2010年02月02日
有本紀明著『スペイン・聖と俗』
個人的なことを書けば、私は大学時代ヨーロッパ中世史に興味を持っていた。その関係で、778年シャルルマーニュのスペイン遠征から始まるレコンキスタ(Reconquista)というキリスト教国によるイベリア半島の再征服活動に興味を持っていたし、さらにサンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼なども一時興味があっていくつか調べたことがあった。
さらに大航海時代を走った国、その後の南米などへの植民地政策を進め、スペイン・ハプスブルク帝国による「太陽の沈まない国」とまで言われたこの国の面白さは今でも興味がある。もっと言えば、ゴヤやベラスケスといった宮廷画家のしたたかさなど私が知っているだけでも、今でも興味が尽きないところがある。かなり昔読んだ五木寛之さん『戒厳令の夜』などあれも三人のパブロフなど、あれも面白い作品だっただけに、連想して思い出す。
この本は司馬遼太郎さんの『街道を行く』の中で紹介されていた本で、その中でなかなか興味深い本だと司馬さんが書かれていて、それで買った。
読んでみて面白いなと思ったことはスペイン人が持つ民族性がその歴史から生まれたことがうまく書かれていて、なるほどと思った次第だ。イベリア半島にあるこの国は古来様々な民族がこの地を通ってきて、中には定着し、追い出されいった。ユダヤ人、ギリシア人、カルタゴ人、ローマ人、ゲルマン人、イスラム教徒等である。中でも、キリスト教徒とイスラム教徒の闘争は、最後にキリスト教徒の勝利で終わったことにより、この国がカトリックの守護国を任じ、伝統的主義の立場を取るようになって行く。ガチガチのカトリックであるこの国ならではの凄まじい異端審問の嵐が吹き荒れたのもそうした歴史的背景があったからだ。
「スペインが成立の時点からさまざまの要素の混合であることは前に見た通りである。特にユダヤ人、モーロ人とキリスト教徒の葛藤はスペインの歴史に、またスペイン人自身の肉体的・心理的特質に消すことのできない刻印を押している。キリストとマホメットの宗教戦争でスペインが条件づけられたように、ここから正統と異端という根本的二率背反が生まれた」
言ってみれば血の純潔をカトリックという立場で主張するとこういう歴史になっていったと言っていい。血の清浄を求めるがために、社会が歪んでいった。スペインが「太陽の沈まない国」から没落して、その他のヨーロッパ諸国が近代化の道に進んでいるのに、遅れを取った理由もここにある。
そしてスペイン人がスペイン人であることのアイデンティテーを求める余り、その民族性にも固定化が生まれていく。この本の「スペイン人罪」という章は、スペイン人が持っている気質を語っていて面白いのだが、そこにはスペイン人の自己中心的で、傲慢であり、特殊な超越主義で、私は私であることを徹底的に主張しつづける姿が例を挙げて書かれている。そのため外国文化に対する無関心でさえある。一方でというか、だからというべきかその妬みと嫉妬の激しさも指摘している。
「妬み、不服従、それに不和はスペイン人の烙印である。だからその産物である分離指向という癌、救世主的狂気、てんかん性政治的反動、またその社会的構造の停滞ということも容易に理解できよう」というカミロ・ホセ・セラという人の言葉をここで著者は挙げている。
ベラスケスが描く王一族の肖像画を見ていると、本来ならその華麗さを前面に感じていいはずのもが、どこかそこに描かれる人物たちのグロテスクさを先に感じてしまうのも、あるいはゴヤのように最高地位の宮廷画家であって、一方であのような風刺画や版画を描くのが、何となく理解できそうな感じがしてくる。ピカソやダリの自己主張の強さ、あるいはあくの強さもスペインでしか生まれなかったのではないかとさえ思えてくる。あるいは日本史で登場するイエズス会にしても、あの融通に気かなさはこのあたりに求められそうな気もしてしまう。
ただこの本が書かれたのが今から約30年ほど前だから、今はだいぶ変わってはいるのだろうけど、でもテロの話は度々耳にするから、どこかはこの当時と変わっていない部分があるのかもしれない。余裕があるならもう少しスペインについて知りたいところである。
評価
★★
書誌
書名:スペイン・聖と俗
著者:有本 紀明
ISBN:9784140014301
出版社:日本放送出版協会 (1983/01 出版)NHKブックス
版型:248, / 19cm / B6判
販売価:入手不可
- by kmoto
- at 15:58
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