2009年09月28日
村上春樹著『村上春樹全作品』〈3〉
先に読んだ『ノルウェイの森』のもとになった短編『蛍』を読みたくなり、この短編集を取り出して読んでみた。多分ここに収録されているのは、村上さんの初期の短編なんだと思われる。『中国行きのスロー・ボード』と『蛍・納屋を焼く・その他の短編』に収録された作品がここには収録されている。もちろんいずれも昔読んでいる。個人的には「午後の最後の芝生」、「シドニーのグリーン・ストリート」、「蛍」が懐かしく、よかった。
「午後の最後の芝生」は主人公の僕がアルバイトで芝刈りのアルバイトをやっていて、アルバイトして最後の仕事の風景を描いている。僕はとにかく徹底して自分が納得するまで仕事をする。だから機械よりも手作業が多くなる。必然的に他の人より時間がかかるが、その分仕事は丁寧なのだ。
中年の女がいる庭の芝生を刈りに行くのだが、その芝生はそれほど延びてはいない。けれどとにかく刈ってくれと頼まれる。結構うるさそうな女なのだ。でも僕が刈った芝生を見て、彼女の死んだ亭主のように芝生を刈るという。そして彼女は僕を部屋に入れ、ビールとサンドイッチをご馳走し、多分自分の娘の部屋を僕に見せ、僕にどんなイメージが湧くか尋ねる。ただそれだけの話なんだけれど、なんかいい感じの物語であった。
暑い日差しのなかで、ラジオかけ、ショートパンツ一枚で芝生を刈る情景。その後の彼女にご馳走されたサンドイッチとビールが美味しそうであった。そして仕事が終わり刈り上がった芝生の表面が絨毯のようになめらかになっている情景など、素直に頭の中に浮かんでくる。
僕はその時彼女と別れたばかりであった。彼女から来た別れの手紙の内容を休憩中思い出す。
「あなたのことは今でもとても好きです」
「やさしくてとても立派な人だと思っています。これは嘘じゃありません。でもある時、それだけじゃ足らないんじゃないかという気がしたんです」
これ言われたり、感じたりしたことありません?若い頃間違いなく相手が好きであっても、どこか相手にもの足りなさを感じることって、あるでしょう・・・。
「シドニーのグリーン・ストリート」は、羊男が趣味で探偵をしている僕に、羊博士にかじり取られた耳を取り返してくれという依頼をしにくる。羊男が懐かしい。また羊男の話を読みたくなちゃったなぁ。
「蛍」は僕がいる学生寮の同室人が近所のホテルで放された蛍を捕まえた。それを彼女に渡せば喜ぶよということで僕に渡す。『ノルウェイの森』ではワタナベ君の同室で、国立大学で地図学を専攻し、国土地理院への就職を希望する生真面目で潔癖症の突撃隊”になる。
この「蛍」でも『ノルウェイの森』もその蛍を彼女にあげることはできなかったのだけれど、『ノルウェイの森』もよかったけれど、この「蛍」ももの悲しくていい。(当たり前か!だって『ノルウェイの森』はこの短編を肉付けして書かれたものなんだから)
思うのだけれど、村上さんの小説はいわゆる“ムラカミワールド”として非現実的な舞台設定で物語が始まるけれど、でもそこに登場する人物たちは我々と同じ現実で生活している人と同じである。きわめて現実的で、生活感あふれる人たちなのである。だから舞台は非現実的であっても、ものの考え方、感じ方はストレートに読む側に入ってくる。いや、舞台が非現実的だからこそ余計に私小説的部分は心に響いてくるような気がする。ごく普通にあることなのだ。それが強調されて読む側に届くといっていいのかもしれない。妙に納得しちゃったりしてね。特に喪失感はずんと心に響くし、そのやるせなさはよくわかる。むなしさといってもいいかもしれない。そしてそういった喪失感は誰しも経験しているだけに、つらさがよくわかる。
評価
★★★
書誌
書名:村上春樹全作品 〈3〉 ― 1979~1989 短篇集 1
著者:村上 春樹
ISBN:9784061879331
出版社:講談社 (1990/09/20 出版)
版型:56p / 21cm / A5判
販売価:3,150円(税込)
- by kmoto
- at 11:45
comments