2009年07月10日
村上春樹著『ねじまき鳥クロニクル』〈第1部〉泥棒かささぎ編・〈第2部〉予言する鳥編・〈第3部〉鳥刺し男編
最新刊の村上さんの本を読んだので、読みそびれていた以前のこの本のことが気になり、手にする。第一部、二部はわりとすらすら物語の中に入っていけたのだけれど、三部になるといささか疲れを覚え、読み終えたときには疲労感いっぱいであった。
いったいこの本はなんなんだ!というのが正直な感想である。これをどうやって自分の感想を書けばいいのか正直困っている。うまく書けないけれど書けばこんな感じだ。
村上さんの小説はいつも大切な人、あるいは大切なものを捜し回るというパターンが多いが、今回もそれである。主人公の岡田亨が失踪した妻クミコを探しに行く。そして物語は様々な世界に我々を連れて行ってくれる。現実と非現実。過去と現在。それぞれが交錯する。それは我々が当たり前と思っている、今いる世界が、まるで回転扉ようにそれが回ると簡単に非現実的な世界や過去へと変わる。つまりそれほど確かなものじゃないということ教えてくれる。というか、今現在がどこか非現実的なことで成り立っているところがあるし、過去の蓄積が現在を成り立たせているところがあることを教えてくれる。
我々のいる世界が実は理不尽で、残酷で、理解しがたい部分があまりにも多くあり、ちっともリアリティーじゃないことを思い知らされる。そういう世界がこの物語では、「ねじまき鳥」の存在を通して語る。
「ねじまき鳥」は大きな力を持っていた。人々は特別な人間しか聞こえないその鳥の声によって導かれ、避けがたい破滅へと向かった。そこでは、人間の自由意志などというものは無力だった。彼らは人形が背中のねじを巻かれテーブルの上に置かれたみたいに選択の余地のない行為に従事し、選択の余地のない方向に進まされた。その鳥の声の聞こえる範囲にいたほとんどの人々が激しく損なわれ、失われた。多くの人々が死んでいった。彼らはそのままテーブルの縁から下にこぼれ落ちていった。
ねじまき鳥は実存するんだ。どんな格好をしているかは、僕も知らない。僕も実際にその姿を見たことはないからね。声だけしか聞いたことがない。ねじまき鳥はその辺の木の枝にとまってちょっとずつ世界のねじを巻くんだ。ぎりぎりという音を立ててねじを巻くんだよ。ねじまき鳥がねじを巻かないと、世界が動かないんだ。でも誰もそんなことは知らない。世の中の人々はみんなもっと立派で複雑で巨大な装置がしっかりと世界を動かしていると思っている。でもそんなことはない。本当はねじまき鳥がいろいろな場所に行って、行く先々でちょっとずつ小さなねじを巻いて世界を動かしているんだよ。それはぜんまい式のおもちゃについているような、簡単なねじなんだ。ただそのねじを巻けばいい。でもそのねじはねじまき鳥にしか見えない。
ここでは説明できない、あるいは納得できない現実がどこかあって、それは「ねじまき鳥」が人間の意志に関係なくねじを巻くから、そうなるのだというのだ。岡田亨の妻クミコが失踪するのも、岡田亨が理解できる範囲のものを超えた何かであり、彼の回りに集まってくる変わった名前の登場人物も、彼の理解を超えた何かを持っているか、不可解な(あるいは異常な)過去の持ち主であるが故、ある意味なかなか理解しにくいものがそこにはある。
でも、世の中というのはそうした雑多な世界にいる人々で成り立っているところがあるのだ。だからわかったようで実は誰もわかっちゃいないということなのだ。
それでも何とかわかりたい。理解したい。失踪した妻を捜し出すために。だから笠原メイが岡田亨の苦悩を次のように言うのだ。
あなたはいつも涼しい顔をして、何がどうなっても自分とは関係ないという風に見える。でも本当はそうじゃない。あなたはあなたなりに一生懸命闘っているのよね。
この物語に登場する人物たちの話、過去に経験してきた悲惨で、残酷な体験は、その人物たちの思想形成に多大な影響を今現在に及ぼしたけれども、聞く側の人間にとって、それを完全に理解できないものである。そんな状態の人間の集まりである世の中がどうして確かなものなのか?世の中そのものが複雑怪奇となっても不思議じゃない。
でも、そうであっても少なくとも自分が愛している妻だけはどうしても理解したい。二人の間だけは“確かなもの”でありたい。そういう気持だけは伝わってくる。多分それが岡田亨の闘いなのだろう。
評価
★★★
書誌
書名:ねじまき鳥クロニクル〈第1部〉泥棒かささぎ編
著者:村上 春樹
ISBN:9784103534037
出版社:新潮社 (1994/04/12 出版)
版型:308p / 19cm / B6判
販売価:1,680円(税込)
書誌
書名:ねじまき鳥クロニクル〈第2部〉予言する鳥編
著者:村上 春樹
ISBN:9784103534044
出版社:新潮社 (1994/04/12 出版)
版型:356p / 19cm / B6判
販売価:1,890円(税込)
書誌
書名:ねじまき鳥クロニクル〈第3部〉鳥刺し男編
著者:村上 春樹
ISBN:9784103534051
出版社:新潮社 (1995/08/25 出版)
版型:492p / 19cm / B6判
販売価:2,205円(税込)
- by kmoto
- at 15:29
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