2009年11月27日
ジャック・ル・ゴフ著『子どもたちに語るヨーロッパ史』
この本は著者の『子どもたちに語るヨーロッパ史』と『子どもたちに語る中世』の二編を一冊にまとめた本である。いずれも書名からもわかる通り子供に読ませるためにわかりやすく、簡単に書かれたヨーロッパの通史、ヨーロッパ中世史といったものであり、読む側に多少知識があると、なんだそんなことしか書いていない本かというもの足りなさある。
著者のル・ゴフはEUの支持者のようで、ヨーロッパが現在一つにまとまろうとしているのを支持し、そうあるべき背景がヨーロッパには元々あるのだから、そうなって然るべきことだという考えが中心にある。またこの人はフランスの中世史の大家であるそうで、中世という時代のそれまであった偏見をなくそうとする意思で『子どもたちに語る中世』を書かれている。
まずは、『子どもたちに語るヨーロッパ史』から。大体この手の通史を書く場合、まずはヨーロッパの地形的特徴から入るのが王道のようで、この本もそのようになっている。著者が言うにはヨーロッパ大陸は世界の中で一番小さい大陸で、面積は1000万平方キロメートルで地球上の地表面7%を占める。ちなみにアジア大陸は30%、アメリカ大陸28%、アフリカ大陸20%である。それほど小さな大陸だから、人の行き来も他の大陸から比べれば簡単で、古代ローマの将軍は馬に乗ってローマを出発し、ガリア、ゲルマニア、イスパニア、ブリタニアへの遠征を生涯のうち何度も成し遂げたという例を出している。現在でも飛行機がなくても自動車と高速鉄道で簡単に移動出来る大きさなのである。
さらに広すぎない面積、海が近いこと、比較的平坦なこと、ほどほどに厳しい気候、大部分の土地が良好な経済的適性をもつこと(砂漠はなく、原生林ははるか昔に消失した)などヨーロッパ大陸の特徴といえる点を合わせて考えると、ヨーロッパがほかの大陸とちがって、非常に早くからほとんどいたるところに人が住み、利用されていたことを教える。
このことからヨーロッパは昔から人の行き来が比較的楽にできたし、河川も日本の川のような狭くて激しい流れの河川ではないことから、その往来を更に楽にする。
そしてここにはギリシャ・ローマ時代の文化的遺産やキリスト教という宗教がヨーロッパの基盤となり、共通認識みたいなものを生んできた。それでいる民族は違う。共通と個別が同居する地域であることを特徴として言う。だから共通を元にして統一をしようとすると、個別が反発することとなる。ナポレオンやヒットラーが政治的暴力でヨーロッパ統一しようとしても出来なかったのは、そのためであった。逆にヨーロッパは国と国民の自発的意思によって統一出来る証明だというのである。
現在のEUとしてヨーロッパの国々が一つになろうする一方で、地方の独自性も維持するという姿勢がここにもあることを暗に示している。一つの大陸としての歴史を見ることで、それぞれ個性や地域性はあるにしても、我々は共通の歴史的要素を共有しているから、それを大きな枠としてまとまり、その中で地域性を維持するのがEUの性格だというのであろう。そのためにヨーロッパは未来があるわけだ。
著者は最後に「どうか忘れないでください。記憶なしではよきことは起こりえないことを。歴史は公正な記憶をさしだすためにあり、そうした記憶こそが過去を通してみなさんの現在と未来を照らし出すのだということを」と言っているが、EUという歴史的実験を可能にするのは歴史であると言っている。
『子どもたちに語る中世』ではヨーロッパ中世は五世紀から十五世紀までの千年も続いた時代であり、その前後にあったギリシャ・ローマと近世の間にある単に中間の時代で、暴力に満ち、あいまいで無知な<悪しき>時代だったと考える人がいる。しかしそうじゃないと言う。まぁヨーロッパ中世史をやる人は必ずこのことを言うのだが、その長い時間の中で、古代を脱し、近世を生む母体を作った時代であったことは間違いない。著者も「中世はヨーロッパが出現し、形成された時代でした。文明の各時代にはそれぞれ役割があり、歴史の発展の総体のなかで、ある使命を担っているのだとしたら、中世の使命はヨーロッパを<生む>ことであったといえます」と言っている。ギリシャやローマみたいに華々しさはないし、ルネサンスみたいな豪華さはないけれど、いい意味でも悪い意味でもホンと人間的であった時代だったのだ。個人的にいえばその素朴さが好きなんだけれど・・・・。
最初に書いた通りこの本は子供たちに聞かせるための歴史本だから、通史にしてもものすごくアバウトに書かれているし、中世史にしても質問に答える形で歴史を語っているので、ある程度歴史を勉強してきた人には物足りない。しかしいくら子供向けとはいえ、もう少し“驚き”が欲しかったなと感じた。これじゃ子供たちにとってあまりおもしろくないのではないかと思った。
評価
★★
書誌
書名:子どもたちに語るヨーロッパ史
著者:ジャック・ル・ゴフ 前田 耕作【監訳】 川崎 万里【訳】
ISBN:9784480092465
出版社:筑摩書房 (2009/09/10 出版)ちくま学芸文庫
版型:278p / 15cm / A6判
販売価:1,155円(税込)
- by kmoto
- at 17:37
comments