケドニアに帰れるかわからない、あるいはここで死んでしまうかもしれないのだから、そういつまでもアレキサンダー個人の心的理由につきあえないだろう。事実インダス川流域まで来たアレキサンダーは兵士たちからこの遠征の意味に疑問を突きつけられ、引き返すこととなるのだ。
 さらに征服した土地はもともとそこを支配していた者にアレキサンダーへの忠誠を引き換えに委ねてしまう。ここでは「軽い支配」と言っているが、国が大きくなればなるほど、その支配力はどんどん及ばなくなるものだ。たとえマケドニアの軍人を置いておいたとしても、所詮数が限られているだろう。あくまでもアレキサンダーというカリスマがその支配力である。近くにアレキサンダーがいれば甲斐甲斐しくするかもしれないが、一端その土地をアレキサンダーが離れてしまえば、元の状態に戻るだけだろう。
 ギリシアが国家としてまとまっていたのはたとえばアテネを中心にギリシアの都市国家が盟友として小さくまとまっていたからであって、アレキサンダーは自らの帝国にそうした国家システムを流用したとも思われるけれど、ここはギリシアではない。民族も考えも違う。だからどうも私にはアレキサンダーが一時的に台風みたいに東方に来て、えらそうな顔をして、忠誠を誓えと言っただけであって、国家としてまとまっていたのではないように思えて仕方がなかった。このあたりの曖昧さとアレキサンダーの人物像の曖昧さがいつまでも残った。


評価
★★★


書誌
書名:獅子王アレクサンドロス
著者:阿刀田 高
ISBN:9784062088527
出版社:講談社 (1997/10/18 出版)
版型:570p / 19cm / B6判
販売価:入手不可

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