2009年08月18日
吉村昭著『実を申すと』
何度も書いているが、最近私は吉村昭さんの随筆が気に入っていて、続けざまに読んでいる。どうして気に入っているかと、それなりに考えているのだけれど、要するに吉村さんの“やせ我慢”が好きなのである。その“やせ我慢”は吉村さんの見栄から発しているものなのだが、いかにも中年の無理がペーソスを醸し出していて、それが自分にも思いたるところがあって“よくわかるなぁ”と感じるし、“そうそう”と思い至るのだ。
この本の「食」に関する文章で吉村さんが自分の姿がみじめったらしい姿に映ることを非常に気にされている。だから例えば食事のマナーにしても、たかが食べることなのになんでこんな窮屈な感じで食べなければならないのかと思いつつも、自分流に食べれば自分の姿がみじめに見えるかもしれないと思い、我慢する。でも本音はもっと好きに食べればいいのにと思っていることはちゃんと書き加えている。あるいはその方が美味しいはずだと言わんばかりである。
吉村さんは戦前、戦中の人であり、その時苦労された経験があるところに、基本的にちょっと前までいた“一徹な生活人”であり、“律儀な人”なのである。ところが時代がそうした人を古臭い人間と見るようになってきているし、そんなに堅苦しいことを言わなさんなという風潮が当たり前ととなりつつある一方で、西欧的生活スタイルがあらゆる面で当たり前となってきているものだから、吉村さんの生き方や考え方がジェネレーッションギャップとなって、悲しい笑いを私に提供してくれるのである。笑うに笑えないところがよくわかり、読んでいて“そうなんだだよぁ”と思うのだ。あるいはよくぞ言ってくれたとも思うのだ。
閑話休題
私は朝事務所の近くのドトールでコーヒーをテイクアウトして、会社に入る。毎日買うものだから、コーヒーチケットを買っておいて、それを出す。また、木曜日に社長と二人で仕事をしているときは三時にお茶をしているので、その時ドトールで買ったコーヒーを入れて飲んでいる。もちろん接客用にも使う。(これは会社出しではなく、私と社長と交互で負担している)
あるとき店長からポイントカードを作ったらどうですかと言われ、いわれるままにポイントカード作った。それを作るに当たり私の名前や会社の住所などを記入したのだが、そのことでいつの間にか会員となってしまったらしく、毎月そのお店からはがきが来るようになった。
このはがきはこれを持っていくとブレンドコーヒーを一杯サービスしてくれる。(はがきにはコーヒー一杯サービスしますとちゃんとかいてある)ところがこれがなかなか使えないのだ。これを使ってコーヒーをもらうのが恥ずかしいのだ。なんかせこいのではないのかと思ってしまうのである。あるいはなんか申し訳ないような気がしてしまうのである。儲けを減らしてしまうと思うのである。そういうサービスを期待して会員になったわけじゃないし、言われるままになっただけである。
ポイントならそこで買ったものについて付加されるわけだから、そんなに気恥ずかしく使わなくても済むけれど、このはがきでコーヒーをもらうと、店の人間が私をせこい人間だと思うのじゃないかと思ってしまうのだ。どこかでちゃんと金を出して買えよと言っているんじゃないかと感じてしまう。だから堂々と使えない。
最近は会社の同僚と飲まなくなったけれど、その彼と飲みに行くとお店の前で配っている割引券をしっかりもらったり、ぐるなびのクーポン券をちゃんとプリントアウトして、それを会計の時に出して、しっかりと割り引きしてもらう。私は酒を飲むときぐらいきちんとお金を払えよと思うのだが、彼にとってその行為は当たり前のことであって、権利としてそれを行使しているだけのことだから恥ずかしいことでもないみたいだ。それが今の人とっては当たり前であり、逆にそのくらいサービスしなさいよと言うところなのかもしれないが、どうもそういう感覚について行けないでいる。もちろん私だって割引は大好きである。大歓迎である。けれどそれをスマートに使えないだけなのだ。変な意地みたいなものがどこか自分の中にある。多分私の中にある融通の利かない古臭さがそうさせるのだろう。そして私が吉村さんの随筆を好むのは、そうした融通の利かない古臭さが吉村さんの文章には随所にあり、それが共感できるからじゃないかと思っている。結局小心者なのだ。
さて、この本の解説を大河内昭彌さんが書かれている。この人がどういう人なのか知らなかったのだが、雑誌「食食食」の編集長だと知った。(この雑誌名「あさめし ひるめし ばんめし」という)実は私はこの雑誌二冊を手元に持っている。さっそく取り出してみると、確かに解説に書かれていたように吉村昭さんが連載している。しかも私の持っている35号には吉村さんの奥様も鼎談として参加されている。この雑誌今でもあるのかどうか知らないのだが、どうもネットで調べてみると、やたら古本屋さんの出品がヒットするので、もう出版されていないのかもしれない。でも面白い雑誌だと思ったので、そのままこの二冊は私の手元に残った。今、1983年(昭和58年)の雑誌のページをめくるのも楽しい。
評価
★★★
書誌
書名:実を申すと
著者:吉村 昭
ISBN:9784480021526
出版社:筑摩書房 (1987/08/25 出版)ちくま文庫
版型:232p / 15cm / A6判
販売価:入手不可
- by kmoto
- at 10:41
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