2011年02月21日
横田増生著『潜入ルポ アマゾン・ドット・コム』
この本は単行本が出た頃読んでいる。それの文庫化だ。今回文庫化に当たり、単行本を第一部として収録し、第二部を「その後のアマゾン・ドット・コム」として大幅加筆している。私は本来単行本の文庫化なら絶対に買わない本であったが、その加筆された第二部が気になり、購入し読んでみた。
で、第一部は以前に感想を書いているので書き加えることはないかな、と思っていたが、以前の文章を読んでいると、肝心なことがうまく書かれていないような気がしたので、その部分だけ書き加えてみる。
著者がアマゾンの物流センターに潜入したのは、アマゾンの秘密主義から、詳しい情報が流れてこないからであった。アマゾンの情報統制はかなり厳しいものであるらしい。しかし著者はアマゾンのような「通販企業」にとっては、物流が中核業務となるので、必然秘密主義になっていくと書く。なぜなら顧客と直接対面する店舗を持たない通販企業にとって、物流こそがその接点となる。どの物流業者と組んで、どんなサービスを提供するかは、通販企業の成否をわけるほど重要な戦略だからである。「物流業務で同業他社との差別化を図ろうとする企業の常として、物流現場を公開することは滅多にない。物流先進企業にとって、物流センターは企業機密のぎっしり詰まった場所であり、その業務内容を知られることは企業のノウハウや経営内容を暴露するに等しい」からである。
そして物流部門は、商品開発や営業部門と比べると地味で野暮ったく、薄暗い倉庫で肉体労働をしているイメージであるが、業績好調な企業ほど、物流の重要性を認識し、また大切にしている。企業活動の背骨にあたる物流を軸に業務を組み立てていけば、無駄をなくした経営が可能なのである。
その物流部門のコストパフォーマンスを実行するに当たり多くのアルバイトが使われていた。「そこには、アマゾン社員を頂点にいただく、“カースト制”があった。トップのアマゾン社員の次には、センター運営を請け負う日本通運の社員がきて、その下にはアルバイト。さらに最下層には、入ったばかりのアルバイト見習いが控えるといった四階層から成り立っていた」のである。そのアルバイターが強いられる実態を著者は自らの体験ととも明らかにする。
コストパフォーマンスのためにはアルバイトを雇う側であるアマゾンや日通は人が長続きしないことを、露ほども気にしていない。ここではアルバイトとは、募集広告を打ちさえすれば、いくらでもやってくる、“使い捨ての人材”としか見ていない。だから毎週のようにアルバイト雇い入れる。
どんなに働いても、時給900円以上(後に850円に下がる)は上がらな。交通費はなし。2ヶ月の期間雇用で、それの更新で、社会保険料の負担を逃れるシステムである。当然働く側はモチベーションなど生まれるはずもなく、雇用主や仕事内容さえ無関心となる。コスト削減のため仕事がなければ就業時間の一方的な切り上げもあるが、それでもそれを仕方がないといって簡単に諦めてしまうのである。
著者は潜入時からその後もアマゾンを利用し、注文するごとにアマゾンの便利さを実感し、いつの間にか私はアマゾンにはまってしまった自分を見出す。けれど「同時に不思議な後ろめたさをぬぐうことができなかった。この便利さの裏側で、400人のアルバイトたちが私の注文した本を探して右往左往する姿を知っているからだ」と書く。
著者は独自に入手した2004年のアマゾンの内部資料から、次のように書く。
「アマゾンを利用する人の75%以上の世帯収入は、500万円を超えており、アマゾンの利用者の大多数は会社員だった。一方アルバイトの年収は200万円そこそこ。これでは、最新のパソコンを買うこともままならないし、さらにアルバイトという身分では、クレジットカードを持つことも難しい。
つまり、センターを這いずり回るようにして本を探す人と、自宅のパソコンから本を注文する人とは違う人たちなのだ。アマゾンの安くて迅速なサービスを享受する人と、それを可能にするために労働力を提供している人たちとは、ある意味別の階層に属している」
アマゾンのアルバイト待遇を実感して、著者は「<ワンクリック>の向こう側では、その要求に応えるために、たしかに誰かが働いている。ネット社会の便利さを享受することが、IT企業の舞台裏で働く人々の自尊心を損なうことと無関係ではなく、ひいてはわれわれの生活基盤である社会全体を不安定にしていくのかもしれない。われわれは、ときに立ちとまり、そのことを今一度思い返してみる必要があるのではないか」とも書く。
アマゾンで働くアルバイターは、待遇でも仕事内容でも人間性や社会性、そして“希望”さえ奪われながら働いている。そういう境遇に陥ったのが自業自得といえるかもしれないが、でもここ20年、そういう境遇に好きで陥った訳ではない人を多く生んできたのではないか、と思うことがある。“失われた20年”を取り戻すため、アメリカ的経営手法をどんどん取り入れていった結果、あぶれた労働力を生み、労働環境悪化させていく。それでも生きていくために働かざるを得ない以上、そうして悪化した労働条件を受け入れて、何とか働いていく。働く側に人間性の喪失が生まれても当然だ。日本の社会がおかしくなっていっても不思議じゃない。人と人の関係が労働環境に見られるような希薄さを反映している。そんな気がする。
こんなことを言ってもしょうがないのだろうが、私もアマゾンの利用者である。この本を再度読んで、注文を簡単にワンクリックできなくなってしまった。
