2009年09月14日
田中栞著『古本屋の女房』
著者が大学時代本屋でアルバイトをしていたときの、一般文芸書担当の人が偶然著者の実家に近くで古本屋を開業した。店名は“黄麦堂”という。以来黄麦堂は著者のお気に入りとなり、結局再婚するに至り、はれて古本屋の女房となった。この本はそんな“黄麦堂”の日々を、著者の育児と仕入れをつづったものである。
どうやら著者の仕入れのラインアップは見ていると、“黄麦堂”はごく普通の街中にある古本屋さんのようである。つまり格式高い専門書を扱う古本屋さんではないようだ。だから売れ筋のコミック、ボーイズラブ(女性向けの小説や漫画で10代の少年、特に美少年の同士の間での恋愛もの、いわゆるホモもの)ハーレクイーン、フランス書院文庫(エロ小説)、時代小説などが仕入れる本として必ず書かれる。と言うことはこの手の本を簡単に仕入れるにはブックオフがもってこいなのである。だから全国各地仕入れ先に必ずブックオフが登場する。そこでセドリを行うわけだ。
セドリとは古本屋さんが他の古本屋さんで自分のところで売る本を買い入れることである。古本屋さんが古本屋さんで本を買うわけだから、いわゆる社員割引なみたいなあるかというか、そんなものは一切ない。売値で買ってくるのである。できるだけ安いやつを見つけてきて、それに自分のところの利益を乗っけて、売るのである。
この本は著者が何かの用で全国各地を訪れるとき、ついでに自分の欲しい本と店用の仕入れを「趣味と実益」を兼ねた古本屋行脚である。それを面白くしているのは著者が二人の子供を連れて、古本屋巡りをすることである。それがこの本の特色かと思う。ベビーカーを押しながら、むずがる子供なだめ、仕入れをする光景など、そうそうないだろうから、それがかえって珍しいく、面白い。子供連れだとトイレの問題がある。ところかまわず、「おしっこ」、「うんち」となる。だいたい古本屋さんにはお客用のトイレなどないのが普通である。だからわざわざ断ってトイレをかりるはめになる。またブックオフに頻繁に行くものだから、子供の方が、「本を売るならブックオフ♪」という歌を覚えてしまい、鼻歌にしてしまうくらいなのだ。
しかしこのセドリは古本屋には嫌がれるという。だっていくら売値で売れても、下手をすれば売れ筋商品をごそっと持って行かれる可能性も充分ある。それはブックオフでも同じ。だからあからさまに大量に本を買うと、同業者だなということがわかり、「ご遠慮願いませんか」と言われるという。で、仕方がないので大きくなった娘さんを使って、仕入れをさせるという。
しかし知らなかったなぁ。ブックオフにもゴールド会員のカードがあるなんて・・・。この本によると、これはブックオフで5万円以上買わないともらえないものらしい。このカードを娘さんが持って、本を買うというのには笑ってしまった。
この本がほのぼのと感じさせるのは著者のイラストである。子供たちが古本屋さんにいるときの姿がかわいらしく描かれている。なかなかうまいものである。
しかしこの“黄麦堂”の商品のために、著者の全国古本屋での仕入れ模様を読んでいると、特にその仕入れ内容を見ると、この古本屋の危うさを感じる。大丈夫なんだろうかと思ってしまい、そして最後に“やっぱりな”となってしまう。だいたいその仕入れがブックオフを頼りにするところは、どうしても不安を感じる。
昔、インターネットで古本屋さんを始めた人の本を読んだことがあるが、ネット販売だから店舗を持つ必要がない。必要なのは警察に古物商の届を出すぐらい。後はどうやって仕入をするかである。それをこの人は各地のブックオフで仕入をし、自分のところの商品としてアップするのである。確か簡単な損益計算書みたいなものが掲載してあって、それを見るとせいぜい“小遣い稼ぎ”程度の利益しかなかったはずだ。
もちろんこの“黄麦堂”は古本屋として店舗を構えているれっきとした古本屋さんだから、小遣い稼ぎとはわけが違うだろうが、ブックオフでのセドリに頼るところは、やっぱりまずいんじゃないかなと思わせる。
さらにそのセドリを奥さんにやらせるところは、どうなんだろうと思う。旦那の方は他の仕事があって、そうした仕入ができない事情があるのだろうが、なんか奥さんの方がたくましく生きていて、旦那の方はそれに頼っている感じがしてしまう。
実際問題、売上が低迷して、生活費さえ家に入れられない状態に陥るし、店をたたむときの旦那の対応は、まさに世間ズレしていない、浮世離れしたところがある。いいように業者にお金をふんだくられる。最後は結局こうなるのかと思いつつ、この本は終わる。
結局“黄麦堂”はインターネット専門の絶版文庫販売の古本屋さんになっている。これだって余計なことかもしれないけれど、このご旦那にやらせているといつまで続くのかなと思ってしまう。ここでも単に本好きと商売とは違うということを思い知らされる。
本自体、装幀も凝っているし、イラストもいいと書いた。また著者が校正のテクニック持っているので、その道の多くの人にこの本の校正を手伝ってもらっているようで、かなり手間暇かかっているらしい。が、その割には内容のてんまつが貧弱だったのは寂しい限りだ。
評価
★★
書誌
書名:古本屋の女房
著者:田中 栞
ISBN:9784582832426
出版社:平凡社 (2004/11/04 出版)
版型:217p / 19cm / B6判
販売価:1,575円(税込)
- by kmoto
- at 09:54
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