2010年02月14日

阿刀田高著『新トロイア物語』

2010_02_14_01.jpg


 この本は以前文庫本で読んだ。たまたま単行本を手に入れたので、また読み返している。きっかけは先日テレビで放映されていたブラッド・ピット主演の「トロイ」を見たからである。しかしどうしてこうも違うのだろうか?前に読んだ阿刀田さんの本は怖ろしいほど面白くなく、陳腐だったけど、今回は面白くて、一気に読んでしまった。
 この本を読んでいると、映画の場面、たとえばブラビが扮するアキレウスとトロイの第一王子ヘクトルとの一騎打ちなど、本でその場面が描かれると、すぐあぁ、ここだなと思い出す。


2010_02_14_02.jpg


 一方で改めて読み返していると、阿刀田さんがその著作で教えてくれたギリシア神話のことを思い出す。今までは単独で話の内容を理解していたが、今回はうまく話がつながって、先に読んだ以上にその分面白かったかもしれない。
 たとえばトロイの第二王子であるパリスである。この本を読んでいて、あれ?パリスって聞いたことがあるぞと思い、とりあえずそのまま読んでいたら、羊飼いをやっていた頃、ゼウスの妃ヘラとアテナイの守護神で戦争の女神アテネ、そして愛と美の女神アフロディテがその中で誰が一番美しいか争っていたとき、このパリスが判定したと書いてあって、あぁ、このことかと思い出す。俗に言う「パリスの審判」である。
 大神ゼウスは地上に人口が多くなりすぎて、人口を減らすには戦争が一番と考えた。折しも女神テティスと人間の男であるペレウスの結婚式があり、多くの神々が招かれていたが、そこに争いの神様である女神エリスだけには招待状が届かないようにした。当然エリスは何で自分だけは招待されないのかと怒り出す。さらにそこで黄金の林檎を取って、そこへ“一番美しい女神へ”と書いてその結婚式の会場に投げ込む。これは当然そこにいる一番美しい女神が受け取るプレゼントということで、我こそが一番の美女だと争いが起こる。これを争ったのが先に書いたヘラとアテネとアフロディテである。そこに巻き込まれたのがパリスであった。
 そのパリスである。この男トロイに帰った後、父である王プリモアスの命を受けスパルタへアイネイアスと共に赴く。そこにはスパルタの王メネラオスの王妃ヘレネがいた。このヘレネは絶世の美女であり、パリスは一目でその虜となる。アイネイアスもそうであった。一方ヘレネは夫メネラオスに嫌気がさしていたところに、美男で勇者の誉れ高いパリスが現れたものだから、パリスに心奪われる。そしてパリスはヘレネを奪ってスパルタを後にする。
 当然メネラオスは怒る。厄介なのはメネラオスはミケーネの王アガメムノンの弟であった。アガメムノンのはギリシアの盟主を自ら任じていたし、トロイの繁栄を羨んでいたので、これはヘレネを奪い返すための戦争をすべし、ということで戦いが始まった。これがトロイ戦争である。
 ところでそのヘレネであるが、ゼウスの病気とも言える女好きから始まった。スパルタの王妃レダが白鳥の集まる泉で沐浴を楽しんでいるところへ、大きな白鳥に化けたゼウスが近づき、王妃と交わる。王妃は卵を産み、その一つから、ギリシア神話一の美女ヘレネが生まれたのである。

 さらにヘクトルと戦ったアキレウスの出生も覚えていたので、それも書いておく。アキレウスは先の女神テティスと人間の男であるペレウスの間に生まれた子供である。つまり半神半人の勇者である。テティスは魅力的な女神だったが、「テティスから生まれる男の子は父親より強くなる」という予言があって、それじゃまずいということで、ゼウスとポセイドンは人間であるペレウスに嫁がせたのである。だからアキレウスは強い。みんながアガメムノンの横暴さに怖じけついて、渋々従うのに、アキレウスはオデッセイウスに誘われとりあえず戦争に参加したけれど、最初は物見遊山であった。しかしパトロクロスがヘクトルに殺されたことを知って、戦いに出る。そしてヘクトルとの一騎打ちが最初にいた場面である。

