2009年12月18日

川上健一著『BETWEEN―ノーマネーand能天気』

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 この本は『ビットウィン』の文庫版。まだこのブログをやり始めた頃に読んだ。すごく気に入った。いいエッセイだと思っていたし、たぶんまた読み返す本だろうなと思っていた。
 珍しい黄緑を基調とした装丁も気にっている。装丁、中にあるイラストは南伸坊さんである。文庫本はやはり黄緑を基調としているが、イワナではなく川上さん本人ようだ。これもなかなかいい。私は本の装丁も大事だと思っているので、この本は装丁も内容もお気に入りなのだ。


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 この本の感想や面白かったところ、ホロッときたところなどは以前書いてある通りで、今回も同じように笑ったり、涙ぐんだりしてしてしまった。

 川上さんは二十七歳で小説家という肩書きを持ったが、自分では小説家だとは思っておらず、他に本当にやりたいことがあるはずだといつも思っていた。その本当にやりたいことはいったいなんなんだろうと悶々として酒に走り、飲み過ぎとストレスで肝臓を壊してしまい、無気力になってしまった。
 そうなったらなったで、健康になるまで仕事はせず、気長に構えて本当に自分のやりたいことを探そうと決める。医者の薦めもあって八ヶ岳南麓の高原に引っ越した。そこに奥さんがやってくる。奥さんがやってきて、独身時代には考えられなかった三度の野菜中心食事が取れるようになり食生活が改善し、早寝早起きという規則正しい生活、加えて気候の良さ、仕事をしない、好きな釣りとテニス、野菜作り、庭造り、野山歩き、たき火大会とくれば、ストレスなど皆無となり、都会にいた頃あれだけ通院し、あれだけ薬を飲み、あれだけ静養してもよくならなかった肝臓の数値が正常値に下がり、正常で健康そのものなった。
 その間十年間川上さんのいう「慢性的手元不如意」の状態になったが、超貧乏を愛娘と三人過ごす。お金がない分、なんでも自分たちで作らなければならなかった。家中手作りのもので溢れていた。家具も川上さんの日曜大工で作った。食べるために野菜を作り、食べるために釣りをした。そのうち自分で食べるものを自分で作る楽しみを覚えた。家族と一緒にいる時間が大切なものだと知った。村の人たちの優しさに触れ、川上さんは再生する。人としてうれしさや悲しさ、楽しさなど素直に感じられるようになる。テレビなど見ていても感極まって涙をボロボロこぼしたり、ストーリーに感動するようになる。
 そうなると物語のすばらしさを感じられるようになり、時には批評めいたことも感じたりして、自分は物語が好きだったんだとわかり始める。自分の本当にやりたかったことは物語を紡ぐことであると知るのである。そして十年ぶりに小説を書き始めるのである。
 この本を読んでいて、川上さんが超貧乏生活を余儀なくされたことが良かったんだと思った。そしてそれを理解してくれる家族の存在。楽しい仲間の存在が、川上さんにまた小説を書こうと思わせるのだと思った。そして何よりも自然の中での生活がそれを手助けしたんだと思う。
 薬は確かに一時的に数値を下げるかもしれないが、荒んだ心はきっと回復しないだろう。まして都会という不自然な世界で生きていけば、また小説を書こうなんて思わなかったに違いない。
 人の気持ちを荒んでささくれたったものにしてしまうのも、人間関係だけれど、人が人として心を回復させるのは、信頼できる家族、仲間という人間関係であるのだと思った。それを大自然が後押ししているんじゃないかなと思った。
 やっぱり自然は恐ろしいものだけど(ここでもおかしく書かれているけれど、怖い側面があることを教えてくれる)、一方で人を心身ともに育むものなんだなと感じた。

 ところでこの本の書名となっているビトウィンとはなんであろうか。読んでいると、ビトウィンとは絶対的両極端の間に自分がいて、その間をあっちこっち揺れ動くことを言っているようだ。そうした生活をしている人を川上さんはビトウィン人と呼び、自分がそうだからそうしたビトウィン人に親しみを覚えると言うのだ。

 「こうこうこうだからこうだッ、とかこれこれこうだからこっちがいいに決まっているッ、と物事を理路整然とやっつけてきっぱりと断定する人間に遭遇すると、本当かね?とつい首をひねってしまい、ついでに毛嫌いしてしまう癖が私にはある。
 己が優柔不断ということもあるけれど、両極端の間に我が身を置いて、あれこれ迷ったり、悩んだりしているビトウィン人の方に、人間的な親しみを覚えてしまうのだ」

 前回読んだときはまだ自分の評価を★の数で表すことをしていなかったし、ブログオープンのために、それまで読んできた本を一気に紹介したので、この本はその中に埋もれてしまった感じがする。もちろん私の中ではいい本だったという記憶が残ってはいるが、改めて読み返してよかったなと思った。


評価
★★★★★ 


書誌
書名:BETWEEN―ノーマネーand能天気
著者:川上 健一
ISBN:9784087463217
出版社:集英社 (2008/07/25 出版)集英社文庫
版型:212p / 15cm / A6判
販売価:499円(税込)

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