2010年12月30日
東野圭吾著『どちらかが彼女を殺した』
まず事件のあらましを書いてみる。東京でOL生活をする和泉園子から愛知県に住む兄康正に電話がある。康正は園子の様子が変なので詳しく聞いてみると、園子は信じていた相手に裏切られた。信じられるのは結局兄だけだという。傷心した園子は実家に帰ると言った。康正は園子の帰りを待っていたが、帰って来ない。電話を入れてみても電話に出ない。不安を感じた康正は園子の部屋まで慌てて行くが、そこには感電自殺をしたと思われる園子の死体があった。
康正は愛知県の交通課の警官で、自らの仕事が自己の痕跡や状況から事故を推理する人間であったため、園子の部屋を見回して、園子は自殺ではなく、殺されたのだと確信する。ただ康正はそのまま警察に園子が死んでいること連絡しない。園子を殺した犯人を自ら捜し出し復讐しようとする。そのため地元の警察に連絡する前に、園子の部屋にあった証拠を隠してしまう。一通り証拠を確保した上で加賀恭一郎のいる警察に連絡する。
ここから康正と加賀の犯人捜しが始まる。ただ加賀は康正が隠し持っている証拠となるものが何であるのか、事件の謎と一緒に解かなければならないハンデがあった。
今までこのシリーズを読んできて、加賀恭一郎はいつも脇に置かれた感じで描かれる。むしろ犯人や事件関係者のその後の行動を描くことで、逆にしっぽをつかむ設定が多い。今回も康正の行動を監視しながら、自らが残ったものから事件の真相に迫っていく。
園子が自らの身体に貼り付けた、電源コードはキッチンで包丁を使って皮膜を削っていた。その際にその皮膜は、包丁に右側についていたことを確認し犯人は右利きであることを知る。また飲んだ睡眠薬袋の破り方が右利きの人間が破るやり方であった。園子は左利きである。加賀はこの時点で園子は自殺でないことを確信する。
では犯人は誰か。容疑者は二人あがってくる。一人は園子の親友であった弓場佳世子で、もう一人は佃潤一であった。園子は潤一を自らの恋人として親友の佳世子に紹介したが、潤一は園子から佳世子に鞍替えしてしまう。園子が信じていた相手に裏切られた、というのはこのことであった。
康正はいろいろ調べているうちにこの二人のいずれかが犯人であることを確信するが、特定はできない。加賀も同様であった。事件は最初潤一が園子に睡眠薬を飲ませ、自殺に見せかけて殺そうとしたが、そこに昔アダルトビデオに出演していたことを知った園子に脅された(裏切られたことの腹いせに)佳世子が来て鉢合わせになる。二人は一端園子を殺さず部屋をである。そのあと二人のうち一人がまた園子の部屋に入り、自殺を装って殺すのである。
この本は最後まで犯人を特定していないで終わっている。要するに読んでいる人間が考えろ、ということらしい。証拠となる物件、状況はとことん明らかにしているから、後は読者が考えればいいということになっている。なかなか面白い。得意のネットで調べてみると、犯人は佳世子だ、いや潤一だと意見が分かれているが、私は潤一だと思う。
問題は佳世子の利き手が右か左かである。この文庫には袋とじがあって、犯人捜しの手がかりを教えてくれるが、そこでも、また本文でも佳世子の利き手が曖昧だ。佳世子が右利きだと犯人の可能性があるが、それはわからない。ちなみに佳世子が園子の葬儀の時署名した時は右手で書いていたと書かれてはいる。ただこの場合園子と同じように普段の生活では矯正された右利きであったが、ふとしたことから本来の左利きに戻ることもあり得る。
この小説は最初ノベルズ版で発表されたもので、そこには佳世子が左手で睡眠薬の袋を破った書いてあるそうだ。しかし文庫版ではその一文は削除されていて、佳世子の利き手がわかりにくくしているので、余計に犯人の特定が難しくなっているという。確かにそうだ。もしこの文章が残されていたら、簡単に犯人が潤一だと特定できてしまう。
でも佳世子の利き手がわからなくても、園子の身体に貼り付けた電源コードを固定した絆創膏が、佳世子の身長では届かないところに置いてあった救急箱にあったこと。
さらに康正が園子の復讐のために佳世子と潤一を呼び、動けないようにしてから、園子と同じように電源コードを身体に貼り付けるた。最後になって加賀に説得された康正はヤケになってスイッチに指をかけた。そのとき「犯人は絶叫し、犯人でないほうも悲鳴をあげた」と書いてある。これを読んだとき私は絶叫するのは男の方で、悲鳴は普通女が上げるものだと思ったので、この時点で犯人は潤一だろうと思ったのである。
犯人を明らかにせず読む側に考えさせるものは、さっきも言ったように面白い。それこそ本当に犯人捜しをするかのように、読み終えても、もう一度必要な箇所を読み直し、あれこれ考えさせてくれる。こういう解答なきミステリーも“楽しみ”としていい。
評価
★★★
書誌
書名:どちらかが彼女を殺した
著者:東野 圭吾
ISBN:9784062645751
出版社:講談社 (1999/05/15 出版)講談社文庫
版型:355p / 15cm / A6判
販売価:619円(税込)
- Permalink
- by kmoto
- at 14:58
- Comments (0)
- Trackbacks (0)