2010年07月25日

山口瞳著『山口瞳対談集』〈2〉

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 今回の対談の相手は、常盤新平、大橋巨泉、丸谷才一、瀬戸内晴美、王貞治、高橋義孝、吉行淳之介、杉本清・井崎脩五郎、嵐寛寿郎、野坂昭如、池波正太郎、小西得郎、中根千枝、村島健一、吉行淳之介・色川武大である。
 その中で一番興味深かったのは王貞治さんとの対談である。私は長嶋茂雄も嫌いじゃなかったけれど、長島はどこか“軽そうな”ところが鼻持ちならない時がある。それに比べれば王貞治というプレーヤーはバッティングフォームから、理論で固められた美しいフォームが好きだった。ホームランの軌道がきれいだった。長嶋に比べれば地味だったけれど、その分融通の利かない頑固さがあって、それが王さんの固い意志みたいなものが感じられ、ちゃらちゃらしていない分、好きだった。
 長嶋茂雄という選手はたぶん天才であり、王貞治という選手は努力の人を感じさせ、人格者を感じさせる。天才はなりたくてもなれないけれど、王さんは努力して、「世界の王」となった人と今も感じている。
 その王さんは結構おしゃべりで、バッターとして立ったとき、キャッチャーや審判に話しかけたり、一塁へ出た相手の選手と話したりしているのを山口さんは見ていて、その時何を話しているのか王さんに聞いている。そう言われれば、王さんはバッターボックスに立っているときや、一塁にいるときなど相手の選手によく話しかけていたと、思い出した。山口さんはよく見ている。
 その時何を話しているのか、と山口さんは聞いている。

山口 よくあなた、キャッチャーに話しかけるでしょ。

王 はい。

山口 何言っているんですか、あれ。

王 振った球がボールだったかストライクだったかとか。それから見逃したとき、自分ではストライクなのはわかっているのですけれど、あとどれくらいあるかとか。そういうことを確認したいわけです。キャッチャーに。というのは、審判に聞けませんから。

山口 いや、あなたはアンパイヤに話しかけませんか。

王 あれはですね、キャッチャー抜きで、今のは外したんじゃないかな、とかね、そういうことを聞くんです。

山口 え?

王 自分ではちょっと外れているんじゃないかと思うけどな、ということを。

山口 そういうことをアンパイヤに?

王 はい。僕も案外長くやっていますので、その点図々しくなりまして(笑)

山口 あれね、若いキャッチャーだとすくんじゃうんじゃないかという感じも受けるんです。あれは一つのテクニックじゃないかという感じも受けますけどね。

王 それだけに本当のことを言ってくれるようです。同じくらいの年齢でしたら、自分が実際打った球がボールだったとしても、キャッチャーが「いや、今のは入っていたよ」と言えば、次に同じような球が来たら、バッターは打たなきゃいけないわけですよね。ところが、「今のちょっと外れていたな」なんて言って、「ええ」なんて言われれば、次は、感覚的なちょっとしたものですけど、これは外れている、と見逃せるわけです。

山口 あなたね、一塁にいてですね、ランナーがフォアボールで来てまた話しかけるでしょ。

王 はい。

山口 あれは何言ってるんですか。

王 そうですね。「おい、元気か」とか、「誰々さんに会ったか」とか。長くやっていますと、いろんなつながりも出てきちゃいますしね。「だいぶ調子いいじゃないか」とか、「このごろ元気ないけど、どうしたんだ」とか、そういったことですね。

(略)

山口 だけどね、あなたの場合は何となく、そういう(行儀悪い)感じがしないんだね。

王 確かによく言われます。勝負の世界で、お互いに敵味方でしょう。でも、どうもこればっかりは長年の癖で。申し訳ありません(笑)

 なかなか面白い。若いキャッチャーが王さんに「今の球外れていたよな」と言われれば、世界の王さんである。それはすくんじゃったって不思議じゃない。正直なことを言っちゃうよな、と思う。逆に王さんの同年代のキャッチャーなら、バッターをだますことことも一つのテクニックだろうなと思う。
 我々はスタンドの上に設置されているテレビカメラからしか、野球を見られないから、こういう人間くさいやりとりがグランド内で行われていることを知ると、確かにこういうこともやっているだろうなと思う。一方で「やっぱり!」、と安心しちゃうし、それを聞くだけでクスクス笑いたくなる。心理戦というやつであろう。


評価
★★


書誌
書名:山口瞳対談集〈2〉
著者:山口 瞳【ほか著】
ISBN:9784846010140
出版社:論創社 (2009/09/30 出版)
版型:333p / 19cm / B6判
販売価:1,890円(税込)

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