 こういう背景を知っていると、俄然この話は面白くなる。ただでさえ、話のテンポがあって楽しいのに、登場人物の出生を知っていれば、楽しみが倍増する。
 この本の主人公はアイネイアスであるが、その父アンキセウスで、アイエネイアスはアンキセウスとアプロディーテーの間の息子である。そして彼もトロイでは勇者の誉れ高い若者であり、トロイ戦争ではギリシア軍と戦ったが、最後は落城するトロイを父と共に後にする。アンキセウスは昔の戦いで足を悪くしており、トロイを脱出するとき、アイエネイアスはアンキセウスを負ぶってトロイを後にする。この場面を描いた絵を見てシュリーマンはトロイの発掘を目指したのである。
 さてそのアイエネイアスであるが、トロイを出た後、トロイ再興を目指して地中海をまずは東に行き、次に西に向かう。そして何度も遭難しながらイタリアに到着する。そう、アイエネイアスはローマ建国の祖の祖なのである。イタリアのラティウムの王女ラウィニアと結婚し、子のユルースを得るが、そのユルースの末裔がオオカミに育まれた双子の兄弟ロムルスとレムスであり、そして兄弟が争って勝ったロムルスがローマ建国の祖となるのである。
 ところでアイエネイアスがイタリアを目指し、地中海を航海しているとき、嵐に遭い、北アフリカのカルタゴの漂着する。このときカルタゴはまだ女王ディドの時代であった。
 ディドは父の弟のシュカイオスと結ばれて、巫女として神に仕えていた。その父の死後、遺言で彼女と兄のピュグマリオンが共同で国を治める様にといわれていたが、ピュグマリオンは王位の独占と叔父の財産目当てに遺言に違えてシュカイオスを暗殺し、ディドの命をも狙った。
 そこで彼女は全てを捨てて心ある家臣たちとともにフェニキアの都市国家テュロスから航海に出た。そして北アフリカのチュニジアの地に辿り着いく。そこがカルタゴである。だからディドはギリシア・ローマ神話の中で、カルタゴを建国したと伝えられている伝説上の女王となっている。
 そしてアイエネイアスはカルタゴに漂着し、ディドに手厚くもてなされるし、恋も生まれた。しかしアイエネイアスにはトロイ復興という目的があるので、ここを後にする。
 私が面白いと思ったのは、ディドがカルタゴ建国した女王であり、アイエネイアスはローマ建国の祖である。この二人が一時は恋仲となったのに、後の歴史はこの二つの国が地中海の覇権を巡って争うのである。

 さて最後にトロイの木馬である。我々が知っているトロイの木馬はギリシア軍が作り、それをトロイの人々が城の中に入れてしまい、夜、そこに忍び込んだギリシア軍が出て来てくる。攻めあぐんできた城の門を中から開け、そこからギリシア軍がなだれ込むことによって、トロイが炎上し、崩壊するという話である。映画「トロイ」もそういう話になっている
 しかしこの本では、なかなかトロイを攻めきれないギリシアが、大きな木馬を神への捧げ物として作り、城の外で燃やすのである。つまり木馬は城の中には入らないのである。そしてその後大きな地震が来て、城壁を崩す。そこからギリシア軍がなだれ込んで、トロイを滅ぼす話になっている。
 阿刀田さんは考古学的、歴史的考証に注意を払ったとあとがきに書いてある。つまりシュリーマン等によって発掘されたトロイの遺跡は少なくとも九層からなっているらしく、その第七層がトロイ戦争があった頃の層だと推定されている。そしてトロイがもっとも栄えたのがその一つ前の第六層の都市時代だったらしい。その頃大きな地震があって堅牢を誇っていた城塞が崩れ落ちた。そこに第七層の都市が慌てて作られ、そのやわな城壁がギリシア軍に破られたというのが実情らしい。それを阿刀田さんは踏襲しているのである。でもやっぱり木馬はトロイの人が引き込んでしまい、そこに隠れていたギリシア軍が出てくる方がいいなぁ。
 とにかく再読してこんなに堪能しただけでも、読み返した甲斐があった。


評価
★★★★★


書誌
書名:新トロイア物語
著者:阿刀田 高
ISBN:9784062072205
出版社:講談社 (1994/11/30 出版)
版型:565p / 19cm / B6判
販売価:入手不可

Recent Entries

  1. 阿刀田高著『新トロイア物語』