2010年05月26日
吉村昭著『三陸海岸大津波』
今年の2月27日チリで大地震があった。その地震により、津波が発生し、それが翌日日本に到達する事態となった。気象庁は日本沿岸でも最大3メートルの高さの津波が到着する恐れがあるという津波警報を発した。テレビでも1日津波警報が画面を占領した。最初は注意深くテレビを見ていたのだが、その警報が一日中画面から消えず、いつの間にかその警報がテレビの画面を占領していることが鬱陶しくなり、苛立った覚えがある。
結局津波は予測を下回り、同日午後に岩手県久慈港と高知県・須崎港で1.2メートルの津波が観測されただけであった。次の日からマスコミは気象庁の警報に問題があると非難し始め、気象庁も大津波警報が過大であったと謝罪し、今後の改善を表明したのであった。
一方で一日中警報が発せられ、避難勧告が出ていたにもかかわらず避難しなかった人が多くいたことも報道された。
この本は明治29年と昭和8年に三陸沖で起こった地震による津波の被害と、昭和35年チリで発生した地震による津波の被害を記録した本である。記録の仕方は、吉村さんが足で集めたものであった。
三陸沿岸は海底地震の頻発する場所を沖にひかえ、しかも南米大陸の地震津波の余波を受ける位置にある。しかもここはリアス式海岸という狭く入り組んだ海岸のため、そこに津波が押し寄せるとその威力を増幅させる地域であった。つまり本質的に津波の最大災害地としての条件を十分すぎるほど備えている地域であった。
明治29年の3月頃からこの地域では小さな地震が続いていており、井戸水が枯れたり、水位が下がったり、鰯の大群が連日押し寄せ、マグロの大漁が続くなど、異常現象が起こっていた。このことはよく聞かれる、大きな天災が起こる前の異常現象であろう。
6月15日は、日清戦争に従軍していた兵士たちの凱旋で、三陸の村々で祝賀式典が開かれ賑わっていた。しかもこの日は旧暦の端午の節句でもあり、多くの村民が集まっていた。
そんな中午後7時32分、小さな揺れを感じた。しかしその地震は三陸沖約150Kmを震源とするマグニチュード8.5という巨大地震だったのである。地震発生後約30分あとに津波の第一波がこの沿岸を襲う。津波が押し寄せる前には、海水が沿岸の海底がのぞくまで引き始め、今度は屏風のように立ち、山のように盛り上がり轟音とともに村をのみ込んでいったのであった。人々は「津波だ!、津波だ!」と叫びながら、それにのみ込まれないように必死に高台に逃げる。
津波の高さは10メートルとも、20メートルとも言われているが、吉村さんが村の古老に聞いた話から、その高さは50メートルにも及んだ可能性があると書いている。この津波による死者は26,360名になった。
昭和8年3月3日午前2時30分、岩手県沖250Kmの海底を震源とするM8.1の巨大地震が発生した。そしてこの時も地震発生後約30分後に巨大津波が押し寄せた。地震があった時間が夜中の2時ということもあって、人々は一端様子を見て、それほど異常がないことを確認し、また寝床に入っていたあと、津波が押し寄せたのである。
この時も明治29年と同じように鰯の大群が海岸近くに殺到し、各漁村は大漁に沸いた。例年三陸沿岸の鰯漁は11月いっぱいで終わるのだが、この時は年を越しても大漁が続く異常現象があった。井戸の渇水も各地で見られた。
この時の津波の高さも10メートルとも、20メートル以上とも記録がある。死者は2,995名であった。この本では、この時津波を体験した小学校の生徒が書いた作文がいくつか掲載されていて、津波と、そこから逃げる模様が描かれている。子供が書いた文章だけれど、子供の目で見た津波だけに、それだけリアルに感じられた。
昭和35年チリで大地震が起こり、その地震で津波がこの三陸沿岸に押し寄せた。当時人々は津波は地震の後にやってくるものと思っていた。実際昭和8年に起こった津波の後、県庁から出された「地震津波の心得」の中にも、地震があったら津波がくる恐れがあると警告している。また津波の前に必ず起こる異常現象がなかったことも、住民たちに地震がなくても津波が襲ってくるものだと思わせなかった。気象庁でさえ、チリで大地震が発生したことはつかんでいても、その地震のよる津波が太平洋沿岸に来襲するとは考えておらず、津波警報さえ発令しなかった。津波は22時間30分をかけてこの三陸沿岸にやって来たのである。それこそ住民たちが言うように「のっこ、のっことやって来た」のであった。ただこの時の津波による死者は105名と激減している。もうこの時には住民たちに津波の恐ろしさが認識され、津波防止の施設も沿岸に備えられていたからであった。
今年の2月の津波警報もこの時のチリの地震と同じである。幸い津波が小規模であったからよかったものの、中には津波の恐ろしさを忘れて、避難さえしなかった住民がいたことは、大きな問題であろう。過去に津波を甘く見て、大災害なった事実があるのだから、その点は考えないとならないような気がする。
マスコミもマスコミである。気象庁の警報が過大だったと非難する方にしか目が向かず、警告が出ているにもかかわらず避難しなかった人が多くいたことを問題視しない。馬鹿としか言いようがない。気象庁もわざわざ謝る必要などないと思う。問題はあったにしても警報は正しかったはずだ。後はその精度を高めてくれればいいだけのことだ。オオカミが来たと叫んで、本当にオオカミが来たとき、いったいどうするのだろうか?ここでも自己責任という言葉を持ち出して、勝手放題にさせるつもりなのだろうか?私もテレビの警報を鬱陶しく思ったことを反省した。
評価
★★★
書誌
書名:三陸海岸大津波
著者:吉村 昭
ISBN:9784167169404
出版社:文芸春秋 (2004/03/10 出版)文春文庫
版型:191p / 15cm / A6判
販売価:459円(税込)
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- by kmoto
- at 11:32
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