さて気になる第二部である。第一部の最後にアマゾンとブックオフとの“黒い関係”を著者は疑って終えているので、それをまず追求する。著者は最初アマゾンがブックオフと取引関係が存在することで、ブックオフから中古本が新刊として流れているのではないか、と疑っている。しかしそうではなく、流れは逆でアマゾンからブックオフに本が流れていたのではないか、と考え始める。
それは“返品枠”という商慣習が絡んでいる。通常取次が本を卸すとき78掛けであるが、それをさらに引き下げれば当然利益率が上がる。そうして卸値を下げたとき、取次は交換条件として、返品を受け入れに条件をつける。これが“返品枠”である。これ以上返品出来ませんよ、というやつだ。アマゾンはこれを利用して卸値を下げる。けれど売れ残る場合がある。そこで売れ残った本を返品して正味を上げさせたくないため、売れ残った本を損を覚悟でブックオフに売りさばいたのではないか、と思い始めるのである。もちろんアマゾンもブックオフもこれに関してはノーコメントである。
でもこれを鬼の首を取ったように非難できるかどうか、よくわからない。少なくとも出版業界の“鬼っ子”であるブックオフの利用は読者だけでなく、出版業界でも噂が絶えないし、少なくと買い取った本や、自分の所で出した残った本を売りさばくことは、読者が本を売るのと同じと言えば言えなくもない。少なくとも書店の親父が、ブックオフ安く本を買ってきて、それを定価で返品する方が悪質である。(一時そういうことが行われている可能性があると言われていたが、今でもあるのだろうか?)
最後にマーケットプレイスの問題である。アマゾンは新刊を掲載している横で中古品として出品者から売りに出している同じ本を掲載している。これがマーケットプレイスである。これは簡単に出品できるらしい。自分のアカウントでサインインして、「マーケットプレイスに出品する」をクリックして、本のコンディションを選び、値段をつけるだけで、すぐネット古書店を開業出来るらしい。後は注文があれば、アマゾンからメールがあり、それを受けて本を出荷すればいいだけである。送料は出品者持ちである。問題はアマゾンへの手数料である。その構造は以下の通り。
1.売値の15%の手数料
2.古本を1冊売るごとに<カテゴリー成約料>80円
3.さらに1冊ごとに<基本成約料>100円
つまり出品者は、古本の売値と購入者が払う送料340円の内、実際にかかった送料の差額がまるまる手に入る訳ではない。まず本の売値の15%がアマゾンに持って行かれる。その上無条件で180円がアマゾンから徴収されるのである。
マーケットプレイスの売値を見ていると、売値1円というのが結構ある。これだとどうなるかと言えば、購入者が支払う金額は送料込めて341円となり、そのうちアマゾンの取り分が180円となり、出品者は残りの161円を受けとる。けれどここから本の送料を捻出しなければならない。ヤマト運輸のメール便で発送できれば80円か160円で発送できる。もし160円かかったとしても、とんとんとなるが、メール便には「厚さ2センチ」という制約があるらしい。となると本の梱包材を含めてしまうとこれに引っかかり、メール便が使えず、郵便で送ることになり、手元に残る160円以上かかり、持ち出しとなる。要するにネット古書店なんていってアマゾンで出品しても、利益など出ない仕組みなのである。
じゃあ、古本の売値から利益を出そうとしても、マーケットプレイスを見ればわかる通り、これも値下げの競争である。絶えず出品があり、売値をどんどん下げていく。出品者はいつもその売値の動向見ていなければならない。それが面倒なものだから、それを自動的に更新してくれるソフトもあるらしく、そのソフトのサービスを提供している会社もあるというから驚きである。
月に100万円を売り上げている強者もいるらしいが、これだって古本の仕入にあっちこっちにあるブックオフに車で回るガソリン代、本の送料や梱包材、それに伴う手間を考えれば、副業としてやっていけるものじゃないようだ。
それに反してアマゾンは自分ところで新刊を売るより、マーケットプレイスで売れた手数料の方が計算すると儲かることがわかってくる。何より自分の所で在庫を持たなくていいし、倉庫からピッキングするための人件費もかからないし、送料もかからない。まるまる純利益といっていい。下手をすれば、新刊を売るより倍儲かる可能性があるのである。
今はマーケットプレイスから本を買う場合送料が340円から250円に下がったので、アマゾンはカテゴリー成約料を80円から60円に下げた。(売値の15%の手数料と基本成約料100円はそのまま)こうなるとますます出品者の手取りが少なくなる。たとえば売値1円の本では、購入者送料のときは161円手元に残った。けれど送料250円だと、アマゾンの取り分が160円となっても、残るのは90円だけである。ここから本を購入者から捻出することは絶対に無理で、さらに出品者に負担をかけることなる。古本でもうけを出す場合は、その本の仕入値にすべて関わってくるが、1円じゃあどうしようもない。何にしてもアマゾンが儲かる仕組みは変わらないのである。
評価
★★★
書誌
書名:潜入ルポ アマゾン・ドット・コム
著者:
ISBN:9784022616845
出版社:朝日新聞出版 (2010/12/30 出版)朝日文庫
版型:437p / 15cm / A6判
販売価:924円(税込)
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- by kmoto
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