2010年04月02日

マイ・シュ-ヴァル ペ-ル・ヴァ-ル-著『唾棄すべき男』

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 入院中の男が何者かに騎兵銃の銃剣で刺殺された。男は主任警部スティーグ・ニーマンであった。その刺殺死体は残虐そのものであった。
 マルティン・ベックはニーマンがどんな人物か調べ始めた。ニーマンに関してはベックの同僚コルベリが詳しかった。

 「きみの話を聞いていると、まるでスティーグ・ニーマンに関する生き字引みたいだ」

 「ああ、やつに関することなら、おれはあんたたちが知らないことも多少知っているとも。しかし、その話は後でいい。それよりまず、やつは最低の種類の警官、権威を笠にきた、無頼漢も同然の男だったことをはっきりさせとこうじゃないか。やつは警察全体の面よごしだよ。おれは同時代、同じ都市で、あんなやつと同じ釜のメシを食ったことを恥ずかしと思っているくらいなんだ」

 「“セレフからきた唾棄すべき男”、おれたちはやつをそう呼んでいたんだ」
 
 ベック等はニーマンの過去の捜査状況を調べていくと、ニーマンは自らの権力を笠に、民間人に対して、とんでもない行為に及んでいて、そのため法務省の護民官宛にニーマンに関する訴状が幾通も出てきた。その中に何通も訴状を出している巡査、オーケ・エリクソンがいた。
 ベックは同僚のフレドリック・メランデルを呼び出す。彼は伝説的な記憶の持ち主で、任意の特定の人間ないし主題について、自分が過去に聞いたり見たり読んだりした重要なデータを自在に選り分け、しかも淀みのない明瞭な語り口で説明出来る刑事であった。そのメランデルが言うエリクソンは次のようであった。
 彼の妻は糖尿病を患っており、いつもインシュリン注射器を持ち歩いていた。が、たまたま自分の子供を迎えに行くときその注射器を忘れてしまい、歩くことも出来ない状態になっていた。その時ニーマンがいた署の部下が彼女を麻薬で朦朧となっているか、泥酔していると勘違いし、警察に連れ込み、ニーマンは彼女を泥酔者用の独房にぶち込んでおけと命じた。そして彼女は独房で死亡した。
 以来エリクソンは人が変わり、ニーマンをはじめ誰彼構わず訴状を送るようになり、妻を殺したのは警察全体だと思うようになる。その後エリクソンは免職処分を受けた。エリクソンは射撃の名手であった。
 彼には一人娘がいたが、児童福祉局がその娘を彼から引き離した。エリクソンと一緒にいると娘の福祉上好ましくないという言う理由で。児童福祉局がそういう決定を下すに当たり、エリクソンの警察時代の上司に事情を聞き、それが決定的になった。何を隠そう児童福祉局の答申書に答えたのがニーマンであった。
 そして銃声が起こった。今まで何度かこのシリーズに出てきて、いつもドジを踏むパトロール警官で、グンヴァルト・ラーソンが「またお前等か!」と呆れる警官二人が射殺される。さらに警官が撃たれる。エリクソンは屋上から、警官を的にしてライフルで撃つ。 マルティン・ベックはニーマン刺殺事件を捜査しているうちに胸騒ぎを覚えていた。

 何か突拍子もないことが起きそうな気がしてならない。どんな犠牲を払ってでも阻止しなければならない突発事故が-

 とにかくベックたちはエリクソンのいる屋上に近づけない。しかしマルティン・ベックは自らが志願してエリクソンのいる屋上に上がり、撃たれてしまう。幸い弾はベックの身体を貫通し、出血のそれほどでなかったが、動けなくなる。ベックは自らの意識が遠のくなかで次のように思う。

 あの瞬間までベックは、自分はこの男を理解していると思っていた。この悲劇の責任の一半は自分にある、従って自分には彼に助けの手を差しのべる義務がある、と思っていた。けれども屋上の男は、もはやいかなる助けの手も届かない領域に入っていたのだ。この二十四時間のある時点で、彼は狂気の棲む世界、復讐と暴力と憎悪以外何物も存在しない世界に、決定的な一歩を踏み出してしまったのに相違ない。

 ベックを救助したのはコルベリとグンヴァルト・ラーソンであり、エリクソンは逮捕される。ただどうしてマルティン・ベックが一人でエリクソンに立ち向かわなければならなかったのか、しかも最終的にコルベリやラーソンが踏み込めたのだから、わざわざ一人で行く理由がないように思える。確かにベックはエリクソンがこうした事件を起こしたのはニーマンがいた警察であり、自分のその組織の中にいるのだから、責任の一端は自分にもあると思うのは分からないわけではないが、だからといってベックが一人でエリクソンと対峙するのは、これまでのマルティン・ベックらしくないように思えた。


評価
★★★


書誌
書名:唾棄すべき男
著者:マイ・シュ-ヴァル ペ-ル・ヴァ-ル-
ISBN:9784047910591
出版社:角川書店 (1980/09 出版)海外ベストセラ-・シリ-ズ
版型:247p / 20cm / B6判
販売価:入手不可

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