2009年05月11日

小玉武著『「係長」山口瞳の処世術』

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 この本は前著「『洋酒天国』とその時代」の第2弾である。著者の小玉さんがサントリーに入社したときの直属の上司が係長であった山口瞳さんだったという。
 私は「洋酒天国」という小雑誌に強い興味を持っているので、どうしてもこの本に触手が伸びてしまう。その上、開高さんと山口瞳さんのことをもっと知りたいという思いもあって、その二人の関係者が書かれた本はどうしても読みたくなるのだ。
 しかし今回も前作同様ものたりなさを感じて終わってしまった。思うに小玉さんはどうしても「洋酒天国」が発売されていた時代風俗、特に昭和30年代がどういう時代であったか、その時代を顧みると同時に、山口瞳さんの小説『人殺し』を語りたかったようだ。その小説の裏にある思想的背景をかなり詳しくつっこんでいる。私は山口さんが書かれた小説の解釈と鑑賞には今のところ興味がないので、どうしてもこの本は自分が求めていたものと違うなと感じた。
 私は山口さんが亡くなられるまで書かれた『男性自身』のファンで、そこに書かれる山口さんの姿勢が好きなのだ。まじめ一本槍で、不器用で、融通のきかない一人の男がどのように生きてきて、今の世の中に不平不満を愚痴るのが好きなのだ。あるいはそれでも自分の姿勢を崩さない頑固さが好きなのだ。そうした山口さんの知られざる部分がたくさんここにあればいいのにと思うのである。まぁそれでも山口瞳さんをうまく言い当てているんじゃないかと思われるところを書き出してみる。

 「山口瞳は不思議な作家である。権威や権力を嫌う<無頼>でありながら、生きていく上での『型』を大事にする。仕事のやり方も、人とのつきあいも、酒の飲み方も、そして礼儀作法も、生きるためには『型』こそまずもって大事だと思っていた。この『型』が定まらなくては、人生は、迷惑を繰りかえすだけで、と言うのである」

 「山口瞳にせよ、伊丹十三にせよ、身辺雑記風のことを書きながら、それを超えた普遍的な生活技術を明らかにするワザの持ち主だった。<リアルな眼>を持っていた、といった方が正確なのかもしれない」

「開高健が『女』の内面と感性と官能に関心を示したのに対して、山口瞳はどちらかというと、『女』の属性、生き方その能力と特性に鋭い観察眼を働かせた。開高健が描こうとする女はどちらかというと抽象化された『女』であり、山口瞳が凝視する女は、職場や街中で見られる具体的な属性を持つ『女』であった」

 最後に山口さん自ら自分自身を語ったことが、よかった。

 「こんど新しくサラリーマンになられる方々へ忠告とか教訓とか書けというご注文ですが、私は、実を申しますと、お恥ずかしい話ですが『教訓』をたれたりするのが、割と好きなタチなのです。
 『ねえ、キミ、ぼくなんか苦労したんだよ」』
 といって額にシワを寄せて、自分もいい気持ちになりたいタチなのです」

 これ、なんか本当に言ってもおかしくなかったので、読んでいて笑ってしまった。


評価
★★


書誌
書名:「係長」山口瞳の処世術
著者:小玉 武
ISBN:9784480818294
出版社:筑摩書房 (2009/03/30 出版)
版型:311p / 19cm / B6判
販売価:1,995円(税込)